「独立・起業したい」——若手ハイクラスの方から、この相談を数多くいただきます。ただ、独立・起業はあくまで手段で、その先にある想いは人ぞれぞれです。
「青天井まで年収を上げていきたい人。」「時間・住む場所・業務内容の自由を得たい人。」「既存の大手企業をジャイアントキリングで打倒したい人。」
だからこそ、「どの業界が独立に近いか」から話を始めません。先にお聞きするのは、その先の想いです。
大手メーカーの法人営業として社内上位の成果を出していたAさんも、「いずれ独立したい」という相談から始まった一人でした。深くヒアリングをしていくと、組織の熟量や担当者の裁量が薄れていく組織への違和感、大企業の力ではなく自分自身が裁量をもって働いていきたいという想いが見えてきます。
橘自身、キーエンスで製造業向けの営業に従事していた経験があり、メーカー営業であるAさんの現職への不満には共感できる部分がありました。それでも、共感のまま提案に進むことはしません。独立の先に何を実現したいかは人によって違うからこそ、丁寧にヒアリングを重ねました。
| 転職前 | 決定した方向 | |
| 企業・業界 | 大手メーカー | 人材紹介会社 |
| 主な経験・役割 | 製造業向けの法人営業 | 求職者側を担当するキャリアアドバイザー |
| 今回の焦点 | 独立につながる業界を選びたい | 独立の「その先の想い」を言葉にし、想定外の選択肢へ |
出所:リメディの支援記録をもとに編集部作成。本人特定を防ぐため情報を一般化。
※候補者本人への公開インタビューではありません。リメディに残る支援記録をもとに、社名・時期・属性・数値を一般化して再構成しています。
ロジカルな営業マンの奥にあった「人と深く関わりたい」という信念
初対面のAさんは、非常にロジカルな営業マンでした。数字の組み立ても、条件の整理も淀みがありません。独立の話も、資金・人のつながり・自信をどこで積むかという問いに整理すれば、あとは業界選びに進めるように見えました。
ただ、ヒアリングを重ねていくうちに、Aさんが本当に重要視している感覚が鮮明になっていきます。「クライアントと、人間的な関係を築いていきたい。」深く入り込んだ顧客との関係が転勤で切れてしまう無力感。会社の看板や商品力ではなく、担当者個人を理由に選ばれた時の手応え。「あなたに聞けば分かる」と言われる関係を作ることが、仕事の面白さの中心にあったのです。Aさん自身が当たり前だと思っていた感覚を、橘は一つずつ言葉にして返していきました。「独立の相談」に見えた話の輪郭が、ここで初めてはっきりします。
想定していなかった選択肢——人材業界という答え
ご本人が当初関心を持ったのはM&A仲介、コンサルファームでした。独立との距離という一つの軸で、商流と稼ぎ方の違いを先に説明します。コンサルティングは顧客を開拓する側に立つほど独立と接続しやすい。M&A仲介はファイナンスの専門性や独立資金獲得に非常に優位でした。
最終的にご本人が選択した人材紹介は、当初想定していなかった選択肢でした。それでも、「人と深く関わり、個人として選ばれる」というAさんの感覚に、最も素直に重なる仕事でした。
徒底した面接対策——実績を「再現できる行動」に分解する
選考が本格化してからが本領でした。
まず履歴書と職務経歴書に赤を入れ、人材紹介の現場でそのまま再現できる営業力が伝わる書き方へ全面修正。続いて実績の分解です。社内上位の成果がありながら、Aさんは「大型案件を一件取れたから届いただけに見えるのでは」という不安を抱えていました。橘はその一件を偶然で終わらせないため、どの顧客を狙ったのか、なぜその担当者に当たったのか、訪問量をどう設計したのか——数字そのものではなく、数字が出た手順を一つずつ一緒に言語化しました。既存の対応を絵って新商品の紹介に時間を寄せたこと。前年に伸びていない先や他部門に押されている先を重点に置いたこと。設備の担当者ではなく、推進側の決裁に近い人を探したこと。後輩の指導で歩留まりを分解して改善した経験まで、本人が当たり前として扱っていた材料を拾い直しています。
転職理由も磨き直しました。当初の「顧客に最後まで伴走したい」という説明は、二つに絞られます。転勤で、深く入り込んだ顧客との関係が会社の都合で切れてしまうこと。会社の看板と商品力で選ばれる状態から、自分自身を商材として選ばれる営業に変わりたいこと。本音をそのまま置くのではなく、前向きの挑戦動機と現職への違和感を二段構えで並べる。橘は整理した内容をメモにして渡し、Aさんが自分の言葉で言えるようになるまで模擬面接を繰り返しました。面接対策の回数は約10回に及びました。
終盤に出てきた「転職先でも同じ物足りなさに戻らないか」という不安は、持ち帰らせず、最終面接で確かめる確認項目に変換しました。現場の責任者にどれだけ裁量が残っているか、担当者ごとの動き方の違いが成果に効く組織か。不安を質問に変えたことで、比較の材料がもう一つ増えました。
独立の時期は、あえて後ろへ。数年後の姿から逆算した
最後に残ったのは、人材紹介会社の中でも企業側と求職者側を一人で担う両面型か、担当を分ける分業型かという選択でした。Aさんの志向は前者。それでも承諾したのは、分業型の会社です。
決め手は、ビジナスモデルの違いだけではありませんでした。橘とAさんが確かめたのは、現職で違和感を抱えている部分です。ご本人は現職で「競合を倒すジャイアントキリング」に熱く燃えている方でした。その想いに強く共感した会社を選んでいます。会社が目指している像や、そのうえでどんなキャリアパスがあるのか、新規事業への関与をどこまで許容する風土か。エージェントを極めていくだけではない、その先の姿です。
ご本人の中で独立したいという想いのなかには、もちろん経済的自由・時間的な自由が欲しいという想いもありました。ただ一番は、組織一体となり業界を変革させることができるか、ジャイアントキリングができるか。この感覚は、「同じ土俵で勝ちたい」というより「自分が選んだ土俵で、自分の意思決定で勝ちたい」という、ご本人の原体験にもつながっていました。
独立を目標に掲げると、どの業界がそれに近いかから考えがちです。Aさんの転職が示すのは、その問いの立て方が最善とは限らないということです。手段の先にある想いをとことん言葉にした時、想定していなかった選択肢が、一番しっくりくる答えになることがあります。
「独立・起業したい。でも、その先に何を実現したいのかはまだ言葉になっていない」——そんな状態こそ、相談の始めどきです。
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