
監修者
リメディ株式会社 ヘッドハンター
飯田 貞大 | IIDA Sadahiro
早稲田大学を卒業後、三菱UFJ銀行に新卒入社。4年間の勤務期間でベンチャーから上場企業まで500社以上の法人を担当。また、オーナー社長の相続、事業承継提案や個人の資産形成提案等にも従事。その後、2020年4月にプルデンシャル生命保険に転職。2年半営業として社内表彰を受賞する等活躍。その後マネージャーに昇格し、新規の採用と育成に従事する中で、200名を超える転職相談を実施。現在は自身のキャリアチェンジの経験も踏まえ、ハイキャリア層への転職サポートを行う。
SAPコンサルと社内ERP企画は「誰の成果を持つか」で選ぶ
SAPコンサルと社内ERP企画のどちらへ進むかは、上流か下流かではなく、顧客の導入成果と、自社の事業成果のどちらに継続して責任を持ちたいかで判断します。複数の顧客に対して業務要件をSAPの設計・設定・移行へ変換したいならSAPコンサル、一社の投資優先順位、業務部門の合意、受入、本稼働後の改善まで持ちたいなら社内ERP企画が近い選択です。
両職種には要件定義、プロジェクト管理、ベンダー調整という共通語があります。そのため「要件定義を経験したから、どちらにも行ける」と工程だけで判断すると、入社後の役割とのずれが残ります。過去のSAP案件で誰に選択肢を示し、何を自分で決め、本稼働後にどの変化を確認したかまで棚卸ししてください。
| 判断軸 | SAPコンサル | 社内ERP企画 |
|---|---|---|
| 主な責任 | 顧客課題をSAP導入の成果物へ変える | 自社の投資・業務・統制をERPで改善する |
| 主な相手 | 顧客の業務部門、IT部門、導入チーム | 自社の事業部門、経営・管理部門、ベンダー |
| 時間軸 | 案件や契約の区切りごとに成果を出す | 導入前から本稼働後まで継続して成果を追う |
| 蓄積する強み | 複数顧客へ転用できる業務・SAP知見 | 一社の事業、業務、統制に接続した変革経験 |
| 転職時の主な証拠 | 提案、Fit-to-Standard、設定方針、移行・定着 | 投資判断、要求優先順位、受入、運用・改善 |
SAP Activateで分けると、両職種の責任が見える
SAP公式のSAP Activateは、Discover、Prepare、Explore、Realize、Deploy、Runの6フェーズで導入を整理しています。Runには運用、サポート、継続的な最適化が含まれるため、「本稼働したら導入は終わり」とは限りません。その上で、顧客の導入成果を主に支えるか、自社の業務成果をRun以降も追い続けるかが、転職先を選ぶ軸になります。
Exploreで行うFit-to-Standardでは、SAP標準プロセスと顧客の業務要件を照合し、標準で満たせない要件をバックログにまとめる流れです。SAPコンサルが担うのは、標準プロセスを示し、差分を設定・拡張・業務変更の選択肢にする役割です。社内ERP企画は事業の当事者として、どの業務を標準に合わせ、どの差別化要件を残すかを判断します。
| SAP Activate | SAPコンサルで示す証拠 | 社内ERP企画で示す証拠 |
|---|---|---|
| Discover・Prepare | 顧客課題の構造化、導入選択肢、スコープ案 | 投資目的、対象業務、事業部門の優先順位 |
| Explore | 標準プロセスのデモ、差分要件、設定・拡張案 | 標準化する業務、残す例外、デザイン受入 |
| Realize・Deploy | 設定、開発、テスト、移行、教育の品質 | 業務テスト、受入判定、切替判定、利用者展開 |
| Run | 定着支援、AMS、次案件に転用した知見 | 安定稼働、利用状況、変更要求、追加改修の優先順位 |
さらに、SAPのClean Coreは、標準プロセスだけでなく、拡張、データ、統合、運用の原則を含みます。転職面接では「アドオンを減らした」と結果だけを話すのではなく、標準に合わせた業務、拡張を認めた差別化要件、承認者、稼働後の管理方法まで説明してください。この判断過程は、両職種に共通して使える実務の証拠です。
公式求人に共通する仕事と異なる仕事
2026年8月に確認した公式求人のうち、SHIFTのSAPコンサルタント職では、S/4HANA導入・更新に伴う要件定義、CRP、設定、テスト、移行、プロジェクト管理支援が担当例です。NTTデータ グローバルソリューションズではアセスメント、PoC、移行の提案・PM、ロールアウト、アビームシステムズでは顧客の業務ニーズを起点とした構想から稼働後保守までが示されています。
一方、アスクルのSAPシステム企画職は、EC、物流、購買という基幹ビジネスを対象に企画・推進を担います。スクウェア・エニックスの基幹ERP担当では、安定運用、機能改善、業務要件の仕様化、ベンダー管理、技術選定が仕事です。セイコーエプソンはグローバルERP統一をサプライチェーン最適化と経営判断の加速に結びつけ、グロービスのコーポレートIT職はBPRと基幹系システムの企画から運用改善までを示しています。
共通するのは、業務を理解し、要求を整理し、関係者を動かして導入や改善を進める点です。異なるのは判断の起点です。SAPコンサルは顧客の意思決定を支えるために選択肢と影響を示します。社内ERP企画は自社の当事者として、複数部門の要求を投資目的や統制に照らして採否判断します。ただし、会社の内製方針や案件段階によって境界は変わるため、企業の種類だけで決めないことが重要です。
| 工程 | SAPコンサルでの問い | 社内ERP企画での問い |
|---|---|---|
| 構想 | 顧客課題をどの変革案へ落とすか | 自社は何に投資し、何を先送りするか |
| 要件定義 | 要求を標準機能・設定・追加開発へどう翻訳するか | 部門要求のうち、全社要件として何を採用するか |
| 導入 | 品質、期限、スコープをどう成立させるか | 業務側の受入と切替判断をどう成立させるか |
| 本稼働後 | 定着支援を終え、知見を次案件へどう生かすか | 品質、変更要求、利用状況、追加改修をどう改善し続けるか |
SAPコンサルが向く人は、顧客ごとの論点を早く構造化できる
SAPコンサルに向くのは、初めて会う顧客の業務でも、現状と目的を聞き、論点と選択肢を短期間で整理できる人です。特定企業の業務に深く詳しいことに加え、そこで得た知見を別の企業や業界へ移して使いたい人にも合います。FI、CO、SD、MM、PPなどのモジュール知識は入口になりますが、知識を使って顧客の判断を前へ進めた経験が選考上の証拠になります。
- 業務要求を整理し、標準機能、設定、追加開発の選択肢と影響を説明した
- CRP、テスト、データ移行、教育、カットオーバーの成果物を主担当として作った
- 顧客と意見が分かれた際に、期限、品質、運用負荷を示して合意を作った
- 一つの案件で得た知見を、別部門や別顧客の提案・設計に再利用した
反対に、同じ業務と利用者に長く向き合い、改善効果が出るまで自分で追いたい人は、案件が切り替わる働き方に物足りなさを感じるかもしれません。SAPコンサルの求人を見る際は、提案中心か導入中心か、担当モジュール、プライムか二次請けか、国内導入かグローバル展開か、稼働後支援の範囲まで確認しましょう。
社内ERP企画が向く人は、導入後も自社の判断を引き受けたい
社内ERP企画に向くのは、システム導入をゴールにせず、自社の業務成果と運用を長期で改善したい人です。事業部門から上がる要求をすべて採用するのではなく、投資対効果、全社標準、内部統制、運用負荷を踏まえて優先順位を決めます。ベンダーへ依頼する場合も、発注して終わりではなく、要件の具体化、成果物の評価、受入、本稼働後の変更管理までが役割です。
- 業務部門、経理、購買、物流など複数部門の要求を整理し、採否を決めた
- ベンダー選定、見積評価、設計レビュー、受入判定のいずれかを担当した
- 稼働後の品質、利用状況、変更要求、追加改修、教育を継続して改善した
- ERP投資の目的と成果を、経営または事業責任者へ説明した
社内ERP企画でも、導入期には移行、テスト、切替対応が仕事の中心です。求人タイトルが「IT企画」でも、実態が運用窓口中心の場合はあります。構想・企画に使う時間、意思決定できる範囲、ベンダーへの依存度、社内のSAP人員、本稼働後に追う指標を面接で確かめてください。
経歴別に見る、選びやすい転職ルート
SAP導入コンサル経験者
複数の導入案件で要件定義、設定、移行を経験してきた人は、SAPコンサル側で経験をそのまま評価されやすいでしょう。社内ERP企画へ移る場合は、顧客へ提案した事実だけでなく、業務部門の優先順位、ベンダー成果物の受入、稼働後の改善にどう関与したかを補います。「導入できる人」から「自社として導入後の判断を持てる人」へ説明を変える必要があります。
事業会社のキーユーザー・業務企画経験者
販売、購買、生産、会計などの業務責任者としてERP導入に参加した人は、社内ERP企画と相性があります。現場要求を集めただけでなく、標準化のために何を変え、どの例外を残し、利用者へどう定着させたかを示してください。SAPコンサルへ移るなら、自社固有の知識を、他社でも使える業務論点や成果物へ抽象化できるかが課題です。
SIerのSAPエンジニア・ABAP開発者
設計・開発経験が中心の人は、どちらへ進む場合も「何を作ったか」から「なぜその設計を選んだか」へ説明を広げます。SAPコンサル志望なら、業務要件の整理、標準機能との比較、顧客説明を強めることが課題です。社内ERP企画志望なら、変更要求の優先順位、受入、稼働後の品質や改善優先順位など、運用側の判断を示すと接続しやすくなります。
社内SEのSAP運用・保守経験者
定常運用や保守が中心でも、利用部門の課題を整理し、改善案件として企画した経験があれば社内ERP企画へ伸ばせるでしょう。SAPコンサルへ移る場合は、一社固有の手順を説明するだけでなく、問題の原因、選択肢、設計変更、関係者合意を再現可能な形で話してください。移行や新規導入の経験がなければ、現職で小規模な改修、ロールアウト、教育を主担当として持つことが準備になります。
| 現在の経験 | SAPコンサルへ示す証拠 | 社内ERP企画へ示す証拠 |
|---|---|---|
| 導入コンサル | 顧客提案、モジュール設計、移行・定着、案件間の再現性 | 要求優先順位、受入、稼働後改善への関与 |
| 業務部門・キーユーザー | 業務論点の一般化、要件・テスト成果物、ベンダー説明 | 業務改革、標準化、利用定着、部門合意 |
| SIer・開発 | 要求から設計への翻訳、顧客説明、Fit-to-Standard | 変更判断、品質・保守性、受入、運用負荷の改善 |
| 社内運用・保守 | 課題分析、改善設計、ロールアウト、教育 | 安定運用、利用状況、改善企画、ベンダー管理 |
職務経歴書は「担当工程」ではなく「判断と結果」で書く
「S/4HANA導入でMMの要件定義を担当」とだけ書くと、担当範囲は分かっても、採用後に任せられる責任が見えません。案件の背景、自分が持った判断、作った成果物、関係者、稼働後の結果を一組にします。数値を使う場合は、対象期間と自分の寄与を説明できるものに限ってください。
| 要素 | 書く内容 | 確認されること |
|---|---|---|
| 課題 | どの業務が、なぜ変革を必要としていたか | 業務理解と課題設定 |
| 判断 | 標準化、例外、追加開発、移行、優先順位をどう決めたか | 自律性とトレードオフ |
| 成果物 | 要件、設定方針、テスト、移行、教育、運用設計など | 入社後に再現できる実務 |
| 関係者 | 顧客、業務部門、経営、ベンダーとどう合意したか | 役割を越えて推進する力 |
| 稼働後 | 利用、品質、業務、改善状況がどう変化したか | 導入を成果につなげる姿勢 |
SAPコンサル向けには、「業務要求を整理し、標準機能と追加開発の選択肢を示し、顧客合意を得た」という流れを前に出します。社内ERP企画向けには、「部門要求を全社方針と運用負荷に照らして優先順位付けし、ベンダー成果物を受け入れ、本稼働後の改善まで進めた」と翻訳します。事実を変えるのではなく、応募先の責任と接続する部分を選ぶ作業です。
求人票と面接で確認したい7つの質問
求人票の職種名だけで判断せず、次の質問に対する答えを集めてください。担当者の説明が抽象的な場合は、現在進行中の案件を例に、誰が決め、誰が作り、誰が受け入れるのかを聞くと実態が見えてきます。
- 構想、要件定義、導入、本稼働後の各段階に、どの程度関与するか
- 標準機能と追加開発、全社標準と部門例外の最終判断者は誰か
- 自社社員、顧客、導入ベンダーの役割分担はどうなっているか
- 担当する業務領域・モジュールは固定か、案件ごとに変わるか
- 成果は期限・品質・収益で測るのか、業務KPI・利用定着で測るのか
- 本稼働後の品質、変更要求、追加改修、教育を誰が担当するか
- 入社後半年で期待される成果物と意思決定は何か
たとえば社内ERP企画を志望していても、実際の役割がベンダーとの定常調整に限られるなら、企画経験は増えにくい可能性があるでしょう。SAPコンサルを志望していても、担当が開発工程に固定され、顧客との要件整理や提案に入れないなら、期待する専門性とのずれが生じます。求人ごとに担当範囲を確かめてください。
今応募するか、現職で経験を一つ足すか
すでに応募先の責任に近い成果物を具体的に説明できるなら、求人を比較しながら応募準備を進められます。ここでいう成果物は、モジュール資格や在籍年数ではなく、要件、設定方針、移行計画、受入、改善提案など、自分の判断過程を説明できる実物です。守秘義務に配慮し、業界・企業名や数値を匿名化しても、状況、判断、結果の筋道は残せます。
不足があるなら、転職を諦めるのではなく、現職で隣接する責任を一つ取りに行きましょう。社内ERP企画を目指すSAPコンサルには、顧客の受入、運用設計、改善ロードマップへの関与が有効です。SAPコンサルを目指す社内SEは、ベンダーへ要求を渡す前の論点整理、標準機能との比較、移行・教育を主担当として持ってください。一つの責任を深く完了させた事実は、広く浅い補助経験より説明しやすい材料です。
| 状態 | 次の行動 |
|---|---|
| 応募先に近い判断と成果物を具体的に説明できる | 両職種の複数求人を比較し、責任範囲が合う方へ応募する |
| 工程経験はあるが判断を持っていない | 設計選択、要求優先順位、受入のいずれかを現職で担当する |
| 運用経験だけで導入経験がない | 改善案件、ロールアウト、教育、移行の一部を主担当にする |
| 導入経験はあるが本稼働後を知らない | 定着支援、利用状況の分析、追加改修の優先順位付けを経験する |
SAPコンサルと社内ERP企画に関するよくある質問
SAPコンサルから社内ERP企画へ転職できますか?
転職先の求人要件と、これまでの担当範囲が合えば候補になります。要件定義や導入経験に加えて、業務部門の要求優先順位、ベンダー成果物の受入、本稼働後の改善へ関与した事実を示すと、社内側の責任とつながります。顧客への提案だけで終わっている場合は、運用設計や定着支援の経験を補いましょう。
社内SEのSAP運用経験からSAPコンサルを目指せますか?
運用中の課題を分析し、要件、設計変更、テスト、利用者説明まで進めた経験があれば、応募先によっては接続できます。定常作業の件数を並べるだけでなく、問題を構造化し、選択肢を示し、関係者の合意を作った過程を説明してください。導入案件を求める求人には、ロールアウトや移行の経験を加える必要があります。
SAP資格があれば、どちらにも有利ですか?
資格は知識を示す一材料ですが、求人で求める実務責任の代わりにはなりません。SAPコンサルでは顧客課題を設計へ変換した経験、社内ERP企画では投資・要求・受入・運用を判断した経験が重要です。資格名とあわせて、その知識をどの案件判断に使ったかを示してください。
グループ内IT会社はどちらに分類されますか?
グループ内IT会社は、外部支援と社内企画の中間に位置する場合があります。グループ会社を顧客として導入成果に責任を持つのか、事業側と一体で投資・標準化・本稼働後の改善を持つのかを確認してください。所属会社の名称ではなく、意思決定権と成果物の利用者で分類します。
迷ったら、本稼働後に残りたい側を選ぶ
SAPコンサルと社内ERP企画は、SAPを使う点よりも、成果を持つ相手と時間軸が異なります。複数顧客の課題を導入成果へ変え、知見を横展開したいならSAPコンサルです。一社の業務、投資、統制に入り込み、本稼働後も改善を続けたいなら社内ERP企画です。
最後に、過去3案件について「課題」「自分が持った判断」「成果物」「本稼働後の変化」を書き出してください。そのうち説明しやすい列が、現在の強みです。不足する列は現職で補い、求人票では入社後に持てる意思決定を確認すると、肩書に引っ張られず転職先を選べます。

