
監修者
リメディ株式会社 ヘッドハンター
平岡 弦 | HIRAOKA Gen
慶應義塾大学卒業後、デロイトトーマツグループの有限責任監査法人トーマツに新卒入社。パブリックセクター部門にて、官公庁へのアドバイザリー業務に従事しつつ、大手事業会社のシステム導入案件や機関設計領域におけるコンサルティング案件に従事。パブリックセクター部門では官公庁を通し、スタートアップのエコシステム組成に貢献し、スタートアップへの伴走支援も行う。その後、ヘッドハンターファームである株式会社アサインに参画し、取締役直下の組織にて、ハイエンド層のキャリア支援を担う。前職のコンサルティング業界の知見を強みとしつつ、コンサルティング業界への支援を軸に専門領域を広げ、様々な方へのご支援を実現。その後、当社にヘッドハンティングをされ、入社を決意し、現在はシニアコンサルタントとしてM&Aアドバイザリーファーム、戦略・総合コンサルティングファームなどを中心とした転職サポートに従事。20代若手からエグゼクティブ層まで、幅広い支援を経験し、業界トップクラスの実績を誇る。
FASと投資銀行はどちらもM&Aに関わりますが、同じ案件で受け持つ問いは異なります。会計・監査・銀行・コンサルなどの経験を次の職場でどう生かすか。仕事内容と経歴のつながりを追うと、自分に合う選択肢が見えてきます。
本記事のポイント
| 迷い | FASが合いやすい状態 | 投資銀行が合いやすい状態 |
|---|---|---|
| 案件で担いたい役割 | 財務調査、企業価値評価、再生、統合などの専門工程を深めたい | M&A助言と株式・債券による資金調達を含め、経営陣へ選択肢を示したい |
| 今の強み | 会計基準、財務諸表、事業計画の検証、論点別の分析 | 企業・業界分析、経営層向け提案、案件推進、資本市場への理解 |
| 応募前の課題 | 専門作業の結果を経営判断へつないだ説明 | 厳しい期限下での成果と、M&A・資金調達への志望理由 |
選択の分かれ目は、FASと投資銀行のどちらが上かではなく、案件のどの問いに答えたいかという点です。対象会社の数字とリスクを解く仕事に軸足を置くならFAS、M&Aと資本市場を組み合わせた提案まで担うなら投資銀行が候補です。
FASと投資銀行は何が違うか
M&A案件の前後でFASと投資銀行を比べると、FASは財務調査、企業価値評価、事業再生、統合支援などを領域ごとの専門家として支えます。PwCアドバイザリーは、M&A・戦略コンサルタントの仕事をディール戦略、M&A、事業再生などを通じた企業価値向上の支援と説明しています。
投資銀行はM&A助言に加え、株式や社債などによる資金調達も対象です。ゴールドマン・サックスの公式社員紹介では、投資銀行部門をM&A関連のアドバイザリーと資本市場の機能に分け、企業の事業計画や財務状況を踏まえて取引を実行する仕事と説明しています。
| 比較軸 | FAS | 投資銀行 |
|---|---|---|
| 顧客から受ける主な問い | 対象会社の財務に何が潜み、価値や統合計画へどう影響するか | 買収・売却・資金調達のどの選択肢が経営戦略に合うか |
| 主な成果物 | 調査報告、価値評価、再生計画、統合論点 | 提案資料、企業価値評価、取引条件、資金調達案 |
| 専門性の作り方 | 財務調査、価値評価、再生など担当領域を掘る | 業界担当と商品・実行知識を組み合わせる |
M&A案件の工程で比べる
FASと投資銀行の違いは、会社名より案件工程で見ると明確です。同じ買収案件でも、FASは財務数値の裏側や事業計画の前提を検証し、投資銀行は取引全体の選択肢、相手方との進行、資金の手当てを組み立てます。
| 工程 | FASで担いやすい仕事 | 投資銀行で担いやすい仕事 |
|---|---|---|
| 方針検討 | 事業・財務面の論点整理、実行可能性の検証 | 買収、売却、提携、資金調達の選択肢提示 |
| 対象分析 | 財務調査、税務・事業チームとの連携、正常収益力の検討 | 企業・業界分析、企業価値評価、取引ストーリーの作成 |
| 交渉・実行 | 発見事項が価格・契約条件へ与える影響の説明 | 相手方との進行、条件調整、社内外関係者の統括 |
| 資金調達 | 計画数値や財務リスクの検証で支援 | 株式・債券などの調達方法を提案し実行 |
| 買収後 | 統合論点、収益改善、管理体制の整備を支援 | 次の経営・財務取引に向けた関係を継続 |
経歴別にどちらが合いやすいか
FASと投資銀行のどちらに応募するかは、経歴だけでは決まりません。ただし、すでに持つ証拠をどちらの仕事で早く使えるかを見ると、準備期間を見積もれます。次の表は採用を保証するものではなく、各社の公式採用情報を踏まえたリメディの見解です。
| 現在の経歴 | FASで示しやすい経験 | 投資銀行へ進むなら補いたい経験 |
|---|---|---|
| 監査・会計 | 財務諸表、会計論点、経営者・管理部門との確認 | 企業価値評価、業界分析、提案資料、取引全体への関与 |
| 銀行 | 融資審査、事業性評価、財務分析 | M&Aまたは資本市場案件、経営層向け提案、英語での実務 |
| 戦略・総合コンサル | 事業計画、調査、統合・再生プロジェクト | 財務モデル、企業価値評価、取引実行の具体例 |
| 事業会社の経営企画 | 買収検討、事業計画、統合、管理会計 | 外部顧客への提案、複数案件の実行、資本市場の理解 |
職種名より、担当した判断と自分の手で作った成果物を話せるかが重要です。たとえば監査経験者なら、確認した会計論点だけでなく、それが利益・運転資本・買収価格の議論へどうつながるかまで説明してください。
公式募集要項から見る評価経験
各社の採用・社員紹介情報を読むと、FASと投資銀行には分析だけで終わらないという共通点があります。PwCは戦略・ファイナンス・会計・法務・税務をまたぐ協働を説明し、ゴールドマン・サックスはM&Aや資金調達を経営判断として形にする仕事を示しています。
- FAS: 財務数値を調べる力に加え、発見事項が価格・契約・統合へ与える影響を伝える
- 投資銀行: 企業・業界分析に加え、経営戦略と取引手段を一つの提案にまとめる
- 共通: 厳しい期限の中で、複数の専門家と成果物の質をそろえる
応募先ごとに募集領域は変わります。FASなら財務調査、価値評価、再生、フォレンジックなどのどこを志望するか、投資銀行ならM&A助言と資本市場のどちらへ軸足を置くかまで確認してください。
年収と働き方は同じ条件で比べる
FASと投資銀行の年収は、会社、職位、担当領域、変動報酬で変わるため、職種名だけの平均比較では判断を誤ります。募集要項で基本給、賞与の決まり方、時間外手当、入社職位をそろえ、想定案件と昇進後の役割も面接で確認しましょう。
| 確認項目 | 質問例 |
|---|---|
| 報酬 | 固定給と変動報酬は、職位と個人評価でどう変わるか |
| 案件 | 直近の配属例で、若手が担当する分析・顧客対応は何か |
| 働き方 | 案件の山場、複数案件の持ち方、海外チームとの連携時間はどうか |
| 育成 | 入社後半年で求められる成果物とレビュー体制は何か |
FASから投資銀行、投資銀行からFASを目指す場合
FASと投資銀行を経験の連続性で捉え、FASから投資銀行を目指す場合は、担当領域の専門性だけでなく、取引全体を動かした経験が必要です。企業価値評価を作っただけで終えず、経営課題、相手方との条件、最終判断にどう使われたかを一続きで話せるようにします。資金調達への関心は、市場ニュースの感想ではなく、企業の財務方針を踏まえた提案として示してください。
投資銀行からFASへ移る場合は、案件を獲得・統括した経験に加え、自分が深く検証した論点を明らかにします。財務調査なら利益の質や運転資本、再生なら資金繰りと改善施策など、専門チームに任せた部分と自分の判断を分けて説明すると、入社後の再現性が伝わります。
応募前に案件経験を4列で棚卸しする
過去の案件を「分析・提案・交渉・実行管理」の4列に分けると、FASと投資銀行のどちらで使える証拠かを判別できます。案件名や金額を開示できない場合も、業界、取引の目的、自分の担当、判断への影響なら守秘義務に配慮して説明可能です。
| 列 | 書く内容 | FAS/投資銀行での使い分け |
|---|---|---|
| 分析 | どのデータから何を発見したか | FASでは検証の深さ、投資銀行では提案との接続を強調 |
| 提案 | 選択肢と判断基準をどう示したか | 顧客の経営課題に合わせて説明 |
| 交渉 | 利害の違う相手と何を調整したか | 自分の権限と工夫を分ける |
| 実行管理 | 期限、品質、関係者をどう動かしたか | 繁忙の説明ではなく成果物と判断で示す |
FASは部門ごとに仕事の深め方が違う
FASと投資銀行を比較する前に、FASを一つの職種として応募すると、入社後に作りたい専門性と配属先がずれることがあります。財務デューデリジェンスでは対象会社の収益力、運転資本、ネットデット、会計処理を検証し、発見事項が価格や契約条件へ与える影響を示してください。Corporate Financeでは企業価値評価やM&A助言を通じて、取引条件と意思決定に近い成果物を作ります。事業再生では資金繰り、事業計画、改善施策、債権者を含む利害調整が中心です。
| FASの領域 | 中心となる問い | 示したい経験 | 面接で確認する点 |
|---|---|---|---|
| 財務調査 | 対象会社の利益・運転資本・負債にどの論点があるか | 会計論点の特定、データ検証、経営者への確認 | 調査報告だけか、価格・契約の議論まで関与するか |
| 企業価値評価・FA | 事業計画をどう評価し、どの条件で取引するか | モデル、評価前提、経営層向け提案 | 評価と案件推進の担当範囲 |
| 事業再生 | 資金を維持しながら事業をどう立て直すか | 資金繰り、計画策定、金融機関・現場との調整 | 財務施策と事業施策の比重 |
| 統合支援 | 買収目的を組織・業務・数値へどう落とすか | PMI、業務設計、管理指標、関係者統括 | 取引前から統合後までの関与範囲 |
監査経験者が財務調査へ移る場合も、監査手続を繰り返す仕事ではありません。買い手の期限と目的を踏まえ、発見事項のうち何を優先して報告し、価格、補償条項、統合準備のどこへ反映するかを考えてください。その優先順位と反映先を説明できるかが、財務調査への適性を見極める材料です。銀行員が再生を選ぶ場合は、融資判断の経験を資金繰り計画と改善施策の実現可能性へ変換します。部門名より、現在の判断経験が次の成果物へつながるかを確認してください。
投資銀行はカバレッジと商品担当の連携で見る
投資銀行の求人では、M&Aという言葉だけで判断せず、業界担当と商品担当の分担を確認してください。カバレッジは担当企業の経営課題を継続的に把握し、M&A、株式、債券などの選択肢を組み合わせます。M&A担当は対象探索、価値評価、交渉、取引実行を深めます。資本市場担当は市場環境と投資家需要を踏まえ、発行条件と実行時期を組み立てます。
若手の企業分析や資料作成は、経営陣へ示す取引案の一部です。業界ニュースを集めるだけでなく、顧客の財務方針と競争環境から「なぜ今この取引なのか」を説明する必要があります。モデルを作る場合も、数字の正確さだけでなく、どの前提が取引条件を変えるかを理解します。顧客、社内審査、法務、会計士、弁護士が異なる論点を持つ中で、期限までに提案を成立させる役割です。
- 業界担当を狙うなら、担当業界の事業構造と経営課題を企業別に説明できるか
- M&A担当を狙うなら、価値評価、条件交渉、実行管理のどこを自分で担ったか
- 資本市場を狙うなら、企業の資金需要と市場条件を一つの提案へまとめられるか
- いずれも、厳しい期限で成果物の品質をどう保ったかを具体例で示せるか
同じ成果物でも評価される使い方が異なる
選考で「財務モデルを作った」「企業価値評価を経験した」という説明だけでは、FASと投資銀行のどちらに接続するか分かりません。FASでは、対象会社から受け取ったデータの整合性を確認し、事業計画の前提や財務リスクを検証した過程が重要です。投資銀行では、評価結果を買収・売却・資金調達の選択肢へつなぎ、顧客へどの条件を提案したかが問われます。
| 成果物 | FASで説明する焦点 | 投資銀行で説明する焦点 |
|---|---|---|
| 財務モデル | 入力データの検証、調整項目、感応度、リスク | 取引案、資金構成、条件比較、経営判断への利用 |
| 企業価値評価 | 事業計画の妥当性、評価手法、前提差の影響 | 交渉レンジ、取引条件、相手方への提示方法 |
| 経営層向け資料 | 発見事項と対応策を専門外の相手へ伝える | 複数の戦略・財務選択肢を比較して推奨案を示す |
| 案件管理表 | 専門チームの論点と報告期限を統合する | 顧客、相手方、社内外専門家の実行工程を統括する |
守秘義務がある案件でも、会社名や金額を出さずに再現性を示せます。「製造業の買収案件で、売上計上と運転資本の論点を特定し、価格調整の検討材料にした」「複数の資金調達案について財務制約と市場条件を比較し、経営会議向け資料を作った」のように、業界、目的、判断、成果物、利用者を分けてください。
監査・銀行・コンサル・事業会社で準備は変わる
監査経験者が両職種を比べる際は、会計基準の知識より、その論点が正常収益力、運転資本、買収価格へどう影響したかを説明してください。監査先との調整経験は顧客対応の証拠になりますが、取引目的と期限が違うため、買い手の意思決定から逆算して優先順位を変えた例があるとFASへ接続しやすくなります。投資銀行を狙うなら、業界分析、企業価値評価、提案の経験を追加で示してください。
銀行員は、融資審査や事業性評価を「返済可能性の判断」で終わらせず、企業価値、資本構成、経営戦略へ広げます。FASの再生領域なら資金繰り、保全、経営改善の経験がつながります。投資銀行ならM&Aやシンジケートローンなど複数部署を動かした経験、経営層へ選択肢を提案した経験が有効です。支店営業だけの場合は、本部案件への関与範囲を具体化します。
コンサル経験者は、調査や事業計画を財務・取引の判断へ接続した証拠が必要です。事業会社の経営企画経験者は、社内計画を作った事実に加え、投資案を比較し、経営会議で承認を得た過程を示してください。どの経歴でも、所属組織の知名度ではなく、自分が作った成果物と意思決定への影響が選考材料になります。
面接では希望部門と案件工程を一致させる
FASと投資銀行の志望理由は「M&Aに関わりたい」で止めず、どの工程で何を判断したいかまで述べます。FASの財務調査なら、会計・財務の検証を価格や契約条件へつなげたい理由を話します。企業価値評価なら、事業計画の前提と価値の関係を検討した経験を示してください。投資銀行なら、企業の戦略と財務を踏まえ、M&Aや資金調達の選択肢を経営陣へ提案したい理由を説明してください。
逆質問では「どんな案件がありますか」より、応募職位の担当範囲を確かめます。直近入社者が最初の半年で作る成果物、顧客会議へ出る条件、モデルと提案資料の分担、レビューを受ける相手を聞けば、求人票の抽象的な職務記述を日々の行動へ落とせます。FASでは部門間連携、投資銀行ではカバレッジと商品担当の連携も確認してください。
内定後は提示年収より経験の獲得経路を比べる
FASと投資銀行の提示条件を比べる際は、初年度の金額だけでなく、入社職位、評価期間、固定給と変動報酬、担当案件、昇進後の役割を同じ表に置きます。賞与の比重が違えば、提示年収が同じでも変動幅は同じではありません。残業手当の扱い、入社月による賞与算定、サインオンの条件も分け、継続的な報酬と一時的な支給を混ぜないようにします。
経験の獲得経路は、2年後に自分で説明できる案件工程から逆算します。FASで財務調査を深めるなら、価値評価や契約条件まで広げられるかを確認してください。投資銀行で業界担当へ入るなら、M&Aと資本市場のどちらを経験し、いつ顧客提案を担うかを確認してください。肩書や短期の条件だけでなく、次の転職でも通用する成果物が増えるかを判断基準にしてください。
経歴別のケースで応募先を絞る
FASと投資銀行を検討する製造業担当の監査経験者が、棚卸資産、売上計上、引当金の論点を検証してきた場合、FASの財務調査へは直接つながる部分があります。ただし監査は財務諸表の適正表示を目的とし、財務調査は買い手の投資判断期限の中で、正常収益力、運転資本、ネットデット、契約条件への影響を優先します。応募書類では会計論点を見つけた事実に加え、経営者への確認方法と利益・キャッシュへの影響を書いてください。
同じ監査経験者が投資銀行を狙うなら、企業価値評価、業界分析、取引推進の証拠を追加します。監査先の事業理解や経営者対応は土台になりますが、M&Aや資金調達の選択肢を提案した経験とは同じではありません。現職でIPOや組織再編へ関与する、FASで価値評価・FAへ担当を広げる、直接応募して不足工程を補う計画を示す、という経路を比較してください。
法人融資の銀行員は、財務分析、事業性評価、経営者折衝を持っています。FASの再生領域なら、資金繰り、返済計画、担保・保全、改善施策、金融機関調整へ接続します。投資銀行なら、顧客の資金需要を融資だけでなくM&A、株式、債券を含む選択肢として捉え、複数部署を動かした経験を示してください。「法人営業を担当」だけでなく、どの経営課題にどの選択肢を提示したかが、応募先を絞る材料です。
戦略コンサル経験者は、市場分析、事業計画、経営層向け提案が強みです。FASの戦略・統合領域なら買収目的、シナジー、PMIの経験がつながります。投資銀行なら財務モデル、企業価値評価、交渉・実行の責任を明らかにします。事業会社の経営企画経験者は、社内の投資審査を外部顧客にも再現できる分析・提案へ変換し、候補探索からPMIまでの担当範囲を工程別に示してください。
FASを選ばない方がよい状態
FASと投資銀行の選択では、専門工程を深める仕事より、案件獲得や経営層への総合提案を優先したい人もいます。調査・検証の成果物を自分で作ることに関心が持てない場合は、FASの日々の仕事とずれる可能性があります。財務調査では大量のデータと証憑を確認し、短い期限で論点を絞ります。価値評価では前提の整合性を検討し、モデルの変化を説明してください。再生では資金繰りと施策の実行可能性を繰り返し検証します。
「投資銀行へ行く前の経由地」という理由だけでFASを選ぶことも避けます。財務調査を経験しても、取引全体の提案、資本市場、顧客獲得が自動的に身につくわけではありません。FASを選ぶなら、そこで深めたい財務・価値・再生・統合の専門性が単独でも自分のキャリア目的になるかを確認してください。そのうえで将来投資銀行へ移るなら、案件推進と顧客提案を意識して担当範囲を広げます。
投資銀行を選ばない方がよい状態
FASと投資銀行を比べたとき、M&Aと資本市場の選択肢を経営陣へ示すより、一つの会計・事業論点を長く深く検証したい人は、FASの専門領域の方が合う可能性があります。投資銀行では企業分析やモデル作成だけでなく、顧客、相手方、社内審査、法務、会計士、弁護士を動かし、期限までに取引案を成立させます。分析の正確さだけを評価してほしい場合は、仕事の重心と一致しません。
会社や部門のブランド、案件規模、提示年収だけを理由に選ぶことも避けます。担当業界、カバレッジと商品担当の分担、ピッチと実行案件の比重、若手の顧客接点によって得られる経験は変わります。厳しい期限と同時案件を受け入れる代わりに、どの判断と成果物を得たいのかが明確でなければ、入社後の負荷をキャリア目的へ結びつけられません。
両方を受ける場合も志望理由を分ける
応募判断では、FASと投資銀行を同時に受けること自体は矛盾ではありませんが、同じ志望理由を使うと職務理解が浅く見えます。FASには、どの専門領域で何を検証し、その結果を企業価値や再生・統合へどうつなげたいかを示してください。投資銀行には、企業戦略と財務を踏まえ、M&A・株式・債券の選択肢を経営陣へ提案し、実行まで担いたい理由を示してください。
共通の案件経験を使う場合も焦点を変えます。事業会社の買収案件なら、FAS向けには事業計画の前提、財務リスク、価値評価、統合論点を説明してください。投資銀行向けには買収目的、代替案、相手方との条件、経営会議への提案、取引進行を説明してください。面接官が知りたいのはM&Aへの関心ではなく、応募部門で同じ判断を再現できる証拠です。
入社前に半年後の成果物を確認する
内定後は配属部門、職位、評価者、最初の成果物を確認してください。FASでは担当する専門領域、案件アサインの方法、部門間異動、顧客説明の機会、レビュー階層を尋ねてください。投資銀行では担当業界、カバレッジと商品担当の分担、英語を使う場面、海外チームとの連携、ピッチと実行案件の比重を尋ねてください。「成長できる環境」という説明を、半年後に自分が作る資料へ変換してください。
報酬、働き方、案件、育成は別々に評価します。高い提示額が希望案件への配属を保証するわけではなく、希望部門でも案件状況により担当工程は変わります。反対に初年度の条件だけで候補を外すと、早期に顧客説明や案件実行を任される機会を見落とします。譲れない条件と、面接・オファー面談で解消できる不確実性を分けて最終判断してください。
選考準備では代表案件を三つ選び、一つ目を分析の深さ、二つ目を顧客提案、三つ目を関係者を動かした経験の証拠にします。各案件を背景、課題、自分の判断、成果物、相手の意思決定、振り返りの順で整理し、チーム全体の実績と自分の寄与を分けます。FAS向けには検証した前提と発見事項の影響、投資銀行向けには作った選択肢と取引実行への接続を中心にします。
英語、会計資格、モデル経験も保有の有無だけで示しません。海外チームとの会議、英文資料、海外企業の調査、財務モデルの作成・レビューなど、案件で使った場面を示してください。実務経験がなければ、応募部門で必要な場面を面接で確認し、入社までに何を準備するかを具体化します。
公式採用ページと募集要項は、仕事内容、必要スキル、配属部門を対応させて読みます。同じFAS・投資銀行という名称でも、担当業界、専門領域、顧客接点、成果物は同じではありません。面接では求人の語を繰り返さず、自分の案件から同じ職務内容を再現できる証拠を示してください。
今どちらへ動くべきか
希望部門が決まり、過去2〜3案件について自分の判断と成果物を説明できる人は、募集要項を比較して応募準備へ進める段階です。一方、FAS内の領域が決まらない、投資銀行でM&Aと資本市場のどちらを狙うか定まらない、現職の案件名だけでは強みが伝わらない場合は、応募前に棚卸しを優先します。
次の職場で得たい肩書ではなく、2年後に一人で説明できる案件工程を選んでください。会計の深さ、経営提案、交渉、資本市場のうち、今ある証拠と次に増やす証拠がつながる方が、転職理由にも一貫性を持たせやすくなります。

