投資銀行への転職では、銀行の法人営業、監査法人、事業会社の経営企画・財務などで培った経験を使える求人があります。応募できる職種は、財務分析、企業価値評価、顧客への提案など、前職で担当した実務によって変わります。
企業の買収や資金調達を支えるには、分析・資料作成から顧客への提案、案件の進行管理までが必要です。入社後の役割、給与の構成、案件が重なる時期の働き方まで捉えると、希望する仕事と応募先の条件を結び付けられます。
この記事では、主に証券会社の投資銀行部門(IBD)を扱います。企業のM&Aや株式・社債による資金調達を支援する部門で、個人向け営業や株式の売買を担う職種は含めていません。

監修者
リメディ株式会社 ヘッドハンター
緒方 隆恭 | OGATA Takayuki
東京大学を卒業後、三菱UFJ銀行に新卒入社。国内支店でMUFGの各種金融ソリューションの法人営業に従事し、銀行表彰を受賞。入社3年目で海外拠点に異動・駐在し、現地進出日系企業への融資・預金・為替デリバティブ商品等の法人営業を担当。
その後、三菱UFJモルガン・スタンレー証券に出向し、投資銀行本部にてカバレッジ業務に従事。上場企業のM&A(TOB・経営統合等)やエクイティファイナンス(IPO・PO等)のオリジネーション(案件獲得活動)・エグゼキューション(案件執行)を経験。現在はハイキャリア層や金融プロフェッショナルを中心とした採用・転職支援を行う。
未経験からの転職で生かせる実務経験
投資銀行での勤務歴がなくても、財務分析や法人顧客への提案などの経験を生かせる募集があります。銀行、監査法人、FAS、事業会社などで担当した仕事が、入社後のどの業務につながるかが応募の出発点です。
| 前職の経験 | 接点のある仕事 | 補う知識・実務 |
|---|---|---|
| 銀行の法人営業・融資 | 企業分析、経営者への提案、資金調達 | 企業価値評価、株式・社債の仕組み |
| 監査・FAS | 会計分析、DD、企業価値評価 | 案件の進行管理、顧客への提案 |
| 経営企画・財務 | 事業計画、投資審査、資金繰り | 社外の顧客への説明、取引条件の検討 |
| コンサルティング | 市場分析、戦略・事業計画の検証 | 財務モデル、評価・調達の実務 |
未経験者枠でも、採用後に使う実務経験は求められます。応募時には希望業務を伝え、その業務で使える分析や顧客対応の経験を示します。
経験者向けの募集では、担当年数に加え、自ら進めた案件の範囲が問われます。公認会計士などの資格が歓迎されていても、資格だけでM&Aの実務経験を満たすことにはなりません。
銀行のM&Aアドバイザリーも関連する選択肢
証券会社のIBDに加え、銀行にもM&AのFA部門があります。FAは売手・買手の一方の依頼を受け、企業価値の分析や取引条件の交渉を支援する仕事です。
銀行のFA職は、証券会社のECM・DCMとは担当業務が異なります。M&Aを担当したい人にとっては、証券会社と銀行の両方が選択肢になります。
カバレッジ・M&A・ECM・DCMの仕事
投資銀行部門には、顧客企業を担当するカバレッジと、M&Aや資金調達の専門業務を担当するチームがあります。カバレッジが経営課題を聞き取り、専門チームと協力して提案や案件の実行を進めます。
| 職種 | 支援すること | 主な資料 |
|---|---|---|
| カバレッジ | 経営・財務課題に沿った提案 専門部署との調整 | 業界分析、財務比較、提案書 |
| M&A | 買収・売却の提案 企業価値評価、条件交渉の支援 | 評価モデル、候補企業の比較、進行表 |
| ECM 株式資本市場 | 株式による資金調達 | 発行株式数の試算、株主構成の分析 |
| DCM 債券資本市場 | 社債の発行条件・時期の提案 | 年限・金額・利率の検討、投資家需要 |
例えば、顧客が買収を検討しているなら、買収価格の分析だけでは提案が完成しません。代金の調達方法や、買収後の財務負担も検討します。M&A担当と資金調達の担当が協力する場面です。
企業の選択肢は投資銀行の主要企業をまとめた記事で確認できます。M&Aを扱う仕事の違いは、FASと投資銀行の比較、M&A仲介と投資銀行の比較で詳しく説明しています。
買収と資金調達で見る投資銀行の実務
上場企業A社が、事業拡大のためにB社の株式を100億円で取得する場面を考えます。A社が使える現預金を20億円とすると、外部から調達する金額は80億円です。
買収に必要なお金を、どう用意するか
買収代金100億円 = 手元の現預金20億円 + 外部から調達する80億円
カバレッジ担当がA社の経営方針や財務状況を聞き取り、M&A担当が買収対象の分析や交渉を支えます。残りの80億円を用意する方法には、社債の発行や新株発行などがあります。方法によって、利息や返済の負担、既存株主への影響が変わります。
社債を発行する場合:利息と返済額を計算する
額面80億円の社債を額面どおりに発行し、年利2%で調達すると、年間の利息は1.6億円です。満期に一括で返済する条件なら、その時点で80億円を用意する必要があります。
DCM担当は、市場の状況や投資家の需要を調べ、発行額や返済までの期間を検討します。A社の資金計画では、毎年の利息を払えるかに加え、満期に返済資金を用意できるか、借り換えが見込めるかも検討の対象です。
新株を発行する場合:株式数と持分比率を計算する
1株1,000円で80億円を集めるには、800万株を新たに発行します。発行前の株式数が4,000万株なら、発行後は4,800万株です。
400万株を持つ既存株主が新株を取得しなければ、持分比率は10%から約8.33%に下がります。ECM担当は、必要な資金を集められるかだけでなく、既存株主への影響や投資家の需要も踏まえて発行方法を提案します。
金利・発行価格を仮定し、手数料・税金を省略した説明用の例です。実際の調達方法には、銀行借入や複数の手段を組み合わせる方法もあります。
この案件でM&A担当が検討するのは、提示された100億円という価格の妥当性です。B社の業績見通し、類似企業の評価、買収で期待する効果などを分析し、価格交渉の根拠を用意します。
数値を扱う担当者には、資料間で前提をそろえる作業も欠かせません。買収価格を変えたのに調達額が据え置きになっていれば、資金計画にずれが生じます。正確な資料作成には、元データ、計算式、前提の変更がどの数字に影響するかを追う力も必要です。
社債による調達と元利金の支払いは日本証券業協会の解説、新株発行による持分比率の変化は日本取引所グループの解説でも説明されています。
固定給・賞与・初年度年収の違い
投資銀行の募集には、固定の年俸に賞与を加えるものと、基本給・成果報酬の合計で年収を示すものがあります。金額だけの比較では、毎月受け取る給与と業績で変わる部分の違いが見えません。
| 報酬の項目 | 決まり方 | 収入計画への影響 |
|---|---|---|
| 固定給・基本年俸 | 職位や経験に応じた金額 | 毎月受け取る収入の基礎 |
| 賞与・成果報酬 | 会社・部門・個人の評価など | 業績や評価で支給額が変わる |
| 初年度の条件 | 賞与の対象期間、個別の保証等 | 平年と初年度の年収に差が出る |
具体的な募集例では、三田証券のクロスボーダー案件の実行支援職は、基本年俸700万~2,000万円に賞与を加える条件です。海外M&Aや資本政策・資金調達を担う個別職種の金額で、賞与は全社・部門の利益と個人の貢献に応じて決まります。
転職した年は、平年と受け取る金額が変わることがあります。前職の賞与を受け取る前に退職し、入社先の賞与も在籍期間に応じた支給になると、固定給が増えても初年度の総額が減るためです。固定給の増減と、賞与の支給時期は分けて考えます。
年収を左右するのは会社の区分だけでなく、入社時の職位と責任の範囲です。分析や資料作成を担う役割から、顧客への提案、案件全体の管理へ進むと、評価される仕事も広がります。
日々の仕事と案件が重なる時期の働き方
日々の業務は、顧客との打合せ、その準備となる分析や資料作成、社内外との調整で構成されます。担当案件が複数あると、提出期限や会議の予定に合わせた作業の組み立てが必要です。
SMBC日興証券のECM社員の紹介では、朝にメールやチャットを読み、海外拠点から夜間に届いた連絡にも対応したうえで、資料作成や案件の実行支援、会議へ進む一日が描かれています。カバレッジの社員は、並行する案件の優先順位を決め、自分と後輩の作業を分担しながら、顧客対応や提案資料の作成を進めています。
提出期限が重なる時期には、複数案件の分析と資料修正を並行して進めます。案件の実行日が決まっていれば、条件調整を後日に持ち越せない場面もあります。海外との連携では、時差による夜間・早朝の対応が加わります。
ECMの社員は、資金調達案件の繁忙時期を数カ月前から見通せる一方、実行期限に向けて夜遅くまで働く日もあると説明しています。落ち着いた時期には定時で帰る日もあるという、繁閑の差がある働き方です。顧客の重要な取引に関わる経験を重視する人には魅力がある一方、毎日の退勤時刻を固定することを最優先する人には、こうした案件対応が負担になり得ます。
分析した内容が顧客の資金調達や買収に使われることは、この仕事の手応えです。その過程では、数値の整合性を繰り返し確かめ、関係者の指摘を資料に反映する作業にも時間を使います。企業の意思決定に関わる業務と、その判断を支える細かな実務の両方を担う仕事です。
経歴別に伝える経験と職務経歴書の記載例
「財務分析」「法人ビジネス」「資料作成」は、前職との接点を探しやすい実務です。応募書類には、読んだ資料、分析に基づく判断、提案した相手を具体的に記載します。
銀行の法人営業・融資担当
融資担当なら、顧客の決算書や資金繰りを分析した経験、経営者へのヒアリング、審査部門との調整を説明できます。
M&A職を目指す場合は、融資判断で扱った企業分析に加え、株式価値の評価や買収条件の考え方を学びます。融資の可否と株式の取得価格では判断の対象が異なるため、同じ財務諸表から何を読み取るかも変わります。銀行員が投資銀行へ直接応募する場合とFASを経由する場合も、希望業務に応じた選択肢です。
製造業の設備投資融資を担当。顧客が提出した販売計画を既存顧客別の受注状況と照合し、設備稼働が遅れた場合の資金繰りを試算した。審査部門への説明と顧客との協議を担当し、返済開始時期を含む融資条件を提案した。
職務経歴書の記載例(編集部作成)
事業会社の経営企画・財務担当
経営企画での中期計画、投資審査、買収検討の経験は、事業計画を評価する仕事につながります。候補企業の業績分析、計画の前提の検証、経営会議への報告など、自分が担った工程を示します。
財務担当であれば、資金繰り予測、借入交渉、社債発行、株式による調達のうち、実際に担当した業務を記載します。投資銀行で助言する相手は顧客企業なので、自社の事情を知らない相手にも、判断の根拠が伝わる説明が必要です。
国内同業の買収検討で、候補企業の売上・営業利益の推移と、顧客別の売上構成を分析した。事業部が見込んだ販売拡大の効果について、対象顧客と実現までの期間を聞き取り、経営会議向けの検討資料に反映した。担当範囲は候補企業の分析と事業計画の検証。
職務経歴書の記載例(編集部作成)
公認会計士・監査法人出身者
監査で扱った論点を説明すると、財務諸表や会計処理への理解を伝えられます。担当した科目、検討した会計上の論点、顧客との協議内容を具体的に記載します。資格名だけでは、どの業種や財務課題を扱ったかまでは伝わりません。
例えば売掛金の回収可能性を検討した経験があれば、滞留状況や入金実績をどう調べたかを説明できます。企業価値評価に進むには、将来のキャッシュフロー予測と評価額を算出する実務も学習対象です。公認会計士から投資銀行への転職ルートでは、直接応募とFAS経由の違いを扱っています。
応募候補を探す際は、「投資銀行」のキーワードに加え、M&Aアドバイザリーやカバレッジなどの職種名でも募集を探せます。求人ごとの業務内容と必須経験を踏まえ、担当した実務を説明できるポジションから候補を絞ります。
面接に向けた志望動機と財務の準備
現職の経験から志望業務までを説明する
志望動機では、現職で経験した場面と、投資銀行で担当したい業務をつなげます。「企業の成長を支援したい」にとどまると、法人融資や経営企画にも当てはまるため、転職先としてその職種を選んだ理由が伝わりません。
法人融資で、顧客が事業拡大のために同業の買収を検討する場面を経験しました。私は資金繰りの分析を担当しましたが、今後は買収対象の評価や取引条件の検討にも関わりたいと考えています。M&Aアドバイザリーを志望し、企業価値評価と財務モデルの作成を学んでいます。
志望動機の文例(編集部作成)
カバレッジ志望なら、継続して顧客を担当し、M&Aと資金調達を組み合わせた提案に関わりたい理由が志望動機の中心になります。特定の取引への専門性を深めたいM&A職とは、志望する仕事が異なります。
財務数値を計算し、前提が変わる影響を説明する
財務の学習では、損益計算書・貸借対照表・キャッシュフロー計算書のつながりから始めます。例えば、掛売上が増えても、代金の回収前なら現金は増えません。利益と資金繰りに差が生じる理由を説明できることが、事業計画や調達額を理解するための基礎です。
M&A志望なら、DCF法などによる企業価値評価を学びます。DCF法は将来のキャッシュフローを現在価値に割り引く方法です。売上成長率や利益率を変えると予測するキャッシュフローが変わり、同じ企業でも評価額が変わります。計算結果に加え、採用した前提の根拠まで説明する練習が必要です。(参考:PwCによる企業価値評価の解説)
計算の練習では、売上が計画を下回った場合に、利益だけでなく在庫や売掛金、必要な資金調達額がどう変わるかを説明します。過去の数値から予測の前提を作り、その前提を変えて結果を読み取るところまで進めると、モデルを作成した経験を具体的に話せます。
英語の準備は応募先の要件に合わせる
みずほ証券の投資銀行部門・未経験者採用では、高い英語力は歓迎条件で、入社時の必須条件ではありません。金融機関、コンサル、監査法人、大手事業会社等での実務経験と、投資銀行業務への高い関心を求めています。
野村證券のM&A Bankerは、M&A未経験者にも企業財務分析・企業価値評価等の経験とビジネスレベルの英語力を求めています。英語で企業資料を読み、分析結果を説明する仕事を想定した準備が必要です。
前職の経験をどの職種で使うか、実務の不足をどう補うかが整理できると、応募書類と面接で伝える内容も具体的になります。リメディでは、応募候補の検討から職務経歴書・面接の準備まで、これまでの経験と希望に沿って相談できます。
入社時の職位と、その後のキャリア
中途採用の職位は、投資銀行の実務をどこまで担えるかによって設定されます。前職の役職名に加え、企業価値評価、顧客への提案、案件の進行管理などの経験が、入社後の担当範囲を考える材料になります。
実務の習熟に伴い、資料の一部を作る役割から、分析の目的を捉えて提案を組み立て、顧客に説明する役割へと担当範囲が広がります。SMBC日興証券の社員紹介でも、経験を積むにつれて顧客への説明を任されるようになった経過や、アソシエイトとして後輩の作業を分担する様子が紹介されています。資料の正確性に加え、案件全体を見て仕事を進める力も必要です。
事業会社の経営企画・M&A担当への展開
事業会社の経営企画・M&A担当では、資本政策や買収検討に加え、買収後の統合(PMI)、グループ会社の管理、予算や事業運営にも継続して関わります。投資銀行で培った企業分析や取引経験を自社の経営判断とその後の実行に生かし、事業部との調整も担いたい人が検討できる進路です。
PEファンドで投資判断に関わる進路
PEファンドを目指す場合は、買収対象の分析や企業価値評価に加え、投資後の収益改善と売却まで含めた投資判断の学習が必要です。投資銀行の中でも、M&A、カバレッジ、ECM、DCMでは扱う実務が異なるため、担当案件から説明できる経験も変わります。投資銀行からPEファンドへの転職では、職種ごとの経験と選考準備を詳しく説明しています。
投資銀行への転職に関するよくある質問
30代から投資銀行へ未経験で転職できますか?
投資銀行での勤務経験がなくても、銀行の法人営業、事業会社の財務、監査などの関連経験を応募条件に含む募集が候補です。経験者向けの案件実行職と未経験者向けの募集では、入社時に担う仕事が異なります。30代という年齢だけでは可否は決まらず、担当した分析や顧客提案を生かせる職位があるかが分かれ目です。
英語や会計士資格がないと応募できませんか?
英語や公認会計士資格を一律に必須とする業界ではありません。英語を必須としない募集や、資格より関連実務を条件とする募集もあります。クロスボーダー案件を扱う職種で英語が必須なら、資格だけでは代わりになりません。準備では、応募する職種の財務分析・提案・英語のうち、現在の業務で使っていない部分に時間を充てると、仕事内容に結び付いた学習になります。
FASを経由してから投資銀行を目指す方がよいですか?
すでに応募条件を満たす求人があれば、直接応募する選択肢があります。財務DDや企業価値評価の経験を先に積みたい場合は、FASも候補です。PwCアドバイザリーのサービスにもこれらの業務がありますが、担当領域によって積める経験は変わります。例えばM&Aの価値評価を補いたいなら、その業務を担当する募集かが重要です。FASという会社の分類だけでは、希望する経験を積めるかまでは分かりません。
入社時に役職や年収が下がることはありますか?
職種を変える場合は、現在の役職名や年収がそのまま引き継がれるとは限りません。管理職経験があっても、投資銀行の案件実行をどこまで担えるかによって募集職位との対応は変わります。報酬についても固定年俸と成果報酬では確実性が異なり、前年の賞与込み年収と提示された固定年俸だけでは、同じ条件の比較になりません。役割、固定額、変動部分の条件をそろえると、転職後に何が変わるかを把握できます。
転職前の案件を、守秘義務に触れずに説明するにはどうすればよいですか?
開示してよい範囲で、自分の担当工程や分析の方法を説明します。顧客名を伏せても、業種・時期・金額の組み合わせで案件を特定できる場合には、その情報も省きます。例えば「設備投資の資金調達に際し、売上計画と返済原資を分析した」という形です。社内資料を持ち出す必要はありません。数値を出せない案件でも、前提の置き方、検討した選択肢、関係者との調整を示せば、担当業務を具体的に伝えられます。
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企業や部門の候補を広げる段階では主要企業の一覧、現職からの移り方を考える段階では職歴別の転職ルートが参考になります。

