
監修者
リメディ株式会社 ヘッドハンター
平岡 弦 | HIRAOKA Gen
慶應義塾大学卒業後、デロイトトーマツグループの有限責任監査法人トーマツに新卒入社。パブリックセクター部門にて、官公庁へのアドバイザリー業務に従事しつつ、大手事業会社のシステム導入案件や機関設計領域におけるコンサルティング案件に従事。パブリックセクター部門では官公庁を通し、スタートアップのエコシステム組成に貢献し、スタートアップへの伴走支援も行う。その後、ヘッドハンターファームである株式会社アサインに参画し、取締役直下の組織にて、ハイエンド層のキャリア支援を担う。前職のコンサルティング業界の知見を強みとしつつ、コンサルティング業界への支援を軸に専門領域を広げ、様々な方へのご支援を実現。その後、当社にヘッドハンティングをされ、入社を決意し、現在はシニアコンサルタントとしてM&Aアドバイザリーファーム、戦略・総合コンサルティングファームなどを中心とした転職サポートに従事。20代若手からエグゼクティブ層まで、幅広い支援を経験し、業界トップクラスの実績を誇る。
2026年8月時点の募集要項から見ると、公認会計士がFASの面接で示すべきなのは、資格そのものよりも、監査で得た事実を投資判断へつなげる力です。監査手続や会計基準の説明で止めず、その論点が買収価格、契約条件、資金繰り、再発防止をどう変えるかまで話せる準備が必要です。
本記事のポイント
公認会計士はFASの面接で何を見られるか?
会計知識に加え、事業への理解、M&Aの局面、短時間で重要論点を選ぶ力、経営者との協議経験が見られると考えられます。募集要項では、財務デューデリジェンスだけでなく、価値評価、事業計画、利害関係者調整など部門ごとに異なる仕事が示されています。
監査法人からFASを志望する理由はどう話すか?
監査を否定せず、第三者として事実を確かめる力を土台に、取引前の意思決定や取引後の実行まで責任範囲を広げたいと話します。応募部門の仕事と、監査で経験した具体的な論点を一つにつなげることが要点です。
面接前に最低限何を準備するか?
応募部門の業務を一枚にまとめ、監査案件を二件、六つの要素で話せるようにします。さらに、上場企業一社の財務情報から正常収益力、運転資本、純有利子負債、事業計画の疑問点を挙げる練習を行います。
| 面接前の判断 | 結論 | 準備物 |
|---|---|---|
| 資格の見せ方 | 入口の要件として短く示す | 登録状況、監査年数、担当業種 |
| 経験の見せ方 | 会計論点が経営・取引判断へ与えた影響まで話す | 案件メモ二件 |
| 部門の選び方 | 財務調査、価値評価、再生、フォレンジックを混同しない | 応募部門の業務一覧 |
| 不足経験 | 隠さず、補い方と期限を示す | 学習・実務補強計画 |
公認会計士のFAS面接は「監査の先」を説明する
公認会計士の面接回答は、監査で何を確認したかではなく、確認した事実をFASで何に使うかまで進めると伝わります。監査は財務報告に十分な証拠を集め、重要な虚偽表示がないかを判断する仕事です。FASでは同じ財務情報を、買収の可否や価格、契約条件、再生施策へ使います。
| 観点 | 監査での出口 | FASでの出口 | 面接で加える一文 |
|---|---|---|---|
| 売上の異常 | 計上時期・実在性を確かめる | 正常収益力と価格への影響を考える | 一過性か継続性があるかを確認したい |
| 運転資本 | 残高と評価の妥当性を確かめる | 平常水準と価格調整への影響を考える | 季節性と取引条件まで分解したい |
| 事業計画 | 減損等の会計判断を検討する | 価値・資金繰り・再生施策を検討する | 数量、単価、固定費の前提を検証したい |
| 不正兆候 | 財務報告への影響を判断する | 事実認定、損失、再発防止を支援する | 証拠保全と調査範囲を分けて考えたい |
この違いを語れれば、「監査以外も経験したい」という曖昧な志望理由を避けられます。監査は土台、FASは判断の用途と分け、現職を下げないことも大切です。
応募部門で監査経験の使い方が変わる
FASという名前だけで応募先をまとめると、志望動機と経験がずれます。KPMG FASの募集要項だけでも、財務デューデリジェンス、M&A助言・価値評価、事業再生、不正調査では職務内容が異なります。自分の監査経験が最初に価値を出せる領域を一つ選びましょう。
| 応募領域 | 監査経験の接点 | 不足しやすい点 | 面接で話す案件 |
|---|---|---|---|
| 財務デューデリジェンス | 残高・取引・会計論点の検証 | 価格・契約条件への含意 | 売上、原価、運転資本を深掘りした案件 |
| 価値評価・FA | 減損、企業結合、事業計画 | 財務モデル、交渉、案件全体の推進 | 予測前提を経営者と議論した案件 |
| 事業再生 | 継続企業、資金繰り、減損 | 施策設計、PL・BS・CF計画、利害調整 | 厳しい見通しを経営層へ伝えた案件 |
| フォレンジック | 不正リスク、内部統制、証拠 | 調査設計、危機対応、再発防止 | 兆候から追加手続へ広げた案件 |
複数領域に関心があっても、第一志望は決めます。たとえば減損の経験を、価値評価では予測CFと感応度へ、再生では資金繰りと施策へつなげます。同じ案件でも、応募部門によって結論を変えるのが準備の要です。
募集要項から分かる6つの評価ポイント
各社が面接評価項目をすべて公開しているわけではありません。ただし、職務内容と応募要件を見れば、準備すべき能力は絞れます。以下は公式情報から整理したリメディの見解です。
| 評価ポイント | 確認される内容 | 根拠になる経験 |
|---|---|---|
| 会計・財務 | 数字の意味とリスクを説明できるか | 重要会計論点、増減分析、見積りの検討 |
| 事業理解 | 数字が動く事業上の理由を考えられるか | 経営者質問、業務プロセス理解、業界分析 |
| 取引理解 | 調査結果が価格や契約へ与える影響を考えられるか | M&A・再編・減損・企業結合の経験 |
| 重要論点の選択 | 短期間で調べる順番を決められるか | 重要性評価、リスク対応、監査計画 |
| 顧客との協議 | 異なる見解を証拠で詰め、結論を伝えられるか | 経営者、監査役、専門家との協議 |
| 不足の補い方 | M&A実行、モデル、英語等の課題を自覚しているか | 学習、社内異動、案件参加の計画 |
資格は会計・財務の入口を示します。しかし、事業理解や顧客との協議まで自動的に証明するものではありません。資格名の後に案件の行動と結論を置くのが要点です。
監査経験は六つの要素に絞って話す
監査案件を時系列で詳しく説明すると、手続の話が長くなります。面接では「対象、違和感、追加証拠、事業上の意味、協議、結論」の六つに絞ります。守秘義務に配慮して社名や未公表数値を伏せても、判断過程の具体化は可能です。
- 対象:業種、担当科目、自分の役割を示す
- 違和感:どの数字・説明から疑問を持ったかを示す
- 追加証拠:何を追加で入手し、誰に質問したかを示す
- 事業上の意味:収益性、キャッシュ、継続性への影響を示す
- 協議:相手の反論と、自分が用いた根拠を示す
- 結論:修正、開示、統制改善など実際の着地を示す
FASへの接続は最後に一文だけ加えます。「この経験を、買収対象の正常収益力と価格への影響を特定する仕事に生かしたい」のように、応募領域の成果物まで言い切るのが要点です。
公認会計士に想定される質問と回答の組み立て方
質問を暗記するのではなく、募集要項の仕事から深掘りを作ります。回答は結論から始め、監査案件の具体例、FASでの再現方法、不足経験の補い方で閉じます。
| 評価基準 | 深掘り質問 | 良い回答の構造 | 避けたい回答 | 準備資料 |
|---|---|---|---|---|
| 志望理由 | なぜ監査ではなくFASか | 監査で得た力→広げたい責任→応募部門の仕事 | 監査に飽きた、報酬が高い | 志望理由一枚 |
| 部門理解 | なぜ財務調査/価値評価/再生/不正調査か | 部門の成果物→接続する案件→不足の補強 | どの部門でも成長できそう | 部門比較表 |
| 会計論点 | 難しい判断をどう進めたか | 違和感→証拠→事業上の意味→協議→結論 | 基準と手続の列挙 | 案件メモ二件 |
| 重要性判断 | 短期間なら何から調べるか | 取引目的→重要指標→仮説→追加資料 | すべて同じ深さで調べる | 財務ミニケース |
| 顧客対応 | 見解が対立した場面は何か | 対立点→相手の根拠→追加証拠→合意 | 丁寧に説明した | 関係者メモ |
| 弱点 | M&A実行経験がない点をどう補うか | 不足を認める→必要な場面→現在の補強→入社後の初動 | 会計士なので問題ない | 90日学習計画 |
財務デューデリジェンス型の課題に備える
財務デューデリジェンスを志望する場合、計算の速さだけでなく、買い手が先に知るべき論点を選ぶ練習が有効です。PwCの会計士向け公式資料は、資料の閲覧・基礎分析、対象会社への質問、報告、クライアントへの説明という工程を示しています。
| 論点 | 最初に見るもの | 追加質問 | 取引判断への接続 |
|---|---|---|---|
| 正常収益力 | 月次売上、粗利、例外取引 | 一過性取引、値上げ、顧客離脱 | 将来利益と価格の前提 |
| 運転資本 | 売掛金、在庫、買掛金の月次推移 | 季節性、滞留、取引条件変更 | 平常水準と価格調整 |
| 純有利子負債 | 借入、現預金、類似債務項目 | リース、未払、偶発事項 | 株式価値への調整 |
| 事業計画 | 数量、単価、人員、設備投資 | 過去実績との差、実行責任者 | 価値と資金需要 |
練習では、有価証券報告書の数字を精密に当てる必要はありません。「買い手の目的が何か」「追加で何が必要か」「結果がどの判断を変えるか」の順で声に出します。前提が足りなければ、勝手に置かず質問する姿勢も評価材料になります。
面接で弱くなる回答を直す
公認会計士の回答が弱くなる原因は、知識不足よりも説明の焦点です。資格、会計基準、監査手続を前に出しすぎると、FASで顧客の意思決定を支える姿が見えません。
| 弱い見せ方 | 問題 | 直し方 |
|---|---|---|
| 資格があるので即戦力です | 部門固有の不足経験が見えない | 生かせる案件と、モデル・交渉等の不足を分ける |
| 監査より経営に近い仕事がしたい | 監査を下げ、FASの仕事も曖昧 | 第三者検証を土台に、取引前の判断へ範囲を広げると話す |
| 守秘義務で話せません | 判断過程まで抽象化する | 社名・金額を伏せ、違和感、証拠、協議、結論を話す |
| 会計基準ではこうです | 取引・事業への含意がない | 利益、キャッシュ、価格、契約のどれが変わるかを加える |
| FAS全般に関心があります | 部門選択の理由がない | 第一志望と、そこに接続する監査案件を示す |
職務経歴書と面接回答を一致させる
職務経歴書に「監査チームの一員」とだけ書き、面接で主導経験を話すと役割がずれます。書類と回答では、主語、対象、重要性、自分の行動、結論の五点が基準です。KPMG FASのCorporate FinanceとTransaction Servicesは履歴書・職務経歴書に加え、志望動機書の提出も案内しています。
| 照合項目 | 職務経歴書 | 面接 |
|---|---|---|
| 主語 | 自分が担当した範囲を明記 | チーム成果と自分の行動を分ける |
| 重要性 | なぜその論点を優先したかを書く | 他の論点より先に調べた理由を話す |
| 協議 | 関係者と論点を簡潔に書く | 反論、追加証拠、合意まで話す |
| 結論 | 実際の着地だけを書く | 学びとFASでの再現方法を加える |
数字を入れる場合は、面接で説明でき、守秘義務に抵触しない実績だけを使います。架空の金額や案件規模を例文から借りてはいけません。
面接7日前からの準備計画
一週間で全領域を学び直すより、応募部門と案件二件に絞る方が効果的です。最終日は新しい知識を増やさず、書類とのずれと回答時間を確認します。
| 時期 | 準備 | 完成条件 |
|---|---|---|
| 7〜6日前 | 募集要項とサービス説明を読み、応募部門の成果物を一枚化 | 他部門との違いを一分で説明できる |
| 5〜4日前 | 監査案件二件を六つの要素で整理 | 各案件を二分以内で話せる |
| 3日前 | 上場企業一社で財務ミニケース | 四論点と追加質問を示せる |
| 2日前 | 志望理由、弱点、逆質問を声に出す | 監査を下げず、部門の仕事に接続できる |
| 前日 | 職務経歴書との照合、守秘情報の確認 | 主語・数値・結論に矛盾がない |
監査経験はFAS面接用のSTARへ組み替える
STARで話す目的は、監査手続を順番に再現することではありません。FASの面接官が、限られた情報と時間の中で論点を選び、相手の判断につなげられる人かを確認できるようにします。監査基準上の結論と、取引・企業価値に対する自分の考察は分けてください。
| STAR | 監査経験から選ぶ内容 | FAS面接での注意点 |
|---|---|---|
| Situation | 会社・取引・決算の状況と、判断を難しくした制約 | 守秘情報を伏せても論点が分かる粒度にする |
| Task | チームの目的ではなく、自分が負った確認・調整・レビュー責任 | 上司や専門家の判断を自分の成果に含めない |
| Action | 仮説、追加確認、関係者との合意、優先順位の付け方 | 手続名の列挙より、なぜその順番で調べたかを示す |
| Result | 修正、開示、監査方針、経営者との合意など実際に変わったこと | FASなら価格・契約・統合へどう影響し得るかは考察として分ける |
一つのエピソードにすべてを詰め込まず、売上、棚卸資産、減損、不正対応など論点の異なる案件を用意します。財務デューデリジェンスを志望するなら正常収益力や運転資本、バリュエーションなら事業計画の前提、再生なら資金繰りへの接点を考えます。ただし、実際の監査で担っていない分析をActionやResultに置かないでください。
監査調書の説明をクライアントの判断言語に変える
監査法人では、手続の網羅性、証拠の十分性、会計処理の妥当性を調書に残します。FASのクライアントが知りたいのは、その論点が取引を進めるか、価格を変えるか、契約で保護するか、取引後に改善するかです。面接では、手続で分かった事実と、その事実が次の判断をどう変えたかを一組にする構成が有効です。
| 監査で使う説明 | FAS面接で追加する判断 | 追加で確認したい事実 |
|---|---|---|
| 売上計上の期間帰属を確認した | 一過性売上を正常収益力から分ける | 契約条件、納品、返品、翌期の受注 |
| 棚卸資産の評価を検討した | 滅価だけでなく、運転資本と追加資金需要への影響を考える | 滞留期間、販売見込み、仕入条件、季節性 |
| 減損テストの前提を検討した | 事業計画の実行可能性とダウンサイドを価格・資金繰りに反映する | 数量、単価、人員、設備投資、実行責任者 |
| 不正リスクに追加手続を実施した | 事実認定、損失、取引継続、再発防止の判断に分ける | 証拠保全、影響範囲、関係者、統制上の原因 |
例えば、「売上の期間帰属を確認し、修正を依頼した」で終わらせず、「一過性の取引が翌期の収益前提にも反映されていたため、FASでは正常収益力と事業計画の両方に影響する論点として追加調査したい」と続けます。監査で実際に確認した範囲と、FASなら追加したい判断を区別すれば、経験を過大に見せず志向を伝えられます。
職階別に面接で示す責任を変える
同じ会計士でも、スタッフとマネージャーで話すべき責任は異なります。スタッフ層は、論点を発見し、証拠を集め、上位者に適切に報告した過程を中心にします。シニア層では、複数メンバーの調書を統合し、重要論点の優先順位を変え、顧客と協議した経験が中心です。マネージャー層は、監査計画、予算・日程、専門家の利用、経営者・監査役等との合意を含む案件全体の責任を話します。
| 現職の役割 | 面接の主語 | FASでの再現方法 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| スタッフ | 自分が発見し、調べ、報告した行動 | 財務資料の基礎分析と追加質問に接続 | チーム全体の結果を自分の成果にしない |
| シニア | メンバーの分析をまとめ、重要論点を選んだ判断 | DDワークストリームの管理と報告へ接続 | 自分が直接確認した事実とレビュー結果を分ける |
| マネージャー | 予算、日程、品質、顧客合意を統合した責任 | 複数論点の優先順位とクライアント報告に接続 | 管理経験だけでなく、自ら判断した論点を示す |
役割を大きく見せる必要はありません。スタッフであっても、疑問を持った数字、追加で取得した証拠、上位者への報告、結論への反映が一連で話せれば、重要論点を正しくエスカレーションできることを示せます。
応募領域ごとに追加準備を一つ絞る
会計士資格と監査経験は多くのFAS業務に接点がありますが、どの部門でも同じ準備でよいわけではありません。財務調査は、月次データから一過性項目と運転資本の変動要因を見つけ、追加質問を作る練習が優先です。価値評価は、事業計画の数量・単価・コストの前提を分解し、前提が変わったときの方向を説明する練習が必要です。再生は、損益だけでなく資金繰り、施策、実行責任者、利害関係者への影響を一体で考えます。
- 財務調査:月次の売上・粗利・運転資本から、追加質問を十個作る。
- 価値評価:公開情報の事業計画を数量・単価・コストに分け、最も不確実な前提を一つ選ぶ。
- 事業再生:一年分の簡易資金繰りを作り、支払いと施策の優先順位を言語化する。
- フォレンジック:不正兆候を起点に、証拠保全、調査範囲、関係者の順で初動を組み立てる。
複数の領域を広く勉強するより、応募部門で最初に必要な成果物を一つ完成させる方が、志望理由と実務理解が結びつきます。その成果物では不明な前提を勝手に置かず、「この資料があれば判断を更新する」と言えることも大切です。
逆質問で初期配属と品質責任を確かめる
逆質問は、働き方だけでなく、会計士としての強みをどの案件で生かし、どの責任を新たに負うかを確かめる場です。「会計士はどの部門に多いですか」ではなく、「監査で売上・運転資本を担当した人が、入社後半年でクライアントに報告できるまで、どの成果物を段階的に担当しますか」と聞くと、初期の役割と成長経路を具体化できます。
- 中途入社者が最初に主担当になる成果物は何か。
- 財務調査と価値評価の連携で、会計士にどの範囲を期待するか。
- クライアント報告の前に、どのような品質レビューを受けるか。
- 初期配属では、案件の期限と優先順位をどのように決め、入社後にどの支援を受けられるか。
- 会計論点と事業・取引論点の判断が分かれたとき、チームでどう合意するか。
FAS面接に向いているのは、監査で得た証拠と判断を、取引の価格・契約・資金繰り・再発防止の言語に変えられる人です。一方、会計士資格のみで即戦力を示そうとし、事業理解・取引理解・顧客協議の不足を分けられない場合は、先に応募部門の成果物を一つ作る準備が必要です。
面接当日の回答を三層で管理する
面接当日は、「結論」「根拠となる監査案件」「FASでの再現方法」の三層で回答します。最初の結論は一文で十分です。次に、対象、違和感、追加証拠、協議、結論を一つの監査案件で示す構成です。最後に、財務調査なら正常収益力や運転資本、価値評価なら事業計画と感応度、再生なら資金繰りと施策へどう使うかを話します。この順序なら、会計基準の説明が長くなることを避け、面接官が知りたい「その事実を取引判断にどう使うか」へ早く到達できます。
深掘りを受けたら、新しい案件を追加するのではなく、同じ案件の当時の前提、検討した別案、相手の反論、追加証拠を広げます。分からないことは、「当時はここまでを担当し、以降はマネージャーの判断でした。FASで同様の論点を担う場合は、追加で契約条件と価格への影響を確認します」と境界を明示します。経験を広く見せることより、担当範囲を正確に示し、次の判断に必要な情報を言えることが信頼につながります。
回答時間は丸暗記せず、一分版と三分版を用意します。一分版は結論、違和感、行動、結果まで。三分版は相手の反論、検討した別案、FASでの追加分析を加えます。面接官が財務調査、価値評価、再生のどの視点で深掘りしたかに応じて、同じ監査案件の焦点を変えます。これにより、準備した言葉を一方的に話すのではなく、応募部門の関心に合わせて判断過程を示せます。
応募先ごとに、募集要項の職務内容を三つ選び、自分の監査案件、現在の不足、入社後の初動を対応させた表が有効です。この対応表が埋まらない場合は、志望理由が企業名やブランドに偏っている可能性があります。面接前に、財務調査、価値評価、再生、フォレンジックのどの成果物に貢献したいかを絞ることが重要です。
完成した対応表は職務経歴書と模擬面接の共通の照合表として使い、回答ごとの主語と根拠をずらさないようにします。
面接終了後は、答えられなかった質問を「知識」「自分の経験」「応募部門の理解」に分けます。知識なら公式資料で確認し、経験なら追加証拠と自分の担当範囲を再整理し、部門理解なら募集要項の成果物と回答を照合します。「すべての質問に流暢に答える」ことを目標にせず、自分が確認した事実と推論の境界を守りながら、必要な追加情報を言える状態を作りましょう。
自分で進められるケースと相談したいケース
応募部門が決まり、案件二件を具体的に話せるなら、まずは自分で模擬回答を録音して修正できます。財務調査の志望者なら、正常収益力や運転資本の追加質問まで用意してください。
第三者に確認してもらう価値が高いのは、財務調査と価値評価で迷う、守秘義務に配慮すると回答が抽象的になる、職務経歴書と面接で話す案件が一致しない場合です。相談時は求人名を広く伝えるより、応募部門と不足経験を一つずつ持ち込みます。
公認会計士からFASの面接でよくある迷い
監査でM&A案件を担当していなくても応募できるか
M&A実行の経験がないことと、FASで生かせる財務・会計の基礎がないことは別です。募集要項が会計士資格や監査経験を対象にする部門では、売上、運転資本、事業計画、不正リスクなど、応募業務と直接接続する案件を選びます。その上で、価格・契約・交渉の実務は未経験と明示し、何をどの期限で補うかを話します。
英語やモデリングの不足はどう話すか
「入社後に学びます」では、現在地も行動も分かりません。英語なら英文財務資料の読解、英文メール、会議のどこまで対応したかを分け、次に必要な場面を示します。モデリングなら、減損テストや事業計画の前提検討で扱った範囲と、自分が組んだフリーキャッシュフロー・感応度分析の範囲を分けます。学習中の教材名より、完成した成果物と説明できない前提を示す方が確実です。
希望部門を一つに決めきれない場合はどうするか
面接では第一志望を決め、第二志望との違いを一文で説明できる状態が必要です。例えば、売上・運転資本の監査経験から財務調査を第一とし、減損・事業計画の経験もあるため価値評価にも関心がある、と順位を付けます。「どこでも成長できる」という理由は避け、第一志望の成果物と自分の案件を一対一で結ぶのが要点です。
守秘義務に配慮しても回答を具体化できるか
社名、未公表の数値、特定できる取引条件を伏せても、判断過程は具体化できます。業種、自分の職階、担当科目、最初の違和感、追加証拠、協議相手、最終的な会計・開示・統制の結論を順に話します。数字を示す場合は、公開情報か、事前に開示可否を確認した相対値のみにします。「話せない」で終わらず、公開できる判断の骨格を準備しましょう。
監査を辞めたい理由はどこまで話すか
働き方やキャリア上の課題は隠す必要はありませんが、志望理由の中心には置きません。「繁忙だから」で終わると、転職によって広げたい責任が伝わりません。監査で培った第三者検証を土台に、取引前の意思決定や取引後の実行まで責任範囲を広げたいと話し、その理由を応募部門の成果物に結びます。

