東京大学を卒業後、三菱UFJ銀行に新卒入社。国内支店でMUFGの各種金融ソリューションの法人営業に従事し、銀行表彰を受賞。入社3年目で海外拠点に異動・駐在し、現地進出日系企業への融資・預金・為替デリバティブ商品等の法人営業を担当。その後、三菱UFJモルガン・スタンレー証券に出向し、投資銀行本部にてカバレッジ業務に従事。上場企業のM&A(TOB・経営統合等)やエクイティファイナンス(IPO・PO等)のオリジネーション(案件獲得活動)・エグゼキューション(案件執行)を経験。現在はハイキャリア層や金融プロフェッショナルを中心とした採用・転職支援を行う。
財務DD・バリュエーション・FA・事業再生のどの部門で経験を積んだかで、FASの次に狙える職場は変わります。公式の募集要項を見ると、PEファンドのアソシエイト層でDD・監査などの経験3年以上、事業会社のM&A推進で5年程度、FASのシニアマネージャー以上で概ね8年以上を応募条件に置く例があります。部門と出口の対応表、職位ごとの役割の変化を並べたので、今の経験でどこへ進めるか、何を足してから動くかを判断する材料にしてください。
主な対象は、FASに内定している人と、FASに在籍中の会計士・金融機関出身者です。これからFASへの応募を考えている人は、FASの転職難易度と経歴別の可能性を先に確認すると、入口と出口を続けて考えられます。
本記事のポイント
| 項目 | 要点 |
|---|---|
| 出口を左右するもの | 入社した部門で積んだ経験と、到達した職位。DD・バリュエーションはPEの投資検討、FAは投資銀行・事業会社のM&A実行、事業再生はファンドの価値向上や経営企画に近い |
| 職位の段階 | アナリスト/アソシエイト→シニアアソシエイト→マネージャー→ディレクター→パートナーの順に、作業の遂行から案件全体の運営、受注へと役割が移る |
| 動く時期の目安 | 年数は出口ごとに異なる。PEファンドのアソシエイト層は3年以上(インテグラル)、事業会社のM&A推進は5年程度(日本経済新聞社)、他FASのシニアマネージャー以上へ移る場合は概ね8年以上(PwCアドバイザリー)。いずれも募集要項に書かれた経験年数で、転職者数の統計ではない |
| 不足しやすい経験 | DD中心の経歴は、投資先の探索と投資後の価値向上、買収後の統合(PMI)が手薄になりやすい |
| FASに残る場合 | 上位職ほど受注の責任が加わる。専門性はDD・バリュエーションなどの工程か、特定の業界を極める方向で深める |
年数はあくまで応募できる経験の下限で、到達すれば採用されるという意味ではありません。PwCアドバイザリーが経験年数を目安と明記しているように、年数に届いたかより何を担当したかが先に見られます。
部門別に見る、FASの経験がつながる出口
同じFASでも、配属された部門によって出口の募集要項と重なる部分が違います。各社の募集要項に書かれた業務範囲と応募資格を突き合わせると、次のような対応になります。
| 部門 | 積みやすい経験 | つながりやすい出口 | 出口で不足しやすい経験 |
|---|---|---|---|
| 財務DD(トランザクションサービス) | 対象会社の財務実態の把握、カーブアウト財務諸表、SPAの支援 | PEファンドのアソシエイト層、事業会社のM&A推進 | 投資先の探索、財務モデリング、投資後の価値向上 |
| バリュエーション | 企業・事業価値評価、PPA、種類株式やアーンアウトの評価 | PEファンド、投資銀行 | 交渉・契約の実務、対象会社の事業面の分析 |
| FA(M&Aアドバイザリー) | 案件全体の進行、ストラクチャリング、交渉支援 | 投資銀行のM&Aアドバイザリー、事業会社のM&A推進、PEファンド | 投資判断を自分で下す経験、資金調達の実務 |
| 事業再生 | 事業計画・経営改善策の策定、利害関係者との利害調整 | 再生・バイアウト系のファンド、事業会社の経営企画 | 成長局面のM&A、買い手側の案件の経験 |
| 戦略・PMI | ビジネスDD、事業計画、買収後の統合 | 事業会社のM&A・PMI担当、戦略系のコンサル | 財務DD・バリュエーションの細部 |
| フォレンジック | 不正調査、不正リスク管理、不正モニタリング | 今回確認した出口側の募集要項には記載なし | M&A案件そのものの経験 |
ここはリメディの見解ですが、表で差が出るのは「出口の募集要項がどの工程の経験を求めているか」です。インテグラルの募集要項は会計・税務(デューディリジェンス、監査等)の経験を応募資格に含める一方、職務には財務モデリングや投資先の経営支援まで入っています。DDは入口の条件になっても、入社後の仕事全体はカバーしません。
担当した案件がDDと評価業務のように二つの行にまたがっている場合は、どちらを主に語るかによって出口の候補が変わります。どちらの案件を応募書類の前面に出すかで迷うなら、自分の案件が表のどの行に当たるかを転職エージェントと一緒に確かめると、出口の候補を絞り込みやすくなります。
部門ごとに積める経験と、出口で問われる点
部門の名称と範囲は、ファームごとにまちまちです。KPMG FASの経験者採用は8部門に分かれ、合同会社デロイト トーマツのファイナンシャルアドバイザリーはCFA、M&Aトランザクションサービス、バリュエーション&モデリングなどのサービスラインを公開しています。各部門の業務の違いそのものはFASの部門比較で詳しく扱っているため、ここでは出口との接点に絞ります。
財務DD:PEの投資検討に最も近いが、その先の工程は別に必要
財務DDは、監査法人出身者の入口になりやすい部門です。KPMG FASのTransaction Services部門は公認会計士等の資格とBig4監査法人での勤務経験を応募資格に挙げ、PwCアドバイザリーは監査法人出身者に、シニアスタッフとして2年以上、主査などの立場で監査を推進した経験を求めています。
出口側では、インテグラルがPEの投資検討・実行の段階で会計事務所などの専門家と連携してDDを行うと説明しています。DD経験者は外部専門家を使う側の視点を理解しやすい一方、投資先の探索や投資後の価値向上は、DDとは別に積む必要がある工程です。
バリュエーション:評価モデルの経験がPE・投資銀行と重なる
合同会社デロイト トーマツのファイナンシャルアドバイザリーにあるバリュエーション&モデリングは、100名を超える専門部隊として紹介され、M&A後のPPAや財務モデルの構築まで業務が広がっています。PwCアドバイザリーには種類株式・アーンアウト・ストックオプションの評価に特化した募集もあり、評価対象ごとに専門が分かれている部門です。
評価モデルを作れる経験は、PEの財務モデリングや投資銀行の価値算定と重なります。出口側で語るときは、評価結果が価格交渉や意思決定にどう使われたかまで説明できるよう、担当案件を振り返っておくと準備が進みます。
FA(M&Aアドバイザリー):投資銀行と経験が重なる部門
KPMG FASのCorporate Finance部門は、M&Aアドバイザリー、企業・事業価値評価、ストラクチャリングを業務とし、応募資格に投資銀行・証券会社出身者を含めています。投資銀行で積んだ経験をFAの応募資格として扱っている点は、両者の実務の近さを示す例です。
合同会社デロイト トーマツのファイナンシャルアドバイザリーは、自社のCFAを案件成立を軸とする支援ではなく、クライアントの中長期の課題解決を軸とする「ソリューション・ドリブン」の支援だと説明しています。同じFAの部門でも、ファームが支援の軸をどこに置くかで、積める経験の比重は変わります。
事業再生:ファンドと事業会社の両方に接点がある
KPMG FASのTurnaround & Restructuring部門の業務には、私的整理・法的整理の支援、中期経営計画の策定・実行支援に加えて、再生ファンド・PEファンド・不動産ファンドなど投資家による投資検討・バリューアップ・Exit支援が含まれます。
利害関係者との交渉・利害調整や、財務3表の計画を含む事業計画の策定は、事業会社の経営企画でもそのまま使える経験です。一方、担当案件が再生局面に偏ると、成長のための買収を買い手側で進めた経験は語りにくくなります。買い手側のM&Aを担いたい人ほど、担当案件の構成に目を配っておきたいところです。
戦略・PMI:買収後まで追う経験が事業会社で生きる
KPMG FASのStrategy部門はビジネスDDや事業計画策定を担い、Integration & SeparationはPMIとセパレーションを支援します。後者は、監査法人での会計監査経験を持つ公認会計士も応募資格に含めています。
事業会社のM&A募集では、PMIが歓迎経験として明記される例がありました。日本経済新聞社はPMIの経験を歓迎要件に挙げ、ZOZOは買収後の統合推進と海外子会社のモニタリングを業務に含めています。
フォレンジック:M&A以外の専門性として育つ部門
KPMG FASのForensic部門は、不正・不祥事の調査、不正リスク管理体制の高度化支援、ビッグデータを使った不正モニタリングを担い、入社後はKPMG Forensic & Risk Advisoryへ出向します。フォレンジック会計士の応募資格は、日本の公認会計士資格と3年以上の監査経験です。
今回確認したPEファンド・事業会社・投資銀行の6社の募集要項・採用ページには、フォレンジックの経験を求める記載がなく、PEや事業会社M&Aで問われる経験とは重なる部分が小さい状態です。将来M&Aの出口を考えるなら、配属前に案件への関与の機会があるかを確認しておくと、後から方向を変えるときの負担が軽くなります。
部門を変えるか、ファームを変えるか
今の部門では狙う出口に足りない経験が積めないと分かったら、同じファームの中で関与を広げるか、別のファームの別部門へ移るかを選びます。どちらを取るかの基準は、社内で関われる見込みがあるかどうかです。
同じファーム内で関与を広げる
PwCアドバイザリーの財務DDの募集要項は、希望に応じて財務DD以外の領域にも関与できる環境を整えていると記載しています。KPMG FASのTurnaround & Restructuring部門も、希望に応じて事業再生以外のアドバイザリーサービスに関与できる機会を示しています。
ただ、どちらも機会の提供であり保証ではない書き方です。社内で関与を広げたいときは、上長との面談で「どの案件のどの工程に入りたいか」まで具体的に伝え、過去に他の部門の案件へ入った人がいるかも確かめておくと、社内に残るか移るかを決めやすくなります。
他ファームの別部門へ移る
FAS間の移籍では、今の部門の経験が他部門の応募資格に入るかが最初の確認点です。KPMG FASのCorporate Finance部門は財務DDや価値評価の3年程度以上の経験を応募資格に挙げ、Strategy部門はアドバイザリー会社でのトランザクションアドバイスや企業再生、PMIの経験を対象にしています。上位職で移る場合の年数の目安としては、PwCアドバイザリーの財務DDの募集がシニアマネージャー・ディレクターに同等の実務経験(概ね8年以上)を挙げています。
社内では関与の機会が得にくいと感じたら、他ファームが今どの部門で経験者を募集しているかを並べて見ると、移籍で経験を広げられるかが具体的に判断できます。下の検索で職種を指定し、部門ごとに出ている募集を見比べてみてください。
職位ごとに変わる役割と、評価される経験の段階
FASの職位は、上がるほど「作業を終える人」から「案件を運営する人」、さらに「案件を取ってくる人」へと役割が移ります。KPMG FASが採用サイトで公開している5つのキャリアステージと役割は、次のとおりです。
| キャリアステージ | 定義されている役割 | 転職で語りやすい経験 |
|---|---|---|
| Junior Associates / Analyst | 上位者の指示に基づき、タスク単位で自己管理しながら作業を推進する | 担当した分析・調査の範囲 |
| Senior Associates / Associates | 定められたスコープと成果物に基づくタスクを自律的に遂行し、下位メンバーを教導しながら一領域のマネジメントを担う | 自分が責任を持った論点と、その結論が案件にどう使われたか |
| Senior Manager / Manager | 複数または大型のエンゲージメントを計画的・高品質に遂行し、メンバーへのフィードバックで育成する | 案件全体の進行管理、クライアントとの合意形成、品質管理 |
| Director | 担当セクター・アカウントやサービスラインを越えて、ファーム全体の成長や利益のために動く | 提案・受注、複数チームの統括 |
| Partner / Managing Director | 組織全体のマネジメント、経営を担う | 組織運営、事業責任 |
PwCアドバイザリーの財務DDの募集要項でも、同じ線引きが見えます。Associate〜Managerの担当業務は財務DDやカーブアウト財務諸表の作成で、Senior Manager・Directorになるとプロジェクトマネジメント、リスク管理・品質管理、メンバー育成、提案活動の主導的なサポートが加わります。
アソシエイト期:任された範囲を自分で終えられるか
入社から数年は、複数の案件にアサインされながら工程を覚える時期です。KPMG FASは、新卒入社者がOJTでM&Aの各フェーズを学び、一人前になるまでの数年間は複数のプロジェクトに携わると説明しています。
この段階で外へ出る場合、問われるのは自分で結論を出した論点の具体性です。「DDを担当した」ではなく、どの勘定のどんな問題を見つけ、それが価格や契約条件にどう反映されたかまで話せるかで評価が変わります。
マネージャー期:案件全体を回した経験が加わる
マネージャーになると、評価の中心は作業の質から案件の運営へ移ります。KPMG FASのCorporate Finance部門は、マネージャー候補とシニアアソシエイトの応募にM&Aエグゼキューション経験を必須としています。
事業会社のM&A担当に移る場合、この時期の経験はそのまま使える材料です。日本経済新聞社のM&A推進の募集では、業務がソーシングからDDの実行・監督、契約交渉、クロージング、PMIまで並び、外部アドバイザーを使う側の動き方が求められます。
ディレクター以上:案件を取ってくる役割へ
ディレクター以上に上がると、専門性に加えて受注の責任を引き受けることになります。分析や助言そのものを続けたい人にとって、昇進が必ずしも望む仕事の増加を意味しない点は、先に知っておきたい事実です。
PEファンドへ進むルート
PEファンドへの転職は、どの職位で入るかによって求められる経験がはっきり変わります。確認した3社の募集要項を並べると、アソシエイト層を含む募集ではDD・監査や会計系ファームの経験が応募資格・活かせる経験に入り、マネジャー以上の募集では投資を自分で主導した経験を求める例がありました。
| ファンド | 募集職位 | 応募条件・活かせる経験 | FAS出身者が読むべき点 |
|---|---|---|---|
| インテグラル | シニアアソシエイト・アソシエイト | PE投資・投資銀行業務、会計・税務(デューディリジェンス、監査等)、経営コンサル・企業再生などのいずれかで3年以上 | DD・監査の経験が応募資格に明記されている |
| アドバンテッジパートナーズ(ジャパンバイアウト投資グループ) | アナリスト〜ヴァイスプレジデント | 投資業務、投資銀行業務、コンサル・会計・リーガルなどのプロフェッショナルファームでPE業務に近い領域の経験 | 会計系ファームの経験が「活かせる経験」に入る |
| J-STAR | マネジャー・プリンシパル | 自らリードして投資を実行した経験、経営層に提案して受諾された経験、専門領域でリーダーとして成果を残した経験 | 助言側の経験だけでは必要経験を満たしにくい |
アソシエイト層で入る場合
FASで3年ほど経験を積んだ段階は、インテグラルの応募資格の年数と重なります。同社の職務は財務モデリング、ストラクチャリング、契約交渉、投資先の経営支援まで幅広く、DDの一工程だけを担う働き方ではありません。
マネジャー以上で入る場合
FASでマネージャー以上まで進んでからPEへ移る場合、J-STARの必要経験のように「投資を自らリードしたか」が問われる例があります。FASの立場は助言者であり、投資判断を下す側ではありません。年次が上がってから移るほど、応募する職位に見合う投資経験を説明しにくくなる点は見落としやすいリスクです。
FASのうちに足しておきたい経験
ここはリメディの見解ですが、PEを目指すDD・バリュエーション出身者は、FAS在籍中にPE投資案件の担当を増やすことを勧めます。PwCアドバイザリーは財務DDの部門でPEの投資案件を戦略的領域に位置づけています。ファンドが何を判断材料にしているかを近くで見られるのが、こうした案件の利点です。インテグラルが挙げる投資先の探索と価値向上の工程も、面接で自分の言葉で語れるように準備しておくと評価につながります。
選考の進め方や、DDの経験を投資判断の言葉で語り直す方法は、FASからPEファンドへ転職する方法で詳しく扱っています。
事業会社のM&A・経営企画へ進むルート
事業会社のM&A担当は、FASの経験を募集要項に名前で挙げる求人が確認できた出口です。日本経済新聞社のM&A推進(事業企画室)は、必須経験の一つにFASでの勤務経験を含めています。
| 企業・ポジション | 必須経験 | 歓迎経験 | 担当範囲 |
|---|---|---|---|
| 日本経済新聞社 M&A推進(事業企画室) | 投資銀行・PEファンド・FAS・コンサルティングファームでの勤務経験など、いずれかで5年程度。簡易な財務モデリング | 公認会計士などの資格、PMIの経験、契約交渉・契約書の作成やレビュー | M&A戦略、ソーシング、バリュエーション・DDの実行と監督、契約交渉、クロージング、PMI |
| ZOZO グローバル経営企画(M&A・PMI推進) | 事業会社の経営管理、または事業会社・ファンド・コンサルティングファームでの海外事業・M&A業務。英語での業務経験 | 財務モデリングの構築と実行後のPMI、経営層向けのレポーティング | 海外子会社の事業計画・モニタリング、M&Aのソーシングから買収実行・PMIまで |
募集要項でFASの経験が問われる箇所
日本経済新聞社の募集では、バリュエーションとDDが「実行・監督」する業務として書かれています。外部の専門家に依頼する範囲を決め、報告を社内の判断に使う立場になるため、発注者としての視点を語れるかが分かれ目です。
買収後まで担う働き方
FASの関与は契約した支援範囲で区切られますが、事業会社では買収した会社の計画と実績を追い続けます。ZOZOの募集が海外子会社の事業計画策定とモニタリングを業務に入れているのは、その典型です。成約後の成果まで自分の責任で見たい人には合いやすい一方、案件を次々に経験したい人には動きが遅く感じられるかもしれません。
どの時期に動くべきか、FASの経験をどう活かすかの判断は、FASから事業会社M&Aへの転職判断で詳しく扱っています。
投資銀行・コンサルティングファームへ進むルート
投資銀行とコンサルは、FAや戦略・再生の経験を持つ人ほど選択肢に入りやすい出口です。ただし、どちらもFASより業務の幅が広い、または軸が異なるため、重なる部分と重ならない部分を分けて考える必要があります。
投資銀行のM&Aアドバイザリー
三菱UFJモルガン・スタンレー証券の投資銀行部門は、M&Aアドバイザリーに加えて、カバレッジ、債券・株式の引受、IPOアドバイザリー、不動産証券化を業務として紹介しています。FAS出身者と重なるのは主にM&Aアドバイザリーの実行の部分です。
先に見たとおり、KPMG FASのCorporate Finance部門は投資銀行出身者を応募資格に含めており、FAの実務は投資銀行と近い関係にあります。逆に資金調達の引受や顧客企業のカバレッジは、FASの経歴だけでは語りにくい領域です。
戦略・ターンアラウンド系のコンサル
EY-Parthenonは、企業・成長戦略、トランザクション戦略と実行、ターンアラウンド戦略の3分野を掲げています。部門の移り方で触れたKPMG FASのStrategy部門の応募資格にも、企業再生やPMIの経験が入っていました。
取引と戦略の境界にある仕事のため、事業再生や戦略・PMIの部門出身者には経験の続きとして選びやすい出口です。財務DD中心の人が移る場合は、事業面の分析や事業計画の策定に関わった案件を語れるようにしておくと準備が進みます。
FASに残る・独立するという選択
FASに残れば上位職で受注の責任が加わり、独立すれば案件の獲得そのものを自分で担います。
パートナー・ディレクターに求められる役割
専門性の深め方としてKPMG FASが挙げるのは、DDやバリュエーションなど特定のプロセスを極める方向と、特定のセクター(業界)を極める方向の2つです。同社はこれを昇進の制度ではなく、個人の強みに合わせたキャリア形成の考え方として示しています。
上位職では、この専門性に受注の責任が重なります。同社の説明では、提案活動を主に担うのはパートナーやディレクターです。経験豊富なこのクラスがクライアントとの関係を築き、案件を受注します。残るなら、どちらの方向で専門性を作るかを早めに決めておくと、提案の場で何を強みにするかがはっきりするはずです。
独立してM&A支援に関わる場合
中小企業のM&Aを支援する機関向けの仕組みが、中小企業庁のM&A支援機関登録制度です。2026年10月時点で令和8年度の公募を受け付けており、登録支援機関には中小M&Aガイドライン(第3版)への対応が求められています。
提案と受注を担うのが主にパートナー・ディレクターである以上、その職位に就く前に独立すると、自分で案件を得る経験は在籍中に積みにくくなります。独立を考えるなら、在籍中にクライアントとの関係づくりや提案にどこまで関われたかを振り返るのが先です。
今動く人と、FASで経験を足してから動く人の分かれ目
動く時期は、年数よりも「狙う出口の募集要項に書かれた工程を、すでに担当したか」で決まります。応募条件の年数を目安にしながら、足りない工程があるかどうかで分けると次のようになります。
| 狙う出口 | 今動いてよい状況 | FASで経験を足してから動く状況 |
|---|---|---|
| PEファンド(アソシエイト層) | DD・バリュエーションを3年以上担当し、PE投資案件で論点の結論を自分で出した | DDの担当が事業会社案件に偏り、ファンドの判断材料を見た経験がない |
| 事業会社のM&A推進 | 案件の進行管理やDDの取りまとめを担い、5年程度の経験がある | 担当が一工程に限られ、契約交渉やPMIに関わっていない |
| 投資銀行のM&Aアドバイザリー | FAとして案件を最後まで進め、ストラクチャリングや交渉支援に関わった | 評価や調査の担当が中心で、案件の進行に関わっていない |
| FAS内の上位職 | マネージャーとして複数案件を回し、提案にも関わり始めている | 提案・受注に関わる意思が固まっていない |
ここはリメディの見解ですが、PwCアドバイザリーが経験年数を「目安」とし、業務内容・専門性・自立性で総合判断すると明記しているとおり、年数の到達は判断の入り口にすぎません。担当した工程の広さを優先して時期を決めることを勧めます。
案件の当事者として投資判断や買収後の成果まで担いたい人は、表の「今動いてよい状況」に当てはまった段階で動く価値があります。一方、特定の評価手法や不正調査など一つの専門を深め続けたい人には、事業会社やPEよりも、FASに残って専門性を磨く道のほうが合いやすいでしょう。
FASのキャリアを相談する前に整理したいこと
出口の方向が決まっていて、必要な経験もそろっているなら、相談を待たずに自分で応募準備を進めて問題ありません。迷いが残るのは、次の表の右列に当てはまるときです。
| 確認したいこと | 自分で進めてよいケース | 相談で整理が早いケース |
|---|---|---|
| 出口の選び方 | 狙う出口が一つに決まり、募集要項の工程を担当済み | PEと事業会社で迷い、どちらの経験が評価されるか判断できない |
| 部門の経験の見せ方 | 担当部門が一つで、語る案件も明確 | 二つの部門にまたがり、どちらを主に語るか決められない |
| 動く時期 | 応募条件の年数と担当工程の両方がそろっている | 年数は満たしたが、不足する工程を社内で補えるか分からない |
| 残るか出るか | 上位職で求められる提案・受注に前向き | 専門を深めたいが、昇進と仕事内容のずれが気になる |
右列に一つでも当てはまる場合は、M&A・ファンド領域を担当する転職エージェントに、今の部門経験でどの出口が現実的か、足りない工程をどこで補うかを具体的に聞くと整理が進みます。下の担当者から、相談したい相手を選べます。
よくある質問
FASに何年いると転職しやすいですか?
年数より、狙う出口の募集要項にある工程をすでに担当したかで判断するのが近道です。応募条件の年数は出口ごとに異なり、PEファンドのアソシエイト層は3年以上(インテグラル)、事業会社のM&A推進は5年程度(日本経済新聞社)とされています。年数に届いていても、担当が一工程に限られる場合は、先に経験を足したほうが選考で語れる材料が増えます。
財務DDの経験だけでPEファンドに行けますか?
アソシエイト層では、DD・監査の経験3年以上を応募資格に含める例があります(インテグラル)。ただし入社後の仕事は財務モデリングや投資先の経営支援まで広がり、マネジャー以上では投資を自ら主導した経験を求める例もあります(J-STAR)。DDだけで入れるかより、その先の工程をどう語れるかが問われます。
FASの中で部門を変えることはできますか?
PwCアドバイザリーとKPMG FASの募集要項には、希望に応じて他の領域に関与できる環境や機会があると書かれています。ただし異動を保証する記載ではないため、入社前や面談の場で、実際にどの部門へ関与した例があるかを確認しておくと安心です。
公認会計士の資格は、FASからの転職で必要ですか?
出口側では必須にしない例が確認できました。日本経済新聞社のM&A推進は公認会計士を歓迎要件に挙げ、インテグラルの応募資格は資格ではなく会計・税務の実務経験です。資格が応募の条件になりやすいのは、KPMG FASのTransaction Services部門のようにFASへ入る側の財務DD部門です。
一つの専門を深め続けたい場合、FASに残るほうがよいですか?
リメディでは、評価手法や不正調査など一つの専門を深め続けたい人には、FASに残る道のほうが合いやすいと考えます。PEファンドや事業会社の募集要項は、投資先の経営支援や買収後の統合まで幅広い工程を職務に含めており、一つの専門だけでは担当範囲の一部にとどまるためです。KPMG FASも、DDやバリュエーションなど特定の工程を極める方向を、専門性の深め方の一つとして示しています。


