生成AIの登場から約2年。多くの企業でAI活用は進んできたものの、その実態は翻訳・要約・検索といった「個人レベルの業務効率化」にとどまっているケースが少なくありません。
一方で、AIは単なる便利なツールではなく、企業の競争構造そのものを変える存在へと進化しつつあります。この変化に、企業はどう向き合うべきなのでしょうか。
現場の効率化を積み上げていけば、自然と企業全体が変革されるはずだ──。そう考えがちですが、現場の小さな改善をいくら積み重ねても、企業全体としての非連続な成長にはつながりにくいという構造的な課題があります。AIを「既存業務に“足す”」発想にとどまる限り、競争力の本質は変わりません。重要なのは、AIを業務の「中心に置く」発想へと切り替え、事業や企業全体のあり方そのものを再設計していくことです。
この問いに、AI&データ領域領域において先進的な取り組みを進めているのが、EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社(以下、EYSC)のAI&データです。15年以上のコンサルティング経験を有し、自身による自然言語処理に関する特許も保有する、AI&データ パートナーの山本 直人 様は、AIを「思考そのもの」と位置づけ、企業がAIといかに向き合い、競争力に転換していくのかというテーマに正面から取り組んでいます。AIの機能ではなく価値に着目し、言語化できていないクライアントの深層課題に寄り添い、企画として成立させていく点に特徴があります。
今回はAI&データ パートナーの山本 直人 様にインタビューを実施。AI活用の現在地と、そこから先に進めない構造的な壁──「AIを“足す”のか、“中心に置く”のか」という分岐点──、EYSCの差別化領域である「Composite AI」、そしてAI時代に求められる人材像までを伺いました。AI/データ領域でキャリアを築きたい方は、ぜひご一読ください。

山本 直人
15年以上のコンサル経験を持つEYのAI&Data領域パートナー。自身による自然言語処理の特許を有し、複数の技術を組み合わせる「Composite AI」で企業の経営変革に挑む。技術実装による非連続な成長とイノベーション創出に向け、メディア登壇や執筆など発信活動も精力的に行う。

Interviewer|リメディ 平岡 弦
慶應義塾大学卒業後、デロイトトーマツグループの有限責任監査法人トーマツに新卒入社。パブリックセクター部門にて、官公庁へのアドバイザリー業務に従事しつつ、大手事業会社のシステム導入案件や機関設計領域におけるコンサルティング案件に従事。パブリックセクター部門では官公庁を通し、スタートアップのエコシステム組成に貢献し、スタートアップへの伴走支援も行う。現在はヘッドハンターとして戦略・総合コンサルティングファームなどを中心とした転職サポートに従事。20代若手からエグゼクティブ層まで、幅広い支援を経験し、業界トップクラスの実績を誇る。

監修者|リメディ 前川 翔太
立命館大学を卒業後、楽天グループに新卒入社。通信インフラ領域の法人営業として新規開拓を主導し、入社1年目で新卒優秀賞を受賞。その後、NTTデータにて大手流通・飲食企業向けのシステム開発の経験を積む。顧客の属性や購買パターンを分析し、効果的なポイント施策の実装や顧客データ基盤の構築を担当。アクセンチュアに転職後は、コンサルタントとして業務要件定義から設計、UX/CX改善までを一貫して担当。生成AIを活用した業務効率化の仕組みづくりを実現し、品質と生産性の両立に寄与。当社には、ヘッドハンティングを機に入社を決意し、これまでの多様な業界経験を活かし20代の若手からエグゼクティブ層まで、幅広い層の転職サポートを行っている。
コンサル業界の選考対策に強い
キャリア支援
- Bain & Company, Boston Consulting Group出身者によるCase interview対策
- Big4出身者による総合コンサルへの転職サポート
- 応募先ごとの条件整理に対応
- 現役コンサルタントからのご相談多数
- 金融機関・事業会社など異業種からの転職実績も豊富
- コンサル未経験者の転職実績も豊富
- 経営層・採用責任者との接点を踏まえた相談も可能
- 個別の選考状況に合わせたマンツーマン面接対策を実施
転職意思が固まる前の情報収集にも
ぜひご活用ください。
AI×コンサルの最前線|進む「効率化」のその先の活用

――まずは、山本様のご経歴と、現在EYSCで担われている役割についてお聞かせください。
山本様:EYSCの中では主に、AIビジネスの牽引と、EYSC内部のAIを用いた業務の効率化という2つをミッションとして、日々業務に取り組んでおります。
本日はかなり私の視点に寄った形になりますが、世の中におけるAI活用のあり方や、私が目指す世界について共有させていただきます。
――よろしくお願いいたします。早速ですが、AI活用が広がる一方で、企業によって取り組みのレベルには大きな差があるとも言われます。現在のAI活用の普及状況について、山本様の見立てをお聞かせください。
山本様:AIの普及状況は、今は一言では言いづらい状況になっていると感じています。EYSC独自の見立てとして整理すると、まだAIを使い始められていない企業様もあれば、個人レベルでの作業効率化が為されている企業様もあり、状況はかなりまだら模様です。
多くのケースで起きているのは、まずは個人がチャットツールを使って文書作成や情報整理を効率化するという、いわば「点」の活用です。
その一方で、コンサルティング業界が向き合っている領域は、もう一段先にあります。個別の業務の高度化にとどまらず、既存業務全体の高度化、さらには企業として、経営からのトップダウンで「AIを使って会社全体を生まれ変わらせる」というケースも出てきています。今取り組んでいる活動を大きくスケールさせ、AIを軸にした非線形な変革に踏み出したいと考えるクライアントが、EYSCのもとに集まってきているという印象です。
また、限られた企業様にはなりますが、AIを起点としたイノベーション創出を目指すクライアントも出てきています。AIという革新的な道具が出てきたからこそ、企業としても新しい価値を生み出すステージに移れる。こうした領域こそが、EYSCの主戦場だと捉えています。
――AIの導入というと、処理能力やコストの制約が課題として語られることも多いと思います。この点については現状をどう捉えていますか。
山本様:処理能力やコストは、「やりたいことがあった上での議論」だと捉えています。目的に対して適切に設計をしていく必要があり、直接的な答えにはなりませんが、昨今では、何でもクラウド上の大規模なAIを使うのではなく、文脈によってはSLM(Small Language Model:軽量で端末上でも動作する小型の言語モデル)のように、ローカルで動くモデルを選ぶ選択肢も広がっています。
必要な処理能力のサイズ感はPoC(実証実験/試験導入)で測りながら見極めていく。きちんと設計せずに作ったAIは、無駄にリソースを食ってしまいますので、設計段階でコスト最適化の手立てを講じておくことが重要です。検証は、現地現物で行うことが欠かせません。
こうした工夫を重ねていくことで、AIを導入できる領域は広がっていきますし、いずれどのような企業であっても、AIが簡単に使える時代はそう遠くないと感じています。
――「使える状態」と「意味のある形で使える状態」には、大きな差があるということでしょうか。
山本様:はい。使える状態にしていくことはそう遠くありませんが、意味のある形で使える状態にしていくのは、非常に難易度が高いと考えています。
扱うデータはテーブルデータだけではなく、自然言語や映像データなど多様なデータを最適な形で活用していくことが重要です。その上で、人が相対して価値のある姿になれるよう、業務側の文脈に落とし込んで設計していく。クライアントの業務の高度化に貢献できるよう、私たちはそこに取り組んでいます。
弊社のYouTubeチャンネルでは、EYSCの山本様にAI活用のあり方を伺った動画を投稿しております。EYSC様への転職をご検討中の方は、ぜひご覧ください。
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AI利活用の未来|砂粒を積み上げても城は築けない

――実際のクライアント企業の状況は、どのようなレベル感が中心なのでしょうか。
山本様:EYSCとしての体感でお話しさせていただくと、企業の中に使えるAIを導入する段階を支援するケースと、個人レベルでの効率化を支援するケースが多いと感じています。一方で、AI活用が一巡したクライアントもいらっしゃいまして、個人レベルというよりも一つ視座を上げ、業務というレベルでAIをどう埋め込むかというフェーズに進まれているケースもあります。
とはいえ、個人レベル、既存業務・個別業務の高度化が、今の日本のマーケットでは依然としてボリュームゾーンなのではないかと捉えています。
現場ではそのレベル感で動いていますが、企業の経営層から見ると、視点はもう一段上です。会社全体をどうしていくのか、グループ企業も含めたエコシステムとしてどう設計するのか。事業全体・企業全体としての業務モデルの変革、さらにはAIがあるからこそ生まれる新しい業務をどう推進するかといった方法論にチャレンジするケースが、今後出てくると見ています。
――現場の業務効率化にとどまり、次のステップに進めていない企業が多いと感じます。次のステップに行く上で、どこが大きな課題になっているのでしょうか。
山本様:まさにそこが大きな壁だと考えています。視点を上げていくことが、どうしても必要になります。
現場で見れば、現場の作業を効率化しなければなりませんが、その現場の作業は横にたくさん存在します。それを束ねたときにどういう課題が見えてくるのか、一段抽象化した視点で見ていくことが欠かせません。そうした抽象化された視点で物事を捉えているのが、企業の中のマネジメントポジションの方々です。
逆に言えば、そのような方々が描き出すビジョンを現場に落とし込み、回る状態を作っていくことが、企業の中のビジネスのあり方だと思っています。上のレイヤーから下のレイヤーまでを一気通貫して、より良いものにしていく施策が非常に重要だと考えています。
――現場(ボトムアップ)からの改善だけでは、企業変革が進みづらいのはなぜなのでしょうか。
山本様:見えている世界の違いが、正直なところあると考えています。
マネジメントポジションのクライアントとやり取りをさせていただくと、競合他社の動きや、より広いスケールで言えば、アメリカのメガテック企業や中国の動向まで視野に入れたうえで、自社がどうコンペティティブにならなければいけないのかという視点で物事を見ておられます。現場の作業の高度化は、業務を回すためにやり続けなければなりませんが、その上で、企業として世界に対してコンペティティブになっていく視点が欠かせません。
表現が正しいかは分かりませんが、ありたい大きな姿・ビジョンがあったうえで、ファーストステップで検証できたものをいかに大きくスケールさせるか。「0から1を生み出して終わり」ではなく、1を100や1,000の価値に変えていくことが非常に大事だと考えています。
こうした上位の視点で物事を捉え、動かす力を支援する存在として、AIを再定義していく必要があります。弊社の社長の近藤も常々申しておりますが、EYSCは経営コンサルです。企業の経営をより強くしていくことにコミットすべきであり、企業が苦戦されている事業全体・会社全体という単位で、AIとどう向き合い、どうコンペティティブになっていくのかという命題に応えていくことが、マーケットからEYSCが受けているミッションだと考えています。おのずとEYSCの活動領域も、そちらにシフトしていっています。
「コンサルブーム」と日本の競争力低下に感じる矛盾
――「マーケットからのミッション」とおっしゃいましたが、これはどのような意味合いなのでしょうか。
山本様:ここは私の想いのようなものも入っている部分です。
今、世の中ではコンサルブームのようなものが起きています。大学生の就職したい職業ランキングでも、コンサルがかなり上位に来るなど、コンサル業界自体は非常に活況だと言われます。一方で、日本の競争力低下とコンサルの活況には、大きな矛盾があると私は感じています。
拙い野望ではありますが、コンサルとして日本の成長を牽引することは非常に大事だと考えています。先ほどから「企業をコンペティティブに」というお話を繰り返し申し上げていますが、それを通じて日本の競争力を、より上位に上げる形で日本をより良くしたい。これが私の想いとして持っているところです。

EYには「Building a better working world(より良い社会の構築を目指して)」というパーパスがありますが、これともうまく整合する要素だと考えています。そういった環境を作り上げていくところで、AIという最近生まれてきた強力なツールで打って出られないかと考えているのです。
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AIを”足す”のか、”中心に置く”のか — その違いが分岐点

――AIは、これまでのDXツールと比較してどのような違いがあるのでしょうか。そのポテンシャルについて教えてください。
山本様:私の解釈になりますが、AIも含めて以前から、DXという言葉がマーケットの中で大きく踊ったと思います。DXの代表選手として、RPAなど様々なものがありましたし、初期のAIもDXの分類に含まれていました。これらに共通していたのは、すべてが「業務を行う・便利にするためのツール」だったという点です。
たとえばRPAであれば、交通費の精算におけるレシートや駅の区間など、人が見ていた作業をロボットが自動化してくれる、非常に便利な仕組みでした。とはいえ、こうした技術はあくまで業務を行うためのツールだったと思います。
ただ、今出てきているAIは、業務を実行するツールというよりも、「思考そのもの」だと捉えています。
――「思考そのもの」とは、具体的にどういうことでしょうか。
山本様:たとえばコンサルタントとクライアントの関係は、情報の非対称性で成り立っているケースが非常に多いです。コンサルが専門性を帯びているからこそ、その専門性を企業の競争力に還元するために、コンサルにお仕事をお願いいただいているケースが多いと思います。
そういった専門性を、ややもするとクライアント自身が得られてしまうような力を持っているのが、今のAIだと考えています。
人の思考そのものが、AIを使ってどんどんアップデートされ、増幅されていく。そのような中だからこそ、これまでとは違った仕事ができるようになる。AIの位置づけが、従来のツールから大きく変化していると感じています。
扱うべきデータが、テーブルから「途中経過」へと変わる
――AIのポテンシャルが大きい一方で、扱うのが難しいとも感じます。かつてのITツールとAIの扱い方の違いは、どこにあるとお考えですか。
山本様:AIも突き詰めれば一つのシステムではありますが、従来のものとは大きな違いがあると考えています。生成AIの場合、得意分野は非構造化データなのです。
従来のシステムでは、テーブル構造にデータが定義されていて、テーブル構造に定義されている時点で、データがかなり削ぎ落とされてしまっています。様々な人の業務が為される中で、最終的に行き着いた結果がデータとして格納されているのが、従来の基幹システムです。
たとえば何かを購買したとか、カートに入れましたといった「行き着いたスナップショット」を集めても、実はあまり賢くならないという面があります。コンバージョンしたデータはとても大事ですが、コンバージョンに至る前に、人がどれだけ思考を巡らせ、Aという商品とBという商品で迷い、あるいは人のキャリアであればA社・B社で迷い、何らかの軸で判断した結果としてコンバージョンに繋がっています。
AIをより効果的に活用するにあたって、用いるデータはドラスティックに変わります。たとえばレコードデータではなく、日々やり取りをしているチャットデータや、何らかの報告書のように、通常であればERP(企業の基幹業務を一元管理するシステム)の中には入らなかった「途中経過」のデータを繋いでいき、結果がどうなっているのかと突き合わせていく。そういったところに目を向けてAIを設計できるかどうか。従来型のシステムの発想で考えてしまうと、なかなか効果的な活用には至らないと考えています。
“足す”DXから、”中心に置く”AIへ──業務のあり方そのものの再設計
――業務効率化から、その先のイノベーションに至るまで、どのような変遷を遂げていくのが理想なのでしょうか。
山本様:先ほども申し上げた通り、着目すべきデータがまず違ってくると考えています。
従来のDXでは、既存の業務があり、その中で人がやっている作業をRPAで代替・自動化させる、というやり方が取られてきました。しかし、特に生成AIの場合は、業務のあり方そのものが変わることが普通に起こり得るのです。
生成AIで扱うデータが大きく変われば、大きなビッグバンを起こせると考えています。そのような革新的なものが業務の真ん中にあれば、業務のあり方そのものが変わる。これは弊社のグローバルも申していることです。
完全に新しい仕組みができたからイノベーションなのかというと、そういうものではなく、経済が働く形で価値を生み出していかなければイノベーションにはなりません。そうしたものを作り上げていくことが、イノベーション創出の観点で重要なところです。
そういった高い視座を持って動かれている企業のマネジメントの方々と、ぜひタッグを組んで、EYSCがその領域にリーチしていくのを支援していけるといいと考えています。
EYSCの差別化領域|Composite AI で勝つ

――実際にEYSCで取り組まれている案件やプロジェクトについて、もう少し具体的に教えてください。
山本様:EYSCも頑張ってきた甲斐あって、様々なお仕事をいただける状態になってきております。それらの案件を並べて見てみると、企業の中の戦略に寄り添うお仕事が非常に多いと感じています。
たとえば人事の戦略も、EYSCの活動領域の一つです。リスキリングと言われて久しい今この頃ですが、適当なオンライントレーニングを受ければ人が育つというものではありません。人事として人を育てる先に何があるのかを考えると、事業戦略と人事戦略を統合して考えることが重要だと捉えています。
たとえば、新しく事業戦略を起こす中で「5年後にこのような事業をやる必要がある」と決まったとしても、人事戦略的な手を打たなければ、いざ事業が立ち上がったときに、このリソースをどうするのかという話になります。エッジの効いた領域であればあるほど、人を集めることは難しい。いま社内にいる方々にどんな経験を積ませると、どういうルートでたどり着けるのかをシミュレーションしていく必要があります。
社員のサイドから見ても、会社の意向のままに動いて終わりにしてはいけません。自分の市場価値をどう高めていくか、スキル・経験を得ることでマーケットの中での自分の価値がどう高まっていくのか、それが見えるようにならないといけないと考えています。
事業戦略と社員のキャリアが合わさった姿が、あるべき人事戦略であり、事業戦略を成立させるための貴重な戦力として社員を育てることに繋がる。そのようなところにAIを用いて、シミュレーションをしながら成立をさせていく支援をさせていただいています。
――人事戦略以外では、どのような領域でAIを活用されていますか。
山本様:新規事業もAIで立ち上げるというものではなく、企業の強みを活かしながら、新しい領域を見出すことが大事な観点になります。人が安易に考えつく新規事業のアイデアは、すでにレッドオーシャンです。
そこをたとえばAIで支援したり、人とAIとの対話の中で新規事業を生み出していくプロセスそのものが、今までと全く違う形になったりする。そういったところも、見込める効果の一つだと考えています。
サプライチェーン周りも、EYSCが取り組むケースが多い領域です。サプライチェーンにおける発注数量などをどう決めていくかの最適化は、データアナリティクスの一丁目一番地で取り組まれてきたテーマです。「過去はこうだったから」と過去になぞらえ、外部環境の変化を変数として予測していく方法も、一つのやり方としてあります。
過去の発注数量は、世の中の様々なイベントが行き着いた結果の数量だったりします。過去の文脈を読み解きながら、目の前の姿と結びつけていく。新しいサプライチェーンのあり方や、地政学的なリスクが様々なところで起こっている状況を加味したシミュレーションの仕方もあります。AIによるシミュレーションのエッセンスを入れることで、これまでとは違った意思決定の精度を得ることができる。業務を強くしていくうえで、戦略としてAIが埋め込まれていく形になってきていると感じています。
「Composite AI」──組み合わせで成り立つアーキテクチャ
――活動領域や案件のスコープを伺いました。それを実現するうえで、EYSCの守備範囲・領域・強みはどこにあると整理されていますか。
山本様:AI&データ部門ということで、主にAIを扱っている部門ですが、AIにも様々な種類が存在します。EYSCは新しい価値創出を目指しているという観点で見ると、「必ずしも新しい技術だから偉い」というわけではありません。一方で、エッジの効いた技術については、自ずと触れていかざるを得ないと考えています。
新しい枠組みだからこそ、新しいビジョンに繋がっていく。妄想の中で基礎的なアルゴリズムを抽象度の高いビジョンに繋げていくという話を先ほどしましたが、新技術の探索・見立てについては重要視しています。
今の世の中で見ると、AIエージェントの時代だと言われています。今年のCES(Consumer Electronics Show)でもフィジカルAIが大きく取り上げられ、去年のCESではエージェントの時代だと示された。そのエージェントがいま、フィジカルAIとしてロボットなどにインストールされていく流れだと感じています。
一方で、EYSCの見方としては、ロボットがペットボトルを運んできてくれるだけで嬉しいかというと、本業が変わるわけではない、というのが正直なところです。ビジネスはもっと複雑ですので、複雑であるビジネスに対して一石を投じるようなAIを見出すには、様々な要素が組み合わさって成り立つ「コンポジット(Composite)なAI」が一つの姿になります。
――Composite AIを構成する要素は、どのように位置づけられているのでしょうか。
山本様:その内訳としては、AIが自律性を持って思考することが必須となりますので、そこにエージェントの技術が入ります。フィジカルAIの文脈の中でも、雲の上にいるAIからエッジ側に降りてくると言われていますので、エッジにあるからこそ周りの外部環境の変化を見出さないといけない。マルチモーダルな要素も必要になりますし、それがエージェントとして様々な場所に登場してきます。
たとえば、この撮影で使っているカメラにAIが入れば、肌のテカリを自動で補正してくれるといった形で、1年後のYouTubeに出てくるかもしれません。そうしたエッジのAIがスタンドアローンで動くだけでは面白くないので、ネットワークで繋がっていく中で、因果を読み解いていく。これを実現していくとなると、今とは全く違ったソリューションが生まれてくると思います。
そのようなものを「妄想」の枠の中に当てはめていき、クライアントの置かれている状況の中で、様々な要素が組み合わさるComposite AIとして捉えています。
――Composite AIにおいて、個別技術のアップデートはどう扱われるのでしょうか。
山本様:Composite AIを構成する個別の要素は、どんどんアップグレードしていきます。コンポジットなアーキテクチャができたとしても、AIモデルがアップデートされるとそれが全部だめになる、というのは良くないアーキテクチャだと考えています。
ですので、アーキテクチャがpluggable(後から差し替え・追加できる状態)であることが重要だと考えています。クライアントに対して継続して進化するAIを提供できることは、変化の激しい時代において重要です。そのようなアーキテクチャをもって、クライアントと向き合うようにしています。
「ずばりこの技術」と言い切ることはできませんので、常にアンテナを高くして、良いものを組み合わせながら、クライアントに合ったソリューションを提供していく。それがEYSCとしての勝負どころだと考えています。
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読み解く力×掛け合わせる力|AI時代に求められる素質

――EYSCとして、AIが持っている力をどのように定義されているのでしょうか。
山本様:EYSCはAIの本質に着目するというのが、非常に大切な要素だと考えています。AIの本質は、AIに携わっている人からすれば、いろいろな見方があると思います。
その上で私たちが大切にしているのは、人が創出し得る価値を上げていく、という捉え方です。その価値の部分をビジネスに紐づけていくことで、人のビジネスにおける活動範囲が広がっていく。そして、そこで重要になるのが「読み解く力」と「掛け合わせる力」だと考えています。
既存の知の組み合わせから、新しい価値が生まれる
――「読み解く力」「掛け合わせる力」について、もう少し詳しくお伺いできますでしょうか。
山本様:「掛け合わせる」というところに着目すると、その昔、シュンペーターというオーストリアの経済学者が「イノベーションは既存の知と既存の知の組み合わせで成り立つ」という趣旨のことを述べています。今の世の中で見ると、既存の知は複雑な構造を持っています。
たとえば人のケイパビリティも、複雑な構造を持っています。私もコンサル担当というラベルが貼られて活動していますが、「コンサル担当の山本」としての価値はあまりないと思っています。その中でAIというところにディープダイブし、AIという切り口で出来上がるツリーが、今の私がマーケットの中でできているポイントだと考えています。
同じように、人のケイパビリティも構造化できますし、世の中の社会課題もメガトレンド級のものから身近に接するものまで、構造化することができます。企業の中の仕事のあり方も、構造化されています。
たとえば企業の中でやっている取り組みの構造と、思考の構造をうまく掛け合わせることができれば、失敗のない転職が実現できるかもしれない。掛け合わせる対象を企業の事業と別のトレンドにすれば、新規事業が生まれる。まさに点と点が繋がっていく中から、新しい価値が生まれていきます。
構造を読み解いて構造分解をして、分解したもの同士を掛け合わせる。それがEYSCとしてAIに期待している部分です。AIをチャットの域でしか使わなければ、まさに個人のお助けマシンで終わってしまう。だからこそ、構造を読み解いて掛け合わせるところまで突き詰めていくことが非常に大事だと考えています。
アフターAI時代の人材像と「ロールシェアリング」
――AIが企業活動の前提になっていくとすると、AIを扱う人材や組織のあり方も再設計が必要になると思います。今後どのように変わっていくとお考えですか。
山本様:ここは非常に難しいところだと感じています。様々な企業で行われているAI人材育成は、たとえばプロンプトを打つ練習をさせるといった形のものが多いと思います。それ自体は、AIに親しむためのトレーニングとして大事です。
ただ一方で、そうしたものが「既存業務を高度化するためのトレーニング」にとどまっていないかは、よく考える必要があります。究極的なあるべきを考えると、AI時代になって企業のあり方が変わる、まさにBuild in的な考え方が今後非常に重要になってくる。AIが業務の中心にあった中で、再定義される業務の姿があって、企業としてAI化された後の「アフターAI」の世界になっていくと考えています。
今の仕事のあり方は、DX時代を経て今に至っているという面があると思います。これから非線形に変わっていくあり方として、たとえばAIがエッジに舞い降りてきて、SLMのようなものがパソコンの中に入れば、そもそもプロンプトを打つ必要はない世界線になるかもしれません。
業務の本質として変わらない部分はあると考えていますので、その本質を踏まえつつ、人はAIとロールシェアリング(役割分担)をしながら、どう働いていくのか。そこは非常に重要な観点だと考えています。
今のこの瞬間、それをどうトレーニングメニューに落とすのかは難しい部分です。今の業務を高度化するためのトレーニングが重要であるのは間違いありませんが、一方で、次のあるべき姿の企業に対して、必要なAIとの相対し方は何なのかというところは、誰かが考えなければいけません。そうしないと、AIが便利ツールとして個人の効率化の中で線形に進んでいくところに留まってしまうケースが起こります。
次の企業のあり方を考えた中で、その中におけるAIとの相対し方を考える。それが、主力人材を育てるための人材投資になっていくと考えています。
気づき、巻き込み、推進する力──AIが代替できない領域
――人間が構想という役割を担っていく中で、実際に求められるスキルはどのようなものでしょうか。
山本様:AI時代には人間の構想力が大事だ、という話がよく出てきますが、必ずしもそれだけではないと考えています。
AIは、人に対してヒントを与えるものだと感じています。もちろん、ロボットなどで代替されていく部分はありますが、基本的な立ち位置はそこにある。ChatGPTでも壁打ちをしながらアイデアを引き出していくことはできますが、最後に気づくのは人間です。
クイズのように、最初の質問に答えられなかったときに、ヒントを次々ともらいながら人がひらめいて答えにたどり着く。AIとの向き合い方もそれに近いと感じています。ひらめかない限りはアイデアになりませんし、アイデアが生まれたら今度は人を巻き込んでいかなければいけません。
たとえばそのアイデアを実現するのに、自分に協力してくれるのは誰か。ビジネスSNSや将来的なAIのプラットフォームでレコメンドされるかもしれませんが、実際に自分で動いて巻き込みを図らなければ、チームはできません。気づいて、巻き込んで、時には理屈ではなく力技で推進しなければならないシーンもあります。そうしたところは、人間のなせる技だと考えています。
そこから新しい構想が出来上がり、評価して最終的に意思決定するのも人間です。意思決定してビジネスのステージが進み、実行フェーズになれば、AIを使った自動化はあっても、オペレーションには人間が関与していくことになります。そうすると、新しいビジネスの中に新しいワークストリームが生まれ、それを回せる人材を育てなければいけませんし、育てていく中で様々なログが溜まり、新たな構想が壁打ちから生まれてきます。
生まれてきたものを、同じように時には力技で引っ張っていって成功に導く流れの中で、人の仕事はどんどん幅が増えていくと考えています。
――AIは決して人を代替するものではなく、人の能力を補完したうえで、さらに可能性を広げるためのもの。改めてそれを再確認させていただきました。本日は貴重なお時間をいただき、ありがとうございました。最後に、本日お話しいただいたサマリをお願いいたします。
山本様:一言で言いますと、「妄想が大事」だと考えています。これから何が起こるかは分かりません。そんな中で、ありたい姿を描き、そのありたい姿に到達するために、どんなテクノロジーを使うべきなのかという視点で考えていくことは非常に大事です。
「妄想しましょう」というところで、本日は締めさせていただければと思います。

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