
監修者
リメディ株式会社 ヘッドハンター
緒方 隆恭 | OGATA Takayuki
東京大学を卒業後、三菱UFJ銀行に新卒入社。国内支店でMUFGの各種金融ソリューションの法人営業に従事し、銀行表彰を受賞。入社3年目で海外拠点に異動・駐在し、現地進出日系企業への融資・預金・為替デリバティブ商品等の法人営業を担当。
その後、三菱UFJモルガン・スタンレー証券に出向し、投資銀行本部にてカバレッジ業務に従事。上場企業のM&A(TOB・経営統合等)やエクイティファイナンス(IPO・PO等)のオリジネーション(案件獲得活動)・エグゼキューション(案件執行)を経験。現在はハイキャリア層や金融プロフェッショナルを中心とした採用・転職支援を行う。
NOIとNCFを取り違えて同じ5%で割るだけで、10億円の物件の価格は8,000万円ずれます(本記事の架空の数値例)。不動産ファンドの取得職(アクイジション)の面接準備では、計算の速さより前提から価格までの順番を固めます。そのうえで、キャップレートや売却時の利回りを動かしたとき、価格とIRRがどちらへ動くかを先に言えるようにします。
用語は国土交通省の不動産鑑定評価基準の定義に合わせ、数値は説明用に置いた架空の前提で計算します。実在の物件や市場の利回り水準を示すものではなく、投資を勧める内容でもありません。選考の形式は会社ごとに違うため、公式に確認できた範囲だけを書きます。
想定しているのは、銀行の不動産融資、デベロッパー、売買仲介、不動産鑑定、プロパティマネジメント(PM)の経験を持ち、不動産ファンドや不動産AM会社の取得職に応募しようとしている人です。企業買収のLBOの手計算は、PEファンドのPaper LBO面接対策で扱っています。
本記事のポイント|計算は前提と向きをセットで話す
面接の前に確かめたいのは、数字を出す順番と、前提を動かしたときの結果の向きを自分の言葉で言えるかどうかです。
| 項目 | 要点 | 本文の根拠 |
|---|---|---|
| 説明の順番 | 満室想定の収入 → 空室等損失 → 運営費用 → NOI → 一時金の運用益と資本的支出 → NCF → 価格 | 不動産鑑定評価基準の収益費用項目 |
| 最初に言えるようにする幅 | 利回り5%の例では、0.1pt上がると価格は約2%下がる | キャップレートの感応度表 |
| DCFで理由を話す前提 | 割引率、売却時の利回り(最終還元利回り)、売却費用 | DCFの差の分解表・感応度表 |
| 借入を入れたときの説明 | LTVを上げたときのIRRは、上振れと下振れの両方を示す | LTVと出口利回り別のIRR表 |
| 選考の形式 | 確認した募集要項に、DCFやキャッシュフローモデルの課題の記載はない。応募先に確認する | 各社の募集要項 |
| 応募の判断 | 4つの表を前提から説明できるかで、今応募・期中AMから・学習を先に、を分ける | 応募方針の表 |
表の数字は、自分が扱ってきた案件の規模に置き換えて読んでかまいません。順番と向きが言えれば、金額が変わっても説明は崩れないからです。
取得職の募集要項が求める計算は「価格の前提を説明する力」
下の表に挙げた7社の8つの募集要項・採用ページは、いずれもキャッシュフロー分析や評価を取得の仕事そのものとして書いています。言葉は会社ごとに違うため、面接で説明を厚くしたい論点も少しずつ変わります。
| 会社・求人 | 募集要項にある計算に関わる記載 | 面接で説明を厚くしたい論点(リメディの見解) |
|---|---|---|
| クリアル/アクイジション | レントロール等の資料精査、エクセルを用いたキャッシュフロー分析、投資採算性の検討 | NOIからNCFへの組み立てと、採算の判断 |
| DBJアセットマネジメント/アクイジション担当 | バリュエーション、デューデリジェンス、ノンリコースローンの調達を含むファンド組成 | 価格の根拠と借入の条件(LTV) |
| SMBCリートマネジメント(三井住友銀行の募集)/資産取得 | 物件評価、デューデリジェンス実務、交渉・調整、契約の作成・締結 | 評価の前提と交渉条件のつながり |
| マリモ・アセットマネジメント/投資部 アクイジション | 「バリエーション(対象不動産の評価)」「アンダーライティング(投資分析)」 | 評価と投資分析の違い |
| 霞ヶ関キャピタル/海外不動産ファンド投資・AM担当 | アンダーライティング、キャッシュフロー分析、投資委員会資料等の作成。歓迎要件に財務モデリング | 感応度と、投資判断資料での見せ方 |
| 霞ヶ関キャピタル/アクイジション担当(不動産流動化事業) | 事業収支検証、アンダーライティング。必須要件に「事業収支を自ら組成できる方」 | 収支を自分で組んだ経験 |
| 大和ハウス・アセットマネジメント/採用情報 | アクイジションを「マーケットや投資収益性の分析、不動産の取得・売却」と説明 | 取得時と売却時の前提 |
| 大同生命保険/不動産AM業務 | 保有不動産のAMと、新規投資案件の獲得・評価・投資実行を担当 | 期中の数字と取得判断のつながり |
数字を出したあとの説明まで職務に含まれる
クリアルは「エクセルを用いたキャッシュフロー分析、投資採算性の検討」を、霞ヶ関キャピタルは「投資判断資料、投資委員会資料等の作成」を職務に挙げています。どちらも、出した数字を判断に使う工程まで含めた書き方です。
ここはリメディの見解ですが、面接で差がつくのは計算の速さより、前提を置いた順番を話せるかです。数字を判断に使う職務なので、答えの数字と同じくらい、どの前提を動かすと結論が変わるかを説明できるように準備します。
計算課題の有無は、応募先ごとに確認する
確認した募集要項には、DCFやキャッシュフローモデルの試験を選考で課すという記載はありませんでした。選考の流れを載せている例では、DBJアセットマネジメントのアクイジション担当がオンラインの適性試験と面接3回(選考を通じて変更の可能性あり)と書いています。マリモ・アセットマネジメントの採用ページは、カジュアル面談、役員面談、SPI試験による適性評価と親会社の人事部との確認面談を順に挙げ、ポジションによって回数や順番が変わる場合があるとしています。どちらも、DCFやキャッシュフローモデルの課題があるとは書いていません。
形式が分からない以上、同じ数値例を次の3つの形で説明できるようにしておくと慌てずに済みます。
- 口頭で聞かれた場合:結論の向きと置いた前提を先に言い、数字は丸めて答える
- その場で手計算を求められた場合:NOI、NCF、価格の順に途中式を書きながら話す
- Excelでの作成を求められた場合:前提のセルと計算のセルを分け、感応度の表を付ける
形式は、面接の案内を受けた段階で確かめてかまいません。「選考で計算やモデル作成の課題はありますか。ある場合は口頭、その場での手計算、Excelのどの形式ですか」と聞けば、準備の配分を決められます。
応募を考えている求人が複数あると、面接の案内を待たずに準備を始めたい場面もあります。求人ごとに出やすい形式の見当は、転職エージェントとの面談で求人を並べると付けやすくなります。
NOIからNCF、価格までを一つの数値例で説明する
NCFは、NOIに一時金の運用益を足し、資本的支出を引いた金額です。国土交通省の不動産鑑定評価基準は、証券化対象不動産のDCF法で使う項目として、この順番と定義を定めています。
項目の名前は鑑定評価基準の定義にそろえる
NOI・NCFという略称で話すときも、中身を基準の項目名で説明できれば、相手と定義がずれません。不動産証券化協会(ARES)の用語集も、NOIに敷金等の運用益を加え、CAPEX(資本的支出)を差し引いたものをNCFと説明しています。
| 本文での呼び方 | 鑑定評価基準の項目名 | 定義 |
|---|---|---|
| NOI | 運営純収益 | 運営収益から運営費用を控除して得た額 |
| NOIに加える項目 | 一時金の運用益 | 預り金的性格を有する保証金等の運用益 |
| CAPEX | 資本的支出 | 建物・設備等の修理、改良等の支出のうち、価値を高め、又は耐久性を増すこととなると認められる部分 |
| NCF | 純収益 | 運営純収益に一時金の運用益を加算し資本的支出を控除した額 |
迷いやすいのは修繕費との区分です。基準では、通常の維持管理や原状回復のために経常的にかかる費用を運営費用の修繕費とし、価値を高めたり耐久性を増したりする部分を資本的支出に分けます。NOIとNCFの差はこの区分で変わるため、どちらに入れたかの理由まで話せると安心です。
DCF法では、保有期間中の大規模修繕費などがいつ発生するかにも留意するよう、基準は求めています。修繕の時期を聞かれたら、毎期の積み立てとして計上したのか、実際に支出する年に計上したのかを答えられるようにしておきます。
架空物件でNOI・NCF・価格を出す
題材は、満室想定の賃料等収入が年7,000万円の賃貸物件です。前提はすべて説明のために置いた数字です。
| 項目 | 金額(万円) | 計算 |
|---|---|---|
| 満室想定の賃料等収入 | 7,000 | 前提 |
| 空室等損失 | −350 | 満室想定の5% |
| 運営収益 | 6,650 | 7,000−350 |
| 運営費用(維持管理費、PMフィー、公租公課、損害保険料など) | −1,250 | 前提 |
| NOI(運営純収益) | 5,400 | 6,650−1,250 |
| 一時金の運用益 | +20 | 前提 |
| 資本的支出 | −420 | 前提 |
| NCF(純収益) | 5,000 | 5,400+20−420 |
| 還元利回り | 5.0% | 前提 |
| 直接還元法の価格 | 100,000(10億円) | 5,000÷5.0% |
口頭で説明するときは、表を上から読み上げるより、価格を動かす前提を先に言うほうが伝わります。空室の割合を含め、表で前提と書いた数字は自分で置いたもので、残りの行はその計算結果です。面接で先に話したいのは、前提の数字をどの資料から置いたかです。
NOIを同じ利回りで割ると価格が8,000万円ずれる
NOIの5,400万円を同じ5.0%で割ると10億8,000万円になり、NCFで求めた10億円より8,000万円高く出ます。差のもとはNOIとNCFの差400万円で、資本的支出420万円から一時金の運用益20万円を引いた金額にあたります。
取得価格10億円に対する利回りも、NOIで見れば5.4%、NCFで見れば5.0%と違って見えます。利回りを口にするときは、NOIとNCFのどちらで計算したかを毎回添えてください。
キャップレートを動かしたら、価格がどちらへ何%動くかを先に言う
NCFが5,000万円のまま還元利回りが5.0%から0.1pt上がると、価格は約2%下がります。動かす幅を大きくすると、上げたときと下げたときで変化の大きさがそろわなくなります。
| 還元利回り | 価格(万円) | 5.0%との差 |
|---|---|---|
| 4.5% | 111,111 | +11.1% |
| 4.9% | 102,041 | +2.0% |
| 5.0% | 100,000 | — |
| 5.1% | 98,039 | −2.0% |
| 5.5% | 90,909 | −9.1% |
0.1ptで約2%という幅は、0.1を5.0で割った比率とほぼ同じです。暗算で向きとおおよその幅を言ってから正確な数字を計算すれば、途中で数字を間違えても説明の筋は残ります。
0.5pt動かすと、下げた側は+11.1%、上げた側は−9.1%です。価格は利回りの逆数で決まるため、利回りが下がる側の変化が大きく出ます。
ARESの用語集は、キャップレートをいくらに設定するかで評価額が大きく変わると説明しています。「この利回りの根拠は」と聞かれても答えられるよう、類似の取引事例なのか、借入と自己資金の利回りから組み立てたのかなど、どの材料から置いたかを一言添えます。
DCFでは割引率と出口の利回りを分けて説明する
DCF法の価格は、保有期間中のNCFの現在価値と、売却時の価値の現在価値を足したものです。不動産鑑定評価基準は、証券化対象不動産の収益価格を求めるときはDCF法を適用しなければならないとし、あわせて直接還元法で検証するのが適切としています。
割引率と還元利回りは役割が違う
還元利回りは、一期間の純収益から価格を直接求める率で、将来の収益の変動予測と不確実性を含みます。割引率は、将来の収益を現在の価値に割り戻す率で、キャッシュフローに織り込んだ変動の分は含めません。
基準の運用上の留意事項は、両者の関係を「R=Y−g」(Rは還元利回り、Yは割引率、gは純収益の変動率)と示しています。ただし、純収益が永続的に得られ、一定の趨勢を持つと想定できる場合に有効な式です。本記事の例はNCFを毎年5,000万円の横ばい(g=0)と置いたので、割引率と還元利回りをどちらも5.0%にそろえています。
直接還元法の10億円とDCFの差を分解する
保有5年、5年目の終わりに売却する前提でDCFを組むと、価格は9億4,776万円になり、直接還元法の10億円より約5,200万円低くなります。どこで差が生まれたかを、前提を1つずつ足して確かめます。
| 手順 | 前提 | DCFの価格(万円) | 前の手順との差 |
|---|---|---|---|
| ① | 割引率5.0%、最終還元利回り5.0%、売却費用なし | 100,000 | — |
| ② | ①に売却費用(復帰価格の2%)を加える | 98,433 | −1,567 |
| ③ | ②の最終還元利回りを5.25%にする | 94,776 | −3,657 |
手順①が直接還元法と同じ10億円になるのは、NCFが横ばいで割引率と利回りが等しいからです。そのうえで③を見ると、価格の約77%が売却時の価値の現在価値で、出口の前提が結果の大半を占めます。
最終還元利回りについて、運用上の留意事項は、価格時点の還元利回りをもとに、保有期間満了時の市場動向やそれ以降の不確実性を反映させて求めるとしています。取得時より高く置くと決まっているわけではありません。0.25pt上乗せしたなら、建物の経年や売却時の市場をどう見たのか、理由まで話せるようにしておきます。
売却費用も見落としやすい前提です。留意事項は売却に要する費用の控除を求めており、ARESの用語集は仲介手数料等を例に挙げています。
割引率と最終還元利回りの感応度表
| 割引率\最終還元利回り | 5.00% | 5.25% | 5.50% |
|---|---|---|---|
| 4.8% | 99,289 | 95,597 | 92,241 |
| 5.0% | 98,433 | 94,776 | 91,452 |
| 5.2% | 97,587 | 93,965 | 90,672 |
この例では、割引率5.0%のまま最終還元利回りを0.25pt上げると価格は約3.7%下がり、最終還元利回り5.25%のまま割引率を0.2pt上げても約0.9%の低下にとどまります。どちらの前提が効くかは保有期間やキャッシュフローの形で変わるので、面接では「この前提ならこちらが効きます」と条件を付けて答えます。
LTVを上げたときのIRRは、上振れと下振れを一緒に示す
借入を増やすとエクイティIRRが上がるのは、借入前のIRRが金利を上回る間だけです。上がる場面と下がる場面は、同じ表で並べて示すのが近道です。
LTVは有利子負債額を対象資産の価値で割った比率、DSCRはNOIを元利返済額で割った比率で、どちらも借入金返済の安全度を測る尺度だとARESの用語集は説明しています。借入を梃子にして自己資本の利回りを高める働きは、同じ用語集では「レバレッジ効果」の項目です。
ここでは取得価格10億円、NCF年5,000万円の物件に、利息だけを払う金利2.0%の借入を入れます。取得費用や税金は計算から除いた、単純な例です。
| LTV | 借入 | エクイティ | 年間の利息 | 利息を払った後のCF | 初年度のエクイティ利回り | NOI÷利息 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 0% | 0 | 100,000 | 0 | 5,000 | 5.0% | — |
| 50% | 50,000 | 50,000 | 1,000 | 4,000 | 8.0% | 5.4 |
| 60% | 60,000 | 40,000 | 1,200 | 3,800 | 9.5% | 4.5 |
| 70% | 70,000 | 30,000 | 1,400 | 3,600 | 12.0% | 3.9 |
初年度の利回りだけを見れば、借入を増やすほど有利です。ただし売却まで含めたIRRで比べると、出口の利回りしだいで結論が変わります。
| LTV | 出口5.00%(売却手取り98,000) | 出口5.25%(93,333) | 出口6.00%(81,667) |
|---|---|---|---|
| 0% | 4.64% | 3.76% | 1.44% |
| 50% | 7.31% | 5.62% | 0.78% |
| 60% | 8.66% | 6.58% | 0.41% |
| 70% | 10.93% | 8.23% | −0.29% |
出口の利回りが取得時の5.0%に近いうちは、LTVを上げるほどIRRは上がります。ところが出口が6.00%まで上がると、借入前のIRRが金利2.0%を下回り、今度はLTVを上げるほどIRRが下がります。
LTV60%で出口が6.00%の場合、当初4億円のエクイティに対して、売却後に戻るのは約2億1,667万円です。借入の元本は売却代金から先に返すため、価格の下落はまずエクイティが受け止めます。
IRRは、計算に使うキャッシュフローをそろえないと、同じ物件でも数字が一致しません。上のIRRの表は、NOIではなくNCFで計算しています。
評価基準ごとの深掘り質問と、答え方のNG例
計算の質問には、結論の向き、置いた前提、確かめたい情報の順で答えると崩れにくくなります。下の表は、各社の募集要項が挙げる職務(キャッシュフロー分析、バリュエーション、ローン調達、投資委員会資料)を、面接で確かめられそうな観点に置き換えたものです。
| 評価基準 | 深掘り質問の例 | 良い回答の構造 | NGになりやすい回答 | 準備する資料 |
|---|---|---|---|---|
| 収益の前提を置けるか | 空室等損失と運営費用はどう置きましたか | 置いた数字 → 根拠にした資料(レントロールなど)→ 価格への影響 | 「一般的な水準で置きました」とだけ答え、根拠を言わない | 自分で作った収支表1枚 |
| NOIとNCFを区分できるか | この利回りはNOIとNCFのどちらですか | 項目の定義 → 資本的支出の置き方 → 価格の差 | 略称だけで答え、資本的支出を運営費用と混ぜる | 項目の対応表 |
| 感応度を言えるか | 利回りが0.1pt上がると価格はどうなりますか | 向き → おおよその幅 → 条件(利回りの水準) | 向きを言わずに電卓で計算を始める | キャップレートの感応度表 |
| DCFの出口前提を説明できるか | 最終還元利回りを取得時より高くした理由は何ですか | 置いた数字 → 理由(経年・売却時の市場)→ 価格への影響の大きさ | 「保守的に置きました」で終わり、理由を言わない | 差の分解表、3×3の感応度表 |
| 借入のリスクを両面で話せるか | LTVを上げるとIRRはどうなりますか | 上がる条件 → 下がる条件 → 安全度の指標(LTV・DSCR) | 「レバレッジでIRRが上がります」と上振れだけを話す | LTVと出口利回り別のIRR表 |
5つの行に共通するNGは、数字だけを言って前提を言わないことです。計算が合わなかったときも、前提から順に言い直せば、議論を立て直せます。
志望動機や逆質問など、計算以外の面接準備は不動産ファンドの面接対策にまとめました。
応募先の職務欄にローン調達や投資委員会資料の記載があるかで、厚く準備したい行は変わります。下の検索から不動産ファンドの取得・AM職の求人を開き、職務欄の書き方を見比べると、先に練習する行を絞れます。
前職別に、計算論点のどこから準備するか
SMBCリートマネジメントの資産取得の募集は、開発、仲介、銀行・信託・証券の不動産ソリューション業務を必須経験の入口に並べています。入口が違えば、説明を足したい計算も変わります。
| 前職 | 募集要項で入口として挙がる例 | 話しやすい論点 | 説明を足したい論点 | 最初に練習する表 |
|---|---|---|---|---|
| 銀行の不動産融資 | ノンリコースローン業務(DBJアセットマネジメント)、不動産ソリューション業務(SMBCリートマネジメント) | LTV、DSCR、返済の安全性 | 出口の前提とエクイティIRR | LTVと出口利回り別のIRR表 |
| デベロッパー | 不動産開発業務(SMBCリートマネジメント) | 事業収支、開発の採算 | NOIとNCFの差、最終還元利回り | NOI・NCFの表、差の分解表 |
| 売買仲介 | 不動産仲介業務(SMBCリートマネジメント)、売買仲介の経験(クリアル) | 取引価格と利回りの関係 | 保有期間中のキャッシュフローとDCF | 差の分解表 |
| 不動産鑑定 | 歓迎資格に不動産鑑定士(クリアル、DBJアセットマネジメント、マリモ・アセットマネジメントの投資部アクイジション) | 項目の定義、直接還元法とDCF | 借入を入れたエクイティIRR | LTVの表 |
| PM | 賃貸不動産のプロパティマネジメント業務(SMBCリートマネジメントの資産運用) | NOIの中身、修繕とCapexの計画 | 価格への換算と借入 | キャップレートの感応度表 |
ARESの用語集では、LTVとDSCRは借入金返済の安全度を測る尺度です。ここはリメディの見解ですが、融資の経験がある人ほど同じ表を投資家の側から読み直し、エクイティがどれだけ減るかまで話す練習をすると、取得職の説明に近づきます。
SMBCリートマネジメントの資産運用の募集は、賃貸不動産のPM業務を必須経験の一つに挙げ、修繕及びCapex計画の立案や収支計画の立案・管理を職務にしています。PM出身の人は、NOIの中身を具体的に話せる強みを、価格への換算まで延ばすのが近道です。
職務経歴書には、計算で判断を変えた場面を書く
職務経歴書には、前提を変えて結論が変わった場面を、自分の担当範囲とあわせて書いておきます。面接で計算を滑らかに説明できても、書類の実務と結び付かなければ、自分の経験として伝わりにくいからです。
- 融資条件を見直した場面(LTVや返済条件をどう変えたか)
- 開発の事業収支を組み直した場面(賃料や費用の前提の置き直し)
- 査定や鑑定の価格を修正した場面(見立てを変えた項目とその理由)
- 修繕計画を変えた場面(修繕費と資本的支出の区分をどう判断したか)
金額は所属先の規程で開示できる範囲にとどめ、架空の数字で実績を埋めないでください。
今応募するか、期中AMから入るか、学習を先にするか
応募方針は、本記事の4つの表(NOI・NCFと価格、キャップレートの感応度、DCFの差の分解、LTVと出口利回り別のIRR)を、前提から口頭で説明できるかで分けます。
| 応募方針 | 当てはまる状態 | 次にやること | 募集要項で確認する記載 |
|---|---|---|---|
| (a) 取得職に今応募する | 4つの表を、前提を変えた場合も含めて口頭で説明できる | 自分の案件で同じ表を1枚作り、職務経歴書と数字の説明をそろえる | キャッシュフロー分析、投資採算性、投資委員会資料などの職務の範囲 |
| (b) 期中AMから入って取得を目指す | NOIや修繕・資本的支出の実務はあるが、価格への換算や借入を入れたIRRの経験が少ない | 期中AMの求人で、取得業務との兼務やローテーションの記載を探す | 総合職採用・ジョブローテーション、AMと取得の兼務 |
| (c) 学習を先にしてから応募する | NOIとNCFの定義や、還元利回りと割引率の違いを説明できない | 不動産鑑定評価基準と運用上の留意事項、ARESの用語集で定義を固め、数値例を自分で再計算する | 歓迎資格(ARES認定マスター、不動産鑑定士など) |
(b)を選ぶ手がかりになる記載は、次の2社にありました。大和ハウス・アセットマネジメントは総合職で採用し、数年の経験後に適宜ジョブローテーションを行うとしています。大同生命保険の不動産AMの募集は、保有不動産のアセットマネジメントとアクイジションを同じ担当が担う内容です。
どちらも取得への異動を約束するものではありません。面接では「取得業務に関わる時期と条件」を確認してください。
ここはリメディの見解ですが、上の表で詰まった論点によって入口を選べば、(b)や(c)も遠回りにはなりません。定義で詰まったなら(c)、価格への換算や借入の説明で詰まったなら(b)も並べて比べる、という分け方です。
学習の目安として、クリアル、DBJアセットマネジメント、SMBCリートマネジメント、マリモ・アセットマネジメント(投資部アクイジション)の募集要項は、ARES認定マスター(不動産証券化協会認定マスター)を歓迎要件に挙げています。
取得職が合うのは、前提を動かして価格やIRRの変化を確かめる作業を、自分の手で回したい人です。一方で、物件情報を集める営業に強みがあり計算の説明は分担したい人は、クリアルのように営業の力と数字の力を分けて応募要件を書く求人から選ぶほうが、強みを出しやすいでしょう。
期中AMの仕事と求人の選び方は不動産アセットマネージャーへの転職、取得と期中の違いは不動産AMのアクイジションと期中運用の比較で詳しく扱っています。
面接前に準備する資料と、相談した方が早いケース
面接の前に用意したいのは、自分で再計算した数値例1枚と、感応度を口頭で言うための短いメモです。ここまでは一人で進められる準備です。
自分で進めてよい準備
- 本記事の数値例を、電卓かExcelで一度自分で再計算する
- 前職で扱った案件の規模に置き換え、NOI、NCF、価格の順に練習用の1枚にまとめる(守秘に触れる数字は架空に置き換える)
- キャップレート、出口の利回り、LTVを動かしたときの向きと幅を、表を見ずに言う練習をする
- 不動産鑑定評価基準の収益費用項目と、還元利回り・割引率の定義を読み直す
表を見ずに前提と向きを言えるようになれば、計算面の準備は面接で使える段階に入っています。
相談した方が早いケース
- 応募先に計算課題があるか、どの形式かが分からない
- 取得職と期中AMのどちらの求人に出すかを決めきれない
- 職務経歴書に書いた実務と、面接で話す計算の説明がつながらない
求人ごとの選考形式や担当範囲は、公開情報だけでは分からないことがあります。相談先の選び方は、不動産ファンドに強い転職エージェントの選び方で、面談で使える確認の質問とあわせて解説しています。
候補の求人を持ち寄れば、どの求人から準備を進めるかや、職務経歴書のどの場面を面接の数値例に使うかを、不動産領域を担当するエージェントと一緒に決められます。
不動産ファンドのDCF面接でよくある質問
Excelでモデルを作る課題は出ますか
募集要項だけでは判断できません。確かめ方は、記事前半の「計算課題の有無は、応募先ごとに確認する」で扱っています。練習でIRRを出す場合は、ExcelのIRR関数を使います。ARESの用語集も、IRRはこの関数で求めることが多いと説明しています。
IRRを暗算で出せないと不利ですか
暗算の正確さがどこまで見られるかは、確認した募集要項からは分かりません。準備で優先したいのは、前提を動かしたときにIRRが上がるか下がるかを先に言えることです。本記事のLTVの表のように借入の効果が逆転する場面を説明できれば、細かい数字は電卓やExcelで確かめながら話を進められます。
IRRはNOIとNCFのどちらで計算しますか
どちらか一方に決まっているわけではないので、計算に使ったキャッシュフローを添えて答えます。ARESの用語集はNOIを使ってIRRの式を説明していますが、不動産鑑定評価基準のDCF法で毎期の収益に使うのは、資本的支出を控除した純収益(NCF)です。
不動産鑑定士やARES認定マスターの資格は必要ですか
本記事の表に挙げた8つの募集要項・採用ページには、どちらかを必須要件にしたものはなく、クリアルやDBJアセットマネジメントは両方を歓迎要件に挙げていました。ただし、マリモ・アセットマネジメントのファンド運用部マネージャー・チーフ(アクイジション業務を含む)は、ARES証券化マスター、不動産コンサルティングマスター、ビル経営管理士、不動産鑑定士のいずれかの保有を必須要件にしています。資格の扱いは募集ごとに違うため、必須と歓迎のどちらの欄にあるかを応募前に見ておきます。ARES認定マスターは、不動産証券化に関する高度の専門知識と高い職業倫理を持つ人に称号を与える資格制度です。資格の有無にかかわらず、本記事の数値例を前提から説明できるかで準備の進み具合を確かめられます。
最近のキャップレート水準を聞かれたらどう答えますか
覚えている数字を言い切るより、出典と時点を添えて答えます。日本不動産研究所は「不動産投資家調査」を定期調査として行っています。本記事は市場の水準を示していないため、応募前に最新の公表資料で確認してください。
関連記事
計算の準備を終えたら、面接全体の準備と応募先選びを、次に読むべき記事で確かめてください。

