
監修者
リメディ株式会社 ヘッドハンター
緒方 隆恭 | OGATA Takayuki
東京大学を卒業後、三菱UFJ銀行に新卒入社。国内支店でMUFGの各種金融ソリューションの法人営業に従事し、銀行表彰を受賞。入社3年目で海外拠点に異動・駐在し、現地進出日系企業への融資・預金・為替デリバティブ商品等の法人営業を担当。
その後、三菱UFJモルガン・スタンレー証券に出向し、投資銀行本部にてカバレッジ業務に従事。上場企業のM&A(TOB・経営統合等)やエクイティファイナンス(IPO・PO等)のオリジネーション(案件獲得活動)・エグゼキューション(案件執行)を経験。現在はハイキャリア層や金融プロフェッショナルを中心とした採用・転職支援を行う。
FASの中途採用では、監査、融資、経営企画などの実務経験を応募条件に含む職種があります。FASでの勤務経験がない人にも応募の機会があり、これまで担当した業務に応じて候補となる部門を絞れます。
例えば、KPMG FASの財務DDの募集では、会計分野の資格・知識とBig4監査法人での勤務経験が必要です。データ分析を用いるアドバイザリー職では、経営企画やFP&Aなどの経験も応募条件に含まれます。部門を選ぶ際には、こうした経験条件と、入社後に担当する調査・分析・実行支援の内容が判断材料になります。
FASとはどのような仕事ですか?
FASは、企業の買収や売却、価値評価、事業再生などを支援するアドバイザリー業務の総称です。買収案件では、対象会社の財務調査、企業価値の算定、買収後の統合支援などを担当します。
製造会社の買収を例にすると、調査の出発点になるのは売上や売掛金などの資料です。下表の会社では、売上高が20億円から24億円へ増加し、期末の売掛金残高が3億円から6億円へ増えています。
買収対象会社の売上と売掛金
| 項目 | 前期 | 当期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 20億円 | 24億円 |
| うち、大口顧客A社への売上 | 2億円 | 6億円 |
| その他の顧客への売上 | 18億円 | 18億円 |
| 期末の売掛金残高 | 3億円 | 6億円 |
売掛金の増加理由
売掛金が増える理由には、期末近くへの売上の集中、契約上の支払期限の延長、支払期限を過ぎた未入金などがあります。理由を特定するには、月別売上、契約の支払条件、入金実績の照合が必要です。残高が倍になったという情報だけで、回収に問題があるとは判断できません。
財務DD:収益力と売掛金の調査
財務デューデリジェンス(財務DD)では、買収対象会社の財務を調べ、買い手が取引条件を検討するための情報を報告します。上の会社では、増収分の4億円がすべてA社向け売上の増加によるものです。A社との取引の継続性は、今後の収益を見込むうえで調査すべき論点となります。
この取引を調べる担当者は、顧客別・月別の売上を集計し、契約書や受注状況と照合します。売掛金については、支払期限と入金状況を一覧にして、期限前の未入金と期限を過ぎた未入金を区別します。資料の不足や食い違いがあれば、対象会社へ追加資料を依頼し、担当者に経緯を聞き取ります。
調査途中の報告メモ例
当期の増収はA社向け売上の増加による。その他の顧客への売上は横ばい。
A社との取引の継続性、期末売掛金の増加理由は未確認。事業計画に今後の成長を織り込む際は、契約内容と受注状況の検証を要する。資金計画には代金の回収までに必要な期間を反映する。
調査結果は価格や契約条件を検討する材料となり、買収の判断は買い手が行います。KPMG FASのTS部門の募集では、このM&Aに関する財務DDを職務内容としています。
価値評価:事業計画を用いた企業価値の算定
価値評価の担当者は、事業計画の前提を検討し、企業や事業の価値を算定します。この会社なら、A社との取引が続く場合と縮小する場合について、将来の収益と必要資金を計算することが検討の一例です。
資金の見通しには、代金の回収時期も影響します。売上を計上してから入金までの期間が長くなると、その間の支出を賄う運転資金が必要になるためです。財務モデルには売上成長率や回収時期などの前提を反映し、それぞれの変化が企業価値に与える影響を計算します。
KPMGの価値評価サービスでも、企業・事業価値の算定、財務モデルの作成、シナリオ分析を提供しています。
PMI:買収後の組織・業務の統合
PMIは、買収後の組織、業務、システムなどの統合を進める仕事です。上の会社では、営業と経理が顧客別の売上や入金予定を共有する仕組みを整える施策が考えられます。
回収管理の運用を整えるには、一覧の作成者、状況を報告する時期、対応を決める会議まで定めます。作成・報告・判断の担当が決まることで、未入金の取引に対して誰が次の対応を行うかを明確にできます。
回収管理の運用案
- 経理が毎週、顧客別の売掛金と入金予定を一覧にする。
- 営業担当者が会議の前に、予定どおり入金されていない取引の状況を追記する。
- 営業・経理の責任者が週次会議で、顧客への連絡担当と対応期限を決める。次の会議で対応結果を共有する。
PwCのディールアドバイザリーでも、DD・PMIを支援領域に挙げています。財務調査から統合までの担当範囲を知ると、監査、企画、業務改善などの経験をどの仕事で使うか、具体的に検討できます。
応募部門を検討する段階では、リメディのヘッドハンターが経歴と希望を聞き取り、候補となる求人を提案します。複数の部門に関心がある段階から相談できます。
M&Aアドバイザリー・ビジネスDD・事業再生の担当業務
M&Aアドバイザリーの取引設計と実行支援
M&Aアドバイザリーでは、企業価値の評価や取引構造の検討を通じて、取引の組み立てと実行を支援します。担当する工程に応じて、資料の分析や関係者との調整を行う仕事です。KPMG FASのCorporate Finance募集には、M&Aに関する助言、価値評価、取引構造の検討などが記載されています。
ビジネスDDの市場・顧客・競争環境の分析
ビジネスDDでは、市場や顧客、競争環境を調べ、事業の成長見通しを検討します。製造会社の例では、A社向け売上が増えた背景や、その成長が続く根拠を調査します。KPMG FASのStrategy募集には、ビジネスDD、事業計画策定、企業価値向上支援が含まれています。
事業再生の計画策定と利害調整
事業再生では、会社の財務・事業の状況を調べ、資金繰りや事業の立て直しを支援します。計画を実行するためには関係者の協力が必要となるため、分析と計画策定に加えて、利害の調整も担当します。KPMG FASのTurnaround & Restructuring募集には、財務・事業DD、財務モデリング、計画づくり、利害調整などが挙げられています。
部門・職位別の応募条件
KPMG FASの中途採用には、監査経験を求める財務DD、経営企画などの経験を対象とするデータ分析職、融資経験も対象に含むCorporate Financeの募集があります。いずれも関連する実務経験を条件に含むため、FASでの勤務経験の有無に加え、担当してきた業務と募集条件の対応が応募先選びの基準になります。
| 募集職種 | 中心となる仕事 | 主な経験条件 |
|---|---|---|
| TS アソシエイト/シニアアソシエイト | M&Aの財務DD | 会計分野の資格・知識と、Big4監査法人での勤務経験 |
| CVA M&A・戦略コンサルタント:データストラテジスト | データ分析を用いたM&A・経営支援 | 所定のコンサル業務、または経営企画・財務企画・FP&A等で2年以上の実務経験と、データ分析への強い関心 |
| Corporate Finance | M&Aの助言、価値評価、取引構造の検討 | 共通条件は、国内金融機関の融資、経営企画、監査等の対象業務で3年程度以上。マネージャー候補・シニアアソシエイトではM&A案件の実行経験も必須 |
TSの資格・知識と監査法人経験
TSの募集では、公認会計士、公認会計士試験合格者、外国会計士資格、会計のバックグラウンドを持つMBAを挙げ、これらと同等の資格・知識を求めています。国内・海外のBig4監査法人での勤務経験も必須であり、資格・知識と実務の両方が条件となります。
学歴は4年制大学卒以上で、英語力とOfficeソフトの使用スキルも必要です。英語については、ビジネス経験が少なくても可と記載されています。監査出身の応募者は、担当した業種、検討した会計上の論点、報告した内容を示すことで、財務DDに関連する経験を説明できます。
CVAの経営企画・FP&A経験と分析ツール
CVAのデータストラテジストの募集では、経営企画や財務企画、FP&Aなどを必須経験の選択肢に含め、会計士資格を必須としていません。FP&Aは、予算・見通しの策定や業績分析を通じて経営判断を支える仕事です。応募には所定の業務で2年以上の経験と、データ分析への強い関心が求められます。
分析ツールの実務利用は歓迎条件で、ツール未経験者には研修や実務を通じた習得を案内しています。所定の実務経験を持つ応募者は、ツールの使用歴がなくても応募を検討できます。
この職種には、4年制大学卒以上、Officeスキル、論理的思考、コミュニケーション、チームワークなどの要件もあります。日本語を母語としない応募者にはJLPT N1相当の日本語力と、日本でのビジネス経験が必要です。ビジネスを遂行できる英語力は歓迎条件に含まれます。
Corporate Financeの共通条件と職位別要件
Corporate Financeの募集では、国内金融機関での融資、事業企画・経営企画・投資審査、監査などを関連業務に挙げています。共通条件は対象業務で3年程度以上の経験、4年制大学卒以上の学歴、業務を遂行する英語力、Officeスキルなどです。
職位別では、マネージャー候補・シニアアソシエイトにM&A案件の実行経験を求めています。アソシエイトの欄では対象領域の経験を「望ましい」とし、ビジネスレベルの英語力を必須としています。この記載は共通条件と併記されており、アソシエイトの実務経験要件が免除されるとは読み取れません。
融資経験を持つ応募者にとって、Corporate Financeは関連経験を検討できる候補の一つです。マネージャー候補・シニアアソシエイトを希望する場合には、融資経験に加えてM&A案件を実行した経験が条件となります。
応募部門を絞った後は、職位や希望年収に合う募集を探す段階です。下の求人検索から、リメディが扱うFASの募集を探せます。
職務経歴書に記載する分析・提案の経験
職務経歴書では、担当業務に加え、使用した資料、検討した論点、本人の行動、報告や提案の相手を記載します。採用担当者がこれらを読めば、応募者がどの範囲まで調査・分析・提案を担ったのかを把握できます。
経営企画の予実分析
経歴書の記述例
月次売上の予算と実績の差を商品別・顧客別に分解。数量、単価、構成比の変化を整理し、営業責任者への聞き取りと合わせて、翌四半期の見通し修正案を経営会議に提出した。
この例の担当範囲は、売上の分析から見通しの修正案の提出までです。意思決定を行った経営会議と、分析・提案を担当した本人の役割が分かる記述になっています。
融資業務の資金需要分析
経歴書の記述例
取引先の決算書と資金繰り表から、運転資金が増えた理由を分析。売掛金の回収計画を踏まえて必要資金を整理し、融資稟議に記載した。
ここでは、融資稟議を書く際に用いた資料と、資金需要を判断するために検討した項目を示しています。融資の最終決裁を別の担当者や会議が行う場合にも、本人の担当範囲を正確に記載できます。
監査業務の資料照合と論点報告
経歴書の記述例
売上の計上時期を検討するため、契約書、出荷記録、検収資料を照合。資料間で一致しない点を整理し、上位者への報告メモを作成した。
以上の3例は編集部が作成した架空の記述例です。応募書類には、本人が実際に担当した業務と役割を記載します。
監査経験を記載する際には、検討対象となった会計処理と、裏付けに使った資料を具体化します。資料の照合、論点の整理、報告という一連の作業を記すと、財務DDの調査業務に関連する経験を伝えられます。
面接での経験説明と応募書類の準備
面接に向けては、職務経歴書に記載した仕事を一つ取り上げ、資料を選んだ理由と分析の手順を説明できるようにします。経営企画の予実分析なら、売上を商品別・顧客別に分けた理由を説明します。
経験説明の練習例
質問:売上を商品別・顧客別に分けて分析した理由を教えてください。
回答例:全社の売上が計画を下回った原因を調べるためです。数量と単価のどちらが変化したかによって、翌四半期の見通しに反映する内容が変わると考えました。商品別に分析すると、主力商品の販売数量が減っていました。顧客別の売上と営業責任者から聞いた受注状況をもとに、見通しの修正案を作成しました。
編集部作成の架空の練習例です。特定企業の出題実績を示すものではありません。
この経歴から志望理由を述べる場合は、「自社の予算分析で培った経験を使い、買収対象の事業計画を検討する仕事に関わりたい」と説明できます。担当した分析業務と、転職後に希望する仕事を続けて述べることで、応募先を選んだ理由が具体的になります。
応募書類は募集職種によって異なります。紹介したTSとCorporate Financeでは履歴書・職務経歴書・志望動機書、CVAでは履歴書と和文・英文の職務経歴書を求めています。
年収の内訳と案件ごとの働き方
固定給・賞与・手当の区分
TSの募集では経験・能力を考慮した年俸制、CVAでは年俸制と業績賞与を案内しています。具体的な金額の記載がないため、この募集要項から職位別の年収相場は算出できません。
個別に提示された年収を現職と比べる際は、固定部分、賞与、手当を分けます。支給が決まった金額と、業績などによって変わる金額を区別するためです。
| 項目 | 現職の前年実績 | 提示された条件 |
|---|---|---|
| 固定部分 | 650万円 | 750万円 |
| 賞与 | 150万円 | 業績によって変動・金額未確定 |
| 合計 | 800万円 | 未確定 |
この例では、固定部分が100万円増えます。転職後の年収総額が現職の前年実績800万円を上回るかは、賞与額が決まるまで未確定です。残業手当やその他の手当がある場合も、固定部分に含まれる金額と別途支給される金額を区別すると、重複や漏れを避けて比較できます。
調査・調整業務の負担と繁忙期の分担
財務DDでは、不足する資料を集め、対象会社の説明と数字を照合します。価値評価では事業計画の前提を修正し、PMIでは部門ごとの業務を調整します。こうした作業を含めて、入社後の仕事内容を捉える必要があります。
数字の変化の理由を調べることに関心がある人は、財務DDの調査過程に面白さを感じるかもしれません。資料の追加依頼や関係者への聞き取りも伴うため、決まった条件で計算する作業を想定していた人には、予想と異なる仕事になる可能性があります。
勤務時間の記載と、実際の残業時間も区別が必要です。平均残業時間からは、作業が集中する時期や担当者ごとの分担までは分かりません。
面談で「直近の案件で作業が集中した時期には、何が重なり、チームでどう分担しましたか」と尋ねれば、忙しさが生じた状況と、各担当者の役割を聞けます。案件の具体例を通じて、担当する仕事と生活への影響を検討できます。
応募部門の選定と職務経歴書の相談
リメディでは、経歴や希望に応じた求人の提案と職務経歴書の添削を行っています。希望業界や応募先が決まっていない段階から相談できます。
経営企画経験者なら、予算策定や業績分析で担当した業務と、今後扱いたい分析テーマが相談の材料になります。監査経験者なら、担当した業種や会計上の論点、取引のどの工程に関心があるかをもとに、ヘッドハンターと応募部門や経歴書の記載内容を検討できます。

