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【2026年6月更新】ヘルステック(医療IT)業界とは?市場規模・主要企業・将来性・規制動向と最新トレンドをわかりやすく解説

監修者

リメディ株式会社 ディレクター

馬越 雄司 | MAGOSHI Yuji

神戸大学を卒業後、阪急阪神ホールディングスに新卒入社。経理事業部に配属となり、グループ企業5社を担当。担当企業の決算業務や税務、IFRS改正対応業務に従事。
その後リクルートに転職しキャリアアドバイザーとして、候補者様に徹底的に向き合いながら、20代から50代まで様々な業界・職種の方のキャリア支援に従事。結果として、新人賞をはじめ、顧客価値貢献・チーム貢献に関する複数の賞を受賞。
現在はディレクターとして、M&A業界、戦略・総合コンサルティングファーム、メガベンチャー企業に特化した転職サポートを行い、業界トップクラスの支援実績を誇る。

医療IT業界(ヘルステック)は、医療・ヘルスケア領域にIT・データ・AIを組み合わせた事業領域の総称です。医療法・薬機法・個人情報保護法(医療情報ガイドライン)の三層規制下で運営されるため、純粋なIT業界とは事業ロジックが異なり、規制・診療報酬・医療従事者ネットワークといった医療領域固有のドメインを理解した事業設計が求められます。

本記事では、医療IT業界の定義、過去10年の規制経緯、市場規模、主要5分野(医療従事者向けプラットフォーム・オンライン診療・電子カルテSaaS・医療人材紹介・製薬マーケティングDX)、主要企業の年収水準、最新トレンド、そして医療IT業界から隣接業界へのキャリアパスまでを、公的統計・有価証券報告書・弊社独自集計に基づいて整理します。中途転職を検討するビジネスパーソンにとっての一次的な業界マップとして活用してください。

目次

本記事のポイント

医療IT業界に関してよくある7つの疑問を、公的統計と各社有報を基に整理しました。本記事の要旨を素早く把握したい方は、まずFAQに目を通してください。

Q医療IT業界(ヘルステック)とはどんな業界ですか?
A医療・ヘルスケア領域にIT・データ・AIを組み合わせた事業領域の総称です。医療従事者向けプラットフォーム、オンライン診療、電子カルテSaaS、医療人材紹介、製薬マーケティングDX、治験DX、医療機関向け経営支援SaaS、ヘルスケアアプリ、美容医療プラットフォームなどが含まれます。医療法・薬機法・個人情報保護法の三層規制下で運営される点が一般的なIT業界との違いです。
Q医療IT業界の市場規模はどれくらいですか?
A経済産業省「健康・医療・介護分野の生産性向上に向けて」によると、公的保険外のヘルスケア産業の市場規模は2025年度に約33兆円規模に達する見込みで、2030年には約77兆円規模への拡大が見通されています。国内医療情報システム市場は富士キメラ総研の調査によると2024年度で約4,800億円規模、オンライン診療関連市場は前年比+25%程度の成長率で拡大しているとされます。
Q医療IT業界の将来性はどうですか?
A厚生労働省「医療DX令和ビジョン2030」を背景に、電子処方箋の全国運用、マイナ保険証の本格普及、標準型電子カルテの整備など、医療DXのインフラ整備が進行中です。生成AIの医療応用、製薬マーケティングDX、海外展開の拡大も追い風となっており、構造的な拡大余地が大きい領域として中途採用市場でも注目度が高まっています。
Q医療IT業界の主要企業はどこですか?
A医療従事者向けプラットフォームのエムスリー、ヘルスケア人材プラットフォームのエス・エム・エス、オンライン診療・電子カルテSaaSのメドレー、医療人材紹介JVのエムスリーキャリア、製薬マーケティングDXのエムスリーマーケティング、エンジニアHRテックのファインディ、美容医療プラットフォームのトリビューなどが代表的です。
Q医療IT業界の仕事内容は何ですか?
Aビジネス開発(医療機関・製薬企業向け)、コンサルタント、フィールドセールス、カスタマーサクセス、ソフトウェアエンジニア(バックエンド・フロントエンド・SRE)、データサイエンティスト、プロダクトマネージャー、医療人材紹介のキャリアアドバイザー、医療従事者の専門職(保健師・看護師・管理栄養士等)が代表的な職種です。医療領域固有の規制理解と一般的なITスキルを両立できる人材へのニーズが高い領域です。
Q医療IT業界に向いている人はどんな人ですか?
A医療領域の課題をテクノロジーで解決する意志を持ち、規制対応とプロダクト開発を両立できる人材が向いています。事業を自律的に推進できるアントレプレナーシップ、データドリブンな意思決定ができる論理的思考力、不確実性の高い環境を楽しめるマインドが評価される傾向にあります。特にエムスリー・エス・エム・エス等の医療プラットフォーム系企業では、医師・薬剤師・看護師等の医療従事者との対話に違和感のない姿勢が求められます。
Q医療IT業界からの転職先として何が多いですか?
A弊社の独自調べによると、近年は医療人材紹介、BIG4系のヘルスケアコンサルティング部門、大手製薬企業のDX推進部門、医療系スタートアップの経営幹部、医療機関の経営企画、メガテックのヘルスケア事業部門への転職が継続的に増えています。医療領域のドメイン知見とIT・データスキルの両方を持つ人材は隣接業界で評価されやすい資産です。

医療IT業界(ヘルステック)とは

この領域は、医療・ヘルスケアにIT・データ・AIを組み合わせた事業領域の総称で、「ヘルステック」「デジタルヘルス」とほぼ同義で用いられます。経済産業省・厚生労働省の各種公開資料では「ヘルスケア産業」の一部として位置付けられており、医療従事者向けプラットフォームから電子カルテSaaS、医療人材紹介、製薬マーケティングDXまで幅広い領域を含む点が特徴です。

事業上の特徴は、医療法・薬機法・個人情報保護法(医療情報ガイドライン)の三層規制下で運営される点にあります。診療報酬制度(厚労省の中央社会保険医療協議会が定める公定価格)にビジネスモデルが直接連動するため、純粋な民間IT事業者とは収益構造が大きく異なります。オンライン診療事業者の市場拡大は、診療報酬改定や厚労省通知の節目で大きく動いてきました。

業界の主要プレーヤーは、医師の約9割(34万人以上)が登録する医療従事者専用プラットフォーム「m3.com」を運営するエムスリー、医療・介護人材プラットフォームを軸にアジア展開を進めるエス・エム・エス、オンライン診療と電子カルテSaaSを展開するメドレーなど、上場プラットフォーム企業を中心に構成されます。スタートアップ領域では、美容医療口コミのトリビュー、エンジニア向けHRテックのファインディのように、医療隣接領域で特化型サービスを展開する企業が成長しています。

就業の観点では、医療領域固有のドメイン知見(規制・診療報酬・医療従事者ネットワーク)とIT・データスキルの両方を持つ人材へのニーズが構造的に高い領域です。中途転職市場では、製薬企業・医療機関出身者がIT・データスキルを身に付けて医療IT業界に転じるパターン、IT業界出身者が医療ドメインを習得しながら医療IT企業に転じるパターンの双方が観察されます。

業界概要

医療IT業界は事業領域別に大きく5つのサブセグメントに分かれます。それぞれ顧客基盤・収益モデル・キャリアの広がりが異なるため、業界研究の出発点としてはサブセグメントの理解が欠かせません。同じ「医療IT」と言っても、医療従事者プラットフォームと医療人材紹介、オンライン診療と電子カルテSaaSでは日々の業務イメージが大きく異なります。志望先を絞り込むときは、各分野の事業特性と自分の志向の重なりを丁寧に検討する必要があります。

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サブセグメント主要企業の例主要顧客特徴
医療従事者向けプラットフォームエムスリー、メドピア製薬企業・医師会員医師基盤と製薬マーケティングDXが収益源
オンライン診療・電子カルテSaaSメドレー、MICIN、Ubie医療機関・患者診療報酬制度と運用ガイドラインに準拠
医療人材紹介プラットフォームエス・エム・エス、エムスリーキャリア、MRT医療機関・医師・看護師・薬剤師医療従事者の偏在問題が事業基盤
製薬マーケティングDXエムスリーマーケティング、メディサイエンスプラニング製薬企業MR活動のデジタル補完
ヘルスケアアプリ・美容医療プラットフォームトリビュー、FiNC個人・美容医療機関消費者向けプラットフォームと自費領域
出所:弊社独自調べ

業界の歴史と変遷

現在の医療IT業界の輪郭は、過去10年間の規制緩和と医療DX推進の流れで形成されました。出発点の1つとなった2015年の厚労省通知「情報通信機器を用いた診療について」では、オンライン診療における初回対面原則の例外整理が示され、業界の事業設計が大きく変わりました。

その後、2018年の診療報酬改定でオンライン診療料が新設され、2020年のコロナ特例措置で初診対面原則が時限的に緩和、2022年に初診からのオンライン診療が恒久的に容認される、という流れで業界地図が組み替わりました。2023年の電子処方箋運用開始、2024年のマイナ保険証本格運用、2024〜2026年の標準型電子カルテ普及といった医療DXインフラの整備も同時並行で進行中です。リメディが過去にインタビューしているブティックス専務取締役の速水様のように、金融出身からヘルスケア領域のM&A仲介事業を立ち上げる起業家も近年は目立つ存在となりました。

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規制 / 制度概要
2015オンライン診療 部分解禁厚労省通知「情報通信機器を用いた診療について」で初回対面原則の例外整理
2018オンライン診療料 新設診療報酬改定で算定要件を明確化
2020コロナ特例措置初診対面原則の時限的緩和。オンライン診療事業者の市場が急拡大
2022オンライン診療 恒久化初診からのオンライン診療が恒久的に容認、診療報酬本則に組込み
2023電子処方箋 運用開始厚労省「電子処方箋管理サービス」が全国運用へ
2024マイナ保険証 本格運用マイナンバーカードと健康保険証の一体化
2024-2026標準型電子カルテ 普及期厚労省「医療DX令和ビジョン2030」ロードマップに基づく標準化
出所:厚生労働省 各種公表資料・「医療DXの推進に関する工程表」・「医療DX令和ビジョン2030」を基に弊社独自調べ

医療IT業界の主要5分野

「医療 IT」 と一括りに見えても、 顧客が 医師個人 / 製薬企業 / 一般生活者 のどこに位置するかでビジネスモデルが大きく異なります。 医師基盤の上でビジネスを組み立てるエムスリーと、 一般生活者を対象にする美容医療プラットフォームでは、 求められる職種スキルも年収レンジも別物です。 中途で医療 IT に踏み込む際は、 5 つのサブセグメントのどこを軸にするかで景色が変わります。

  1. 医療従事者向けプラットフォーム
  2. オンライン診療・電子カルテSaaS
  3. 医療人材紹介プラットフォーム
  4. 製薬マーケティングDX
  5. ヘルスケアアプリ・美容医療プラットフォーム

1. 医療従事者向けプラットフォーム

医療従事者専用のオンラインプラットフォームを運営し、医療従事者の業務支援と製薬企業のマーケティング支援を両輪とする事業です。エムスリーの「m3.com」は日本の医師の約9割(34万人以上)が会員登録しており、製薬企業のMR(医薬情報担当者)活動を補完するデジタルツール「MR君」が代表的なサービスです。グローバルでも米国・中国・韓国など10カ国以上に展開しており、日本発の医療プラットフォームとして国際展開を進めています。

2. オンライン診療・電子カルテSaaS

医療機関向けに、オンライン診療プラットフォームやクラウド型電子カルテSaaSを提供する事業領域です。メドレーの「CLINICS」、MICINの「curon」が代表例で、2022年の初診からのオンライン診療恒久化以降は実医療機関の業務フロー整流化フェーズに移行しています。診療報酬制度との整合性、医療情報の取扱ガイドライン準拠、医療機関側のITリテラシーといった独特の制約条件があり、SaaS事業のなかでも導入リードタイムが長い領域です。

3. 医療人材紹介プラットフォーム

医師・薬剤師・看護師・介護職員などの医療従事者を対象とした人材紹介・求人メディアを展開する事業領域です。エス・エム・エスは「ナース人材バンク」「カイゴジョブ」を軸に介護・医療人材プラットフォームを国内外で運営しており、エムスリーキャリアはエムスリーとエス・エム・エスの合弁会社として医師人材紹介を中心に経営支援・産業保健・M&A支援まで事業を広げています。MRT、メドレー(ジョブメドレー)、クリーク・アンド・リバー社(医師等プロフェッショナル人材)なども同領域の主要プレーヤーです。

4. 製薬マーケティングDX

製薬企業向けに、医師や薬剤師に対する情報提供活動のデジタル化を支援する事業領域です。エムスリーマーケティング(前身:株式会社メディサイエンスプラニング、1982年設立)は製薬企業のメディカルアフェアーズ支援や臨床研究支援を担い、グループ親会社のエムスリーが運営するm3.comの医師基盤を活かしたデジタルマーケティング支援が強みです。MRの対面活動が制約された期間を経て、製薬企業の販促予算は対面MRからデジタルチャネルへの一部シフトが恒常化しつつあります。

5. ヘルスケアアプリ・美容医療プラットフォーム

個人向けのヘルスケアアプリや、自費診療領域である美容医療のプラットフォームを展開する事業です。トリビューは美容医療口コミ・予約アプリ「トリビュー」を運営し、自費領域の情報非対称性を解消するプラットフォームとして成長しています。生活習慣病予防・メンタルヘルス予防のヘルスケアアプリ、フィットネスや栄養管理のアプリなども広い意味でこの領域に含まれ、消費者向けプロダクトの完成度が事業評価の中心軸となる領域です。

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分野収益モデル主要顧客強みの源泉
医療従事者プラットフォーム製薬マーケ・有料会員製薬企業・医師会員医師基盤の規模
オンライン診療・電子カルテSaaSSaaS月額・診療報酬連動医療機関規制対応とUX
医療人材紹介成功報酬医療機関・医療従事者候補者ネットワーク
製薬マーケDXマーケ受託・コンサル製薬企業医師基盤連携
ヘルスケアアプリ・美容医療広告・課金・予約手数料個人・自費医療機関消費者UXとデータ
出所:弊社独自調べ

医療IT業界の市場規模と成長率

医療IT業界の市場規模を捉えるうえでの一次資料は、経済産業省「健康・医療・介護分野の生産性向上に向けて」と厚生労働省「医療DX令和ビジョン2030」関連資料が出発点になります。経済産業省の試算によると、公的保険外のヘルスケア産業の市場規模は2025年度に約33兆円規模に達する見込みで、2030年には約77兆円規模への拡大が見通されています。

個別の医療IT市場については、富士キメラ総研の「医療IT・ヘルスケアIT関連市場調査」によると、国内医療情報システム市場は2024年度で約4,800億円規模、オンライン診療関連市場は前年比+25%程度の高成長を維持しているとされます。マクロの国民医療費は厚生労働省「令和4年度 (2022年度) 国民医療費の概況」によると約46.7兆円規模 (対GDP比 8.24%) であり、このうちの一部にIT投資が割り当てられている構造です。市場規模を「ヘルスケア産業全体」「医療情報システム市場」「オンライン診療市場」のどの軸で測るかで業界の全体像は変わってきますが、いずれの指標で見ても医療ITは構造的な成長領域として位置付けられています。

転職市場の視点では、公開求人レンジをもとに整理すると、オンライン診療の規制緩和以降、医療IT・ヘルステック関連の公開求人数は段階的に拡大してきました。下表は、リメディが横断的に観察してきた公開求人プラットフォーム複数を対象に、「医療IT」「ヘルステック」「医療DX」「電子カルテSaaS」「オンライン診療」を含む常時掲載求人を時系列で集計した独自データです。規制の節目との対応関係が一定程度見えます。

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時期医療IT・ヘルステック関連 求人数 (相対指数)規制・環境イベント
2018 (オンライン診療料新設前後)1.0 (基準)診療報酬改定で算定要件明確化
2020 (コロナ特例)約 1.6 倍初診対面原則の時限的緩和
2022 (恒久化)約 2.1 倍初診からのオンライン診療 恒久化
2024-2025 (医療DX推進後)約 2.6 倍電子処方箋全国運用、マイナ保険証本格運用
出所:弊社独自調べ

規制緩和の節目ごとに求人数の絶対水準が階段状に切り上がっており、医療IT領域の人材需要が短期的なブームではなく構造的に拡大していることが分かります。2024年以降は標準型電子カルテ普及、生成AIの医療応用、製薬マーケティングDXの深化を背景に、特にエンジニア・データサイエンティスト・プロダクトマネージャー職の求人が継続的に増加してきました。

医療IT業界の最新トレンド5選

オンライン診療の恒久化 (2022年改訂) + マイナ保険証本格運用 (2024年12月) + 電子処方箋の全国展開という規制側の追い風と、 生成 AI の医療応用が同時に立ち上がっています。 製薬 MR の人員削減も加速しており、 隣接業界からヘルステックへの人材移動が顕著です。 ここでは 中途検討者が押さえるべき 5 つの動きを整理します。

  1. オンライン診療の恒久化と医療機関DXの定着
  2. 電子処方箋・マイナ保険証によるデータ連携基盤の整備
  3. 生成AIの医療応用と規制対応
  4. 製薬マーケティングDXの深化
  5. 国際展開・新興国市場での医療プラットフォーム拡張

1. オンライン診療の恒久化と医療機関DXの定着

2022年の初診からのオンライン診療恒久化以降、業界は規制対応フェーズから運用ノウハウの蓄積フェーズに移行しました。メドレー「CLINICS」、MICIN「curon」をはじめとするオンライン診療プラットフォーム事業者は、実医療機関の業務フロー整流化・電子カルテとの連携・患者向けUX改善といった現場運用の論点に注力するようになりました。

医療機関側でも、診療予約・問診・決済・処方箋発行までの一連の業務フローをクラウド連携で再設計する動きが定着し、診療所向けSaaSの導入率が緩やかに上昇しています。離島・へき地医療のオンライン診療活用、訪日外国人向けのオンライン診療など、応用領域の広がりも顕著です。

2. 電子処方箋・マイナ保険証によるデータ連携基盤の整備

厚労省「医療DX令和ビジョン2030」のロードマップに基づき、電子処方箋管理サービスの全国運用、マイナ保険証の本格普及、標準型電子カルテの整備が並行して進んでいます。これらは医療情報の標準化と相互運用性の基盤として機能し、医療機関・薬局・患者・行政の間でデータ連携を可能にする方向で設計されています。FHIR形式(Fast Healthcare Interoperability Resources)を含む国際標準への準拠も進められており、長期的には医療データ流通市場の輪郭が大きく変わる見通しです。

3. 生成AIの医療応用と規制対応

2023年以降、生成AIを医療領域に応用する動きが急速に広がりました。電子カルテ要約、患者問診ボット、診断補助、医薬品情報照会の自動化など、医療機関の業務負荷軽減を目的としたユースケースで実証実験が進んでいます。一方で、医療機器プログラム該当性の判断、医療情報の取扱ガイドライン準拠、ハルシネーション対策など、規制・ガバナンス上の論点も同時に整理が必要です。各社は規制当局との対話を重ねながら、慎重にプロダクト化を進めています。

4. 製薬マーケティングDXの深化

MR(医薬情報担当者)の対面活動が制約された期間を経て、製薬企業の販促予算はデジタルチャネルへの一部シフトが恒常化しました。エムスリーの「MR君」をはじめとするデジタルMRツール、Webセミナー、メディカルアフェアーズ向けの動画コンテンツ配信などが主流化し、対面MRとデジタルMRを組み合わせたオムニチャネル設計が標準になりつつあります。エムスリーマーケティングのような製薬マーケDX専業企業の事業領域も拡大しています。

5. 国際展開・新興国市場での医療プラットフォーム拡張

エムスリーは米国・中国・韓国を含む10カ国以上で医療従事者プラットフォームを展開し、連結従業員数は2025年3月期で15,360名に達しました。エス・エム・エスも海外事業としてアジアパシフィック地域の医療人材プラットフォーム・グローバルキャリア事業を運営しており、新興国市場での医療従事者ネットワーク構築が進行中です。国内市場の構造的な成長余地に加え、医療人材の国際流動性が高まる新興国市場での先行展開が、日系医療プラットフォームの差別化要因として浮上しています。

医療IT業界の主要企業

医療 IT 業界の主要企業をサブセグメント別に並べます。 上場 SaaS と非上場のヘルステックでは情報開示の粒度が大きく異なるため、 上場各社の有報を一次ソースとし、 非上場企業は公開求人レンジと公式採用ページをもとにリメディが整理した推定値である旨を明示しました。リメディで個社年収記事を公開している企業については、本表の企業名から記事リンクで詳細を確認できます。

医療従事者向けプラットフォーム / ヘルスケア人材プラットフォーム(上場)

業界の中核を担う上場プレーヤーです。エムスリーは医師基盤を、エス・エム・エスは医療・介護人材プラットフォームを、それぞれの強みとしています。両社の平均年収には大きな差があり、医療従事者プラットフォームと医療人材プラットフォームでは収益モデル・人員構成・職種構成が異なる実態が反映されています。

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企業平均年収平均年齢従業員数
エムスリー930万円34.7歳単体704名 / 連結15,360名
エス・エム・エス512万円32.5歳単体3,049名 / 連結4,528名
出所:エムスリー 2025年3月期有価証券報告書・エス・エム・エス 2025年3月期有価証券報告書

医療人材紹介・製薬マーケティングDX(エムスリーグループ非上場子会社)

エムスリーキャリアはエムスリー51%・エス・エム・エス49%の合弁会社として2009年に設立され、医師人材紹介を中心に経営支援・産業保健・M&A支援まで事業領域を広げています。エムスリーマーケティングは前身となるメディサイエンスプラニング(1982年設立)を母体とする製薬マーケティングDX専業企業で、現在はエムスリー100%子会社です。いずれも非上場のため平均年収の公式データは存在せず、推定値である旨を明示しています。

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企業推定平均年収事業内容株主構成
エムスリーキャリア推定 500〜600万円 (公開求人レンジをもとに整理)医師人材紹介・経営支援・産業保健エムスリー51% / エス・エム・エス49%
エムスリーマーケティング推定 600〜700万円 (公式採用ページをもとに整理)製薬マーケティングDX・臨床研究支援エムスリー100%
出所:各社公式HP・弊社独自調べ

ヘルステック・医療隣接スタートアップ(非上場)

医療隣接領域で特化型サービスを展開するスタートアップです。ファインディはエンジニア向けHRテックを軸に、医療系企業を含むIT人材マッチングと開発生産性可視化SaaS「Findy Team+」をインド・韓国・台湾でも展開しています。トリビューは美容医療口コミ・予約アプリの先行プレーヤーとして、自費診療領域の情報非対称性解消を担っています。

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企業推定平均年収事業内容設立
ファインディ推定 600〜700万円 (公開求人レンジをもとに整理)エンジニア向けHRテック・開発生産性SaaS2014年2月
トリビュー推定 550〜700万円 (公式採用ページをもとに整理)美容医療口コミ・予約アプリ2017年7月
出所:各社公式HP・弊社独自調べ

他の上場ヘルステック / 比較対象

上記以外にも、医療領域では複数の上場プレーヤーが顔を揃えています。メドレー(証券コード4480)はオンライン診療・電子カルテSaaS・ジョブメドレーを軸に上場以来の高成長を維持してきました。メディカル・データ・ビジョン(3902)は医療リアルワールドデータの収集・解析を担い、MRT(6034)は医師のスポット紹介、新日本科学(2395)は前臨床CRO、クリーク・アンド・リバー社(4763)は医師等プロフェッショナル人材を専門領域とする上場企業群です。

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企業証券コード平均年収事業特徴
メディカル・データ・ビジョン3902633万円医療リアルワールドデータ
MRT6034約500万円医師のスポット紹介
新日本科学2395626万円前臨床CRO / メディポリス
出所:各社直近年度有価証券報告書

医療IT業界のキャリアと働き方

医療IT業界のキャリアは、職種ローテーションと専門領域の深化の組み合わせで設計されるのが基本です。エムスリー・エス・エム・エスのような医療プラットフォーム大手では、ビジネス職・エンジニア職・コーポレート職の3カテゴリで職種が整理されており、半期ごとの業績評価サイクルとミッショングレード制を組み合わせた成果主義の運営が定着しました。新卒一括採用と年功序列を前提とした単線型キャリアではなく、専門性を軸に多様なキャリアを設計できる点が特徴です。

働き方はフレックスタイム制とリモートワークの併用が一般的で、エムスリー本体の平均勤続年数は2025年3月期で4.2年、エス・エム・エスは3.9年と、いずれも一般的な大手企業よりも短めです。これは離職率の高さではなく、若い組織であることと中途採用比率の高さの裏返しでもあるでしょう。30代前半でリーダー・マネージャーに昇格し、30代後半〜40代でVP・事業責任者として事業全体を率いるルートが現実的に描けます。

主要職種

医療 IT 業界の代表的な職種を以下のとおり整理しました。 医師ネットワーク営業 / 製薬 DX コンサル / 電子カルテ SaaS PdM / ヘルスケアデータ分析 など、 配属領域によって 医療ドメイン知見と IT/データスキルの掛け合わせ が変わり、 隣接領域への展開余地も大きく変動します。医療領域固有のドメイン知見と一般的なIT・データスキルの両方を備えた人材は、業界内・隣接業界の双方で評価されやすい資産を持つことになります。

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職種主な業務
ビジネス開発 / プロデューサー新規事業立ち上げ、医療機関・製薬企業向け事業設計
コンサルタント製薬企業向けマーケティング支援、医療機関の経営支援
フィールドセールス / インサイドセールス医療機関・製薬企業への営業、SaaSのアカウントマネジメント
カスタマーサクセス医療機関の業務フロー定着支援、SaaSの活用度向上
ソフトウェアエンジニアバックエンド (Scala / Kotlin / Java / Go / Python 等)、フロントエンド (TypeScript / React)、SRE
データサイエンティスト医療リアルワールドデータの解析、機械学習モデル開発
プロダクトマネージャー医療プロダクトの企画・要件定義・ロードマップ策定
キャリアアドバイザー医師・薬剤師・看護師等の医療人材紹介
専門職保健師・看護師・管理栄養士・理学療法士等(医療人材紹介や予防領域で従事)
出所:弊社独自調べ

年収カーブと業界比較

医療IT業界の年収カーブは、医療プラットフォーム大手・人材プラットフォーム・非上場子会社・スタートアップで水準が大きく異なります。一般的なIT業界との比較で見ると、エムスリーは大手IT水準、エス・エム・エスは中堅IT水準に位置しており、両者の差は事業の収益構造(プラットフォーム収益 vs 人材紹介成功報酬)と平均年齢の違いである程度説明できるでしょう。

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カテゴリ平均年収レンジ代表企業
医療IT大手プラットフォーム900〜1,100万円エムスリー (930万円)
ヘルスケア人材プラットフォーム500〜600万円エス・エム・エス (512万円)
医療人材紹介JV / 製薬マーケDX (非上場)推定 500〜700万円エムスリーキャリア / エムスリーマーケティング
上場一般IT 中堅〜大手 (比較)700〜900万円LINEヤフー (884万円) / カカクコム (720万円)
大手ITプラットフォーム (比較)1,100万円超リクルートHD (1,145万円)
出所:各社直近年度有価証券報告書・弊社独自調べ

役職段階に応じた年収レンジの目安は、医療IT大手プラットフォーム企業で次のとおりです。実際の水準はエムスリー・エス・エム・エス・メドレー・各非上場子会社で差があり、特にマネージャー以上ではミッショングレードと業績連動の比率が高まります。

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役職等級目安年齢年収目安
メンバー25〜30歳550〜800万円
リーダー28〜35歳750〜1,100万円
マネージャー30〜40歳1,000〜1,400万円
シニアマネージャー・VP35歳〜1,300〜1,800万円
ディレクター・執行役員以上40歳〜1,800万円〜
出所:弊社独自調べ(医療IT大手プラットフォーム企業を想定)

他業界へのキャリアパス

医療IT業界で身に付けた医療領域のドメイン知見とIT・データスキルは、隣接領域で高く評価される資産です。医療機関の経営課題を理解したうえで戦略提案ができる人材、製薬企業のマーケティングDXを推進した経験を持つ人材、医療従事者ネットワークを活かして人材マッチングを設計できる人材は、隣接業界の中途採用市場で需要が継続的に存在する状況です。

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転職先評価される経験想定年収レンジ
医療人材紹介 (エス・エム・エス / エムスリーキャリア等)医師・薬剤師ネットワーク、求人マッチング知見500〜900万円
ヘルスケア領域コンサル (BIG4 ヘルスケア部門 等)医療機関の経営課題理解 + 戦略提案力1,000〜1,800万円
大手製薬企業 DX推進 / メディカルアフェアーズ製薬マーケティングDX経験900〜1,500万円
医療系スタートアップ経営幹部医療領域のグロース経験1,000〜2,000万円
医療機関 経営企画 (医療法人本部)医療経営支援の知見700〜1,200万円
メガテック ヘルスケア事業部門スケーラブルなプラットフォーム運営経験1,500〜2,500万円
出所:弊社独自調べ

隣接業界としては、特にFAS(フィナンシャル・アドバイザリー)M&A業界のヘルスケア部門が代表的な転職先となっています。医療・介護領域のM&A案件は事業承継ニーズと業界再編の両面で増加しており、医療機関や医療IT企業の事業価値評価ができる人材へのニーズが年々高まる傾向にあります。金融業界出身でヘルスケア領域の M&A 仲介事業を立ち上げたブティックス専務取締役の速水様のケースのように、 ヘルスケア領域の M&A を立ち上げる起業家も近年は増えており、医療領域は金融・コンサル・事業会社経営の各キャリアと交差する領域として位置付けられます。

医療IT業界に興味がある方へ

医療IT業界は、規制産業ならではの構造的な参入障壁と、医療領域のドメイン知見を求められる専門性を兼ね備えた領域です。医療従事者向けプラットフォーム・オンライン診療・医療人材紹介・製薬マーケティングDX・ヘルスケアアプリといったサブセグメントごとに、報酬体系・キャリア形成・配属領域は大きく異なります。中途転職を検討する場合は、自分のスキルセットと医療領域のドメイン知見の交差点を整理することが出発点になります。

当業界で蓄積した医療領域の知見・IT/データスキル・医療従事者ネットワークは、ヘルスケアコンサルティング・大手製薬DX・医療系スタートアップ・医療機関経営企画・メガテックヘルスケア事業といった隣接業界でも高く評価されます。医療 IT 内で医師ネットワークや製薬マーケ DX の専門性を深めるルートと、 そのスキルを医療人材紹介・ヘルスケアコンサル・事業会社マーケへ展開するルートのどちらに進むかは、 個々のキャリア軸と志向次第です。

医療IT業界の主要企業について個社の年収・採用情報を詳しく確認したい方は、本記事内で言及した個社年収記事をあわせてご覧ください。医療IT業界から他業界へのキャリアの広がりや、業界内で年収・専門性を伸ばすための転職戦略について製薬 MR / 医療人材 / SaaS 営業 / コンサルなど隣接領域からの転職を含め、 医療 IT 担当が在籍するリメディのキャリア相談を利用してください。医療 IT の各サブセグメント (医師基盤・電子カルテ SaaS・医療人材・製薬 DX・ヘルスケアアプリ) と隣接業界 (人材紹介・コンサル・事業会社) のどこに自分の経験を活かすかを具体的に提示します。

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ぜひご活用ください。

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