
監修者
リメディ株式会社 ヘッドハンター
井上 晶斗 | INOUE Akito
大阪府立大学を中退後、教育系のベンチャー企業へ入社。新店舗の立ち上げと全店舗管理を担当し、2年間で1店舗から12店舗へ増やす。立ち上げ業務からサービスの平準化までの一連の業務に従事。その後、エス・エム・エスに転職しキャリアアドバイザーとして、候補者様に徹底的に向き合いながら、20代から50代までの方のキャリア支援を行う。社内のキャリアアドバイザーの中で上位の成績を収めた後に、リメディに参画。現在は、M&A・不動産・建設業界でエグゼクティブ採用・転職支援に従事。
2026年9月時点で確認したM&A仲介4社の公式募集要項・採用ページでは、生命保険・損害保険の営業経験は応募の対象に入っています。M&Aキャピタルパートナーズ(以下MACP)は「大卒以上」を必須としたうえで、いずれかを満たす経験の1つに「金融業界(銀行・証券・保険等)の営業経験」を挙げ、M&A総合研究所(以下M&A総研)は「営業経験(有形/無形、toC/toB問わず)」を必須としています。学歴の条件を満たしていれば、分かれ目は応募の可否ではなく、経営者と決算書や承継の話をした経験の有無です。
対象は、生保・損保で営業を続けてきた人のうち、経営者向けの法人保険を扱ってきた人と、個人向けのライフプランナー型で働いてきた人です。入社後は収入が立ち上がるまで時間がかかり、日本M&Aセンターの中途入社者は初成約までの期間が11.7ヶ月(2025年3月末時点)でした。応募の時期は、実績の中身と家計の見通しの両方から決めてください。
本記事のポイント
判断が分かれるのは、経営者との接点、財務の知識、初成約前の収入の3点です。
| 判断項目 | 結論 |
|---|---|
| 応募要件での位置づけ | 保険の営業経験を必須要件の選択肢や歓迎要件に明記する会社、業界を問わない会社、経験の種類ごとに成果を問う会社がある。大学卒業以上を条件にする募集もある |
| 直接応募を検討しやすい人 | 経営者向けの法人保険で、決算書・自社株・役員退職金・承継の相談に入ってきた人 |
| 準備してから動きたい人 | 個人向けが中心で、経営者との接点や新規開拓の実績を数字で示しにくい人 |
| 入社後に補う知識 | 財務・法務の理解、簿記2級、企業評価 |
| 収入の見方 | インセンティブの上限より、初成約前の固定部分と保証で家計を試算する |
| 相談を使う場面 | 法人保険の実績を、応募先の要件の言葉に言い換えるとき |
保険営業からM&A仲介へ転職できるか
応募要件の上では目指せます。確認した4社とも、保険の営業経験を応募の対象から外す書き方はしていません。学歴は会社と職種で異なり、MACPのM&Aアドバイザーは「大卒以上」、ストライクのM&AコンサルタントとM&A推進営業職は「大学卒業以上」を条件にしています。M&A総研の企業情報部の募集要項と、日本M&Aセンターの中途採用ページにあるM&Aコンサルタントの応募資格には、学歴の記載がありません。学歴のほかの違いは、要件のなかで保険の営業経験がどう扱われるかにあります。
| 会社 | 保険営業に関係する要件の書き方 | 読み取れること |
|---|---|---|
| MACP | 必須要件「大卒以上」と、いずれかの経験の1つとして「金融業界(銀行・証券・保険等)の営業経験」。トップセールス等の業界例に「生命保険」「損害保険」 | 保険が業界名として要件に入っている。学歴は大卒以上が条件 |
| M&A総研 | 必須「営業経験(有形/無形、toC/toB問わず)」、歓迎「中小企業オーナー向けの営業経験」。学歴の記載なし | 個人向け中心でも必須の文言上は対象。オーナー向けの経験は歓迎要件で区別される |
| 日本M&Aセンター | 必須「以下いずれかの経験において高い成果を残してこられた方」(経営者折衝経験、無形商材営業経験、新規開拓経験など)。歓迎要件に保険の例示はない。学歴の記載なし | 業界名ではなく、どの経験で成果を出したかで読まれる |
| ストライク | M&Aコンサルタントの応募資格「大学卒業以上 ※M&A業務未経験者歓迎」、あると望ましいスキル「金融業界・コンサルティング業界での提案営業経験」。M&A推進営業職の歓迎要件「銀行・証券・保険会社での営業経験」。採用FAQ「M&A業務未経験でも応募可能」「活躍しているコンサルタントのほとんどがM&A業務未経験で入社」 | M&A業務は未経験でも応募でき、入社後の研修・OJTで習得する前提。金融業界での提案営業経験はコンサルタントの望ましいスキル、保険会社での営業経験は推進営業職の歓迎要件として挙がる。学歴は大学卒業以上が条件 |
要件の書き方は「明記」「業界不問」「経験の中身」の3通り
MACPは保険を業界名で挙げており、大卒以上の条件を満たす人にとっては、保険の営業経験そのものが要件の入口です。ストライクもM&A推進営業職の歓迎要件に「銀行・証券・保険会社での営業経験」を挙げ、M&Aコンサルタントでは「金融業界・コンサルティング業界での提案営業経験」を、あると望ましいスキルにしています。M&A総研の必須要件は顧客が個人か法人かを問わないため、ライフプランナー型も文言上は対象に入ります。ただし同社は、中小企業オーナー向けの営業経験を歓迎要件として別に書いています。
日本M&Aセンターは必須要件では業界名を挙げず、経営者折衝や新規開拓など、経験の種類ごとに成果を問う書き方です。保険出身者の場合、どの経験で成果を出したのかを書類の上で示せるかが問われます。
公的な職業情報では、保険会社は前職の例に入っていない
厚生労働省の職業情報提供サイト(job tag)は、M&Aコンサルタント/M&Aアドバイザーについて「中途採用者がほとんど」とし、前職の例に銀行、証券会社、投資会社、コンサルティング会社、会計事務所、法律事務所などを挙げています。保険会社は例に入っていません。
公的な職業像と、保険を要件に入れるMACPの募集要項にはずれがあります。書類や面接では「保険の営業をしていた」と業界名で伝えるより、誰に何を提案してきたかまで書くほうが、要件のどの項目に当たるかが伝わります。
業界名で選考する会社と、経験の中身で成果を見る会社とでは、同じ営業実績でも書類で前に出す内容が変わります。受けたい会社の要件の言葉に実績をどう当てはめるかは、担当者との面談で確かめられます。
保険営業の経験がM&A仲介で評価されやすい場面
M&A仲介会社の公式採用サイトや社員紹介メディアには、生命保険・損害保険の会社から移った社員の事例が載っています。本人の言葉で語られた前職の強みの例は、法人向けの保険営業で事業承継の課題に早くから接していたことや、保険の仕事で身につけたFP・税務などの知識です。
経営者向け保険の提案で、事業承継の課題に接していた
ストライクの社員インタビューには、2018年に入社した生保・法人営業出身の社員が登場します。前職で経営者向けの保険を販売するなかで中小企業の事業承継を課題に感じ、M&A仲介なら保険業界より直接に事業承継の問題へ関われると知ったことが、志望のきっかけでした。
入社前後のギャップについては、「経営者向けの保険を扱う法人営業に携わっていたこともあり、仕事面での大きなギャップはありませんでした」と答えています。経営者と向き合い、会社の将来を話題にする場面は、法人保険とM&A仲介で重なる部分です。
FP・税務・労務・法律の知識をディールで使える
日本M&Aセンターの中途採用ページでは、2022年に入社した社員が、証券会社で個人向け営業を6年、生命保険会社で個人・法人向け営業を6年経験した人として紹介されています。この社員は「保険会社で培ったFPとしての商品知識や税務、労務、法律の知識は、実際にディールを進めていく中で活かされている実感があります」と話しています。
1人の実感として語られた内容で、保険出身者の全員に当てはまるとは限りません。それでも、税務や労務の知識を使う場面がディールのなかにあることは読み取れます。
ほかにも、ストライクのキャリア採用サイトの「M&Aストーリー」には、損害保険会社の法人営業から2021年に入社し、前職の法人営業時代に培った柔軟な対応力や調整力を活かして複数の大手企業と関係を築いた社員が登場します。M&A総研の採用特設メディア「総研キャリアラボ」では、新卒で入った大手生命保険会社で、幅広い年代の営業職員のマネジメントと組織の目標達成に向けた推進業務を担当していた人が、M&Aアドバイザーとして紹介されています。この社員の紹介には本人が保険を販売した経歴は書かれておらず、営業職員を率いる立場から移った例です。個人向け中心の人は、事例の経歴と自分を比べるより、事業を持つ顧客との接点など、自分の実績が応募先の要件のどの項目に当たるかを示す準備をしてください。
保険会社がM&A支援を案内する仕組みと、転職で変わる役割
生命保険会社のなかには、契約者である経営者に、提携するM&A仲介会社の支援を案内する仕組みを持つ会社があります。保険営業からM&A仲介への転職は、紹介する側から成約まで担う側へ移ることを意味します。大同生命が契約者向けに用意している経営支援サービスのうち、決算書やM&Aに関わるのは次の3つです。
| サービス | 利用の始め方 | 結果の届け方・提供者 |
|---|---|---|
| 自社株評価試算 | 直近2年分の決算書を提出 | 専門のコンサルタントが評価額を試算し、大同生命の担当者から試算結果を届ける(簡便な概算) |
| 企業価値算定 | 申込書と直近2〜3年分の決算書を提出 | 大同生命の担当者から算定結果を届ける。大同生命または提携によりストライクが提供 |
| M&A支援 | 相談の受付(相談無料) | 提携するストライク、経営承継支援、ジャパンM&Aソリューション、日税経営情報センター、ライトライト、りそな総合研究所のいずれかが提供。利用者はM&A仲介手数料の5%割引 |
決算書を預かって結果を経営者に届けるのは保険会社の担当者で、M&Aの実務は提携先が担う分担です。ストライク(現・ストライクグループ)は2015年9月に大同生命と「M&A支援に関する協定書」を締結し、大同生命の顧客基盤へM&A支援サービスを提供すると発表しました。
M&A仲介会社に移ると、同じ経営者に対して企業価値の評価、相手探し、交渉、成約までを受け持ちます。MACPはソーシングからクロージングまでのすべての工程を1人のアドバイザーで対応すると募集要項に書いており、M&A総研の企業情報部もソーシングからクロージングまでを一気通貫で担当します(マッチングは法人部が担当)。
ただし、上の表は大同生命の仕組みで、保険会社全般に共通するものとして確かめたわけではありません。日本M&Aセンターが公開している情報提携機関先(2026年6月末時点)には会計事務所、地方銀行、信用金庫、大手金融機関が並び、保険会社の記載はありません。勤務先に同じような仕組みがあり、決算書をもとにした評価結果を経営者に説明してきた人は、その経験を職務経歴書に書けます。
公式募集要項から見る、保険営業で不足しやすい経験
保険営業の出身者が入社後に補う知識は、財務・法務と企業評価です。日本M&AセンターとM&A総研は、入社直後に会計や企業評価を学ぶ研修を組んでいます。ストライクの研修一覧で会計・税務・法務を扱うのは、社内の士業資格者が講師を務めるM&A実務研修です。
財務・法務は保険の知識とは別に身につける
社員インタビューに登場したストライクの社員(2018年入社)は、「ストライクには銀行出身のアドバイザーが多く、保険業界出身の私は財務や法務に対する理解において出遅れていると感じる部分がありました」と振り返っています。入社間もないころは案件が思い通りに進まないことが多く、上司や先輩の支援を受けながら取り組んだとも話しています。
保険営業で扱う相続や退職金の税務は入口として役立ちますが、決算書から会社の価値や譲渡の条件を組み立てる力は、保険の提案とは別に身につけるものです。
簿記2級と企業評価は入社後の早い時期に学ぶ
日本M&Aセンターでは、中途入社の1週目に簿記2級の模擬テストと法務テストがあり、合格するまで次の研修に進めません。5週目の企業評価の卒業試験と概要書プレゼン試験に合格しなければ配属されず、M&Aコンサルタントは簿記2級の取得が正社員登用の条件です。
ストライクは日商簿記2級やビジネス法務検定などの講座費用と検定料を補助しており、日商簿記2級の入社半年後の取得率を100%と公表しています。M&A総研も、入社1ヶ月目の座学に企業価値評価と企業概要書の作成を入れています。
確認した4社のM&Aアドバイザー・M&Aコンサルタント職と、ストライクのM&A推進営業職の募集要項・採用FAQに、応募の時点で簿記2級を求める記載はありません(コンサルタントを後方から支える日本M&Aセンターの案件化担当のように、日商簿記2級以上を必須にする職種の募集はあります)。ただし日本M&Aセンターは入社1週目に簿記2級の模擬テストを行い、ストライクも入社半年後の取得率を示しているため、応募前から学習を始めておくと入社後の負担を減らせます。
1社と1年以上向き合う案件の進め方
ストライクの社員インタビューでは、経営者が会社の将来や従業員・家族のことで葛藤する場面に向き合う仕事として、「長いものでは1年以上クライアントと向き合うこともあります」という言葉もありました。状況によっては、経営者に厳しい意見を伝えることもあると話しています。
M&A仲介では、1社との関係がソーシングから成約まで続きます。MACPやM&A総研の企業情報部のように一気通貫で担当する会社では、成約までの工程を自分で管理することが前提です。
応募判断は法人保険の経験で分かれる
今応募するか、準備してから応募するかは、保険の種類や営業年数より、経営者本人と何を話してきたかで判断できます。経験別の見通しは次の表のとおりです。
| 保険営業での経験 | 直接応募の見通し | 比べやすい応募先 | 足りない経験 | 書類・面接での見せ方 |
|---|---|---|---|---|
| 経営者向けの法人保険で、決算書を預かり、役員退職金・自社株・承継の対策を提案してきた | 直接応募を検討できる | MACP(大卒以上に加え、保険の営業経験を要件に明記)、日本M&Aセンター(経営者折衝の成果) | 企業評価、法務 | 決算書のどの数字から何を提案し、経営者がどう決めたかを案件ごとに書く |
| 法人契約を扱ってきたが、窓口は総務・経理の担当者で、経営者と話す機会が少なかった | 経営者との接点を補ってから応募 | M&A総研(業界を問わない営業経験) | 経営者本人との面談 | 経営者に会うまでの行動と、面談できた件数を書く |
| 個人向けのライフプランナーで、医師・個人事業主・会社を経営する個人客がいる | 事業を持つ顧客との接点を数字で示せれば応募を検討 | M&A総研(オーナー向け営業が歓迎要件)、ストライク(M&A業務未経験の応募可、大学卒業以上) | 法人の財務 | 事業を持つ顧客の数と、相談された内容を書く |
| 個人向けが中心で、紹介や既存顧客からの契約が多い | 新規開拓の実績をつくってから応募する。または、開拓の相手が経営者本人から会計事務所・金融機関に変わる入口を検討 | ストライクのM&A推進営業職(会計事務所の新規開拓も担う、大学卒業以上。歓迎要件に保険会社での営業経験)、M&A総研(面接を通じて提携部への配属が提示される場合がある) | 新規開拓(入口の職種でも開拓の業務はある) | 接点をつくった手段と件数、断られた後の対応を書く |
| 損保の代理店営業(代理店を通じて販売) | 迂回ルートも含めて検討 | ストライクのM&A推進営業職(間接営業の経験が活躍条件、保険会社での営業経験が歓迎要件、大学卒業以上)、MACP(大卒以上に加え、金融業界の営業経験) | 経営者への直接提案 | 代理店の経営者と何を決め、成果にどうつなげたかを書く |
ここはリメディの見解ですが、表の1行目と2行目を分けるのは、決算書を前に経営者と話したかどうかです。社員インタビューに登場したストライクの社員(2018年入社)が、仕事面のギャップは小さかったと語った前職は、経営者向けの法人営業でした。M&A総研も、中小企業オーナー向けの営業を歓迎要件として分けています。窓口が総務や経理の担当者までだった人は、経営者と直接話した場面を洗い出し、足りなければ現職で機会をつくってから応募しても遅くはありません。
個人向け中心の3行目・4行目に当たる人は、医師や個人事業主、会社を経営する個人客など、事業を持つ顧客との接点を数え直してください。書ける実績が見つかれば、応募先の選択肢は広がります。
判断に迷いやすいのは、窓口が経営者本人だったか言い切れない法人契約や、事業を持つ個人客が一部にいる個人向け中心の取引です。隣り合う行のどちらで読むかで応募の時期も変わるため、案件の中身を担当者に話しながら見極められます。
案件の入り方と担当範囲で比べる応募先
応募先は、案件がどこから来るかと、1人がどこまで担当するかで比べると、保険営業の経験との相性をつかめます。
| 会社 | 案件の入り方(公式の説明) | 担当範囲 | 保険営業の経験がつながる点 | 面接で確かめたいこと |
|---|---|---|---|---|
| MACP | 紹介のみに頼らない「直接のご提案」を重視 | ソーシングからクロージングまで1人のアドバイザーが対応 | 金融業界(保険等)の営業経験が必須要件の選択肢(大卒以上も必須) | 入社後の新規開拓の方法と、経営者への提案の進め方 |
| 日本M&Aセンター | 成約案件の6割が提携先経由(時点の記載なし) | 売り手企業と買い手企業を別々の担当者が支援する「FA体制」 | 経営者折衝・無形商材などの成果(必須要件) | 配属先と、売り手側・買い手側のどちらを担当するか |
| M&A総研 | 企業情報部のほか、会計提携部・金融提携部がある | 企業情報部はソーシングからクロージングまで(マッチングは法人部) | 業界を問わない営業経験、中小企業オーナー向け営業(歓迎要件) | 面接を通じて提示される配属先の仕事内容 |
| ストライク | ダイレクトソーシング54%、金融機関や会計事務所など提携先からの紹介46%(時点の記載なし) | M&Aコンサルタントとは別に、会計事務所向けのソーシング専任職がある | 生保・法人営業出身の社員事例、M&A推進営業職の歓迎要件に保険会社での営業経験、M&A業務未経験の応募可(大学卒業以上) | アドバイザー職と専任職の違い、研修の進み方 |
直接提案を重視するMACPの働き方は、自分から経営者に会いに行ってきた法人保険の営業に近いものです。提携先経由の案件が多い会社では、案件の最初の接点を紹介元が持つ点が、自分で開拓する会社との違いです。
日本M&Aセンターの中途採用ページで紹介された社員(2022年入社、証券会社・生命保険会社出身)は、入社後に「想像以上に分業が進んでいて、自分に課せられたミッションに集中できる環境がすでにあった」と感じたと話しています。1人で全工程を受け持つ会社と、分業のなかで自分の役割に集中する会社のどちらが合うかも、応募前に考えておきたい点です。
M&A仲介会社を広く比べたい人は、M&A仲介会社一覧で主要な会社の特徴を確認してください。
直接の応募が難しいときの迂回ルート
個人向けが中心で経営者との接点を示しにくい人や、代理店営業で経営者へ直接提案した経験が少ない人には、案件づくりを専門にする職種から入る道もあります。ただし、こうした職種でも開拓の仕事はなくならず、主に開拓する相手が経営者本人から会計事務所や金融機関に変わる入口と考えてください。
個人向けの保険営業から、会計事務所と関係をつくる仕事に移った例もあります。日本M&Aセンターの社員紹介メディア「MA COLORS」は、生命保険会社で個人営業を担当し、2022年に入社した社員を、会計事務所提携部の会計コンシェルジュとして紹介しています。できる限り直接会いに行くことを大切にし、会計事務所との関係づくりに面白さを感じていると話しています。M&Aコンサルタントとは役割が異なるため、同じ職種の中途採用があるかは、応募前に同社の募集職種一覧で確かめてください。
会計事務所の訪問と開拓を担うソーシング専任職から入る
ストライクのM&A推進営業職は、提携する会計事務所を定期的に訪問し、顧問先のM&Aニーズを掘り起こす専任の営業職です。募集要項には「提携先の会計事務所への定期訪問のみならず新規開拓も積極的に行っています」とあり、新規営業先のリスト作成やアプローチも主な業務に入っています。税理士会支部の研修会や、会計事務所の職員向け勉強会の企画・講師も業務例に挙がっています。
活躍が期待される人には「無形商品、間接営業、会計事務所向けの営業経験のある方」「簿記の知識をお持ちの方」とあり、募集要項に示された年額は400万円からです(固定残業20時間分を含む)。応募資格の必須条件は「社会人経験3年以上で営業経験をお持ちの方」で、最終学歴は「大学卒業以上」とされています(東京オフィス以外の拠点を希望する場合は普通自動車運転免許も必須)。歓迎要件に並ぶ経験の1つは「銀行・証券・保険会社での営業経験」です。代理店を通じて保険を販売してきた人は、間接営業の経験をそのまま書けます。成約までを担当するアドバイザー職とは仕事の範囲が違うため、入社後の職務の広がり方は面接で確かめてください。
配属先の候補に提携部があるかを面接で確かめる
M&A総研で確認した中途採用の募集要項は「企業情報部(M&Aアドバイザー・直接応募)」です。配属は応募者が選ぶのではなく、面接を通じて企業情報部、会計提携部、金融提携部、海外事業部のいずれかを会社が提示する形です。会計提携部は税理士法人や会計事務所を開拓して紹介経由の案件に対応し、金融提携部は金融機関を開拓する部署です(入社直後はダイレクトソーシングが中心)。
金融機関や会計事務所と関係をつくる仕事は、代理店や提携先と組んで動いてきた保険営業の経験と重なる部分があります。提携部の仕事を希望する場合は、面接で配属先の候補と、その部署での開拓の進め方を確かめてください。提示された配属先の仕事内容は、募集要項の記載と照らし合わせて理解しておきましょう。
現職で経営者向けの提案経験を積んでから応募する
今の職場で法人保険や経営者向けの提案に関われるなら、実績をつくってから応募する方法もあります。大同生命のように、決算書をもとに自社株評価を試算して担当者が結果を届ける仕組みがある会社なら、結果を経営者に説明した経験がそのまま職務経歴書の材料です。簿記2級の学習を並行して進めれば、入社後の研修にも備えられます。
ここはリメディの見解ですが、個人向け中心の人は、ストライクの専任職や、M&A総研で配属先として提示される場合がある提携部のように、会計事務所や金融機関を開拓して案件をつくる入口と、業界を問わず営業経験を対象にする求人を、先に比べてください。MACPのように保険の営業経験を要件に明記する会社でも、直接提案と一気通貫の担当が前提なので、新規開拓を説明できるかで準備の重さが変わります。
未経験からM&A業界を目指す人全般の準備は、M&A転職は未経験でも可能?有利な経験・採用状況・選考対策を解説にまとめています。
職務経歴書で前面に出す実績
職務経歴書では、保険の商品名や販売額より先に、応募先の要件の言葉に合う経験を書きます。要件ごとの書き方は次のとおりです。
| 要件の言葉(会社) | 保険営業で当てはまる経験 | 書く項目 | 避けたい書き方 | 書き直しの方向 |
|---|---|---|---|---|
| 経営者折衝経験(日本M&Aセンターの必須要件) | 経営者向け法人保険の提案 | 担当した経営者の業種と規模帯、提案テーマ(役員退職金・自社株・承継)、決まるまでの期間 | 「経営者と信頼関係を築いた」 | どの数字を根拠に何を提案し、経営者がどう決めたか |
| 新規開拓経験(日本M&Aセンターの必須要件) | 飛び込み、紹介の依頼、セミナーの開催 | 接点をつくった手段、面談数、契約までの流れ | 「新規開拓が得意」 | 手段ごとの件数と、断られた相手への対応 |
| 中小企業オーナー向けの営業経験(M&A総研の歓迎要件) | 医院、個人事業主、中小企業の経営者個人への営業 | 顧客の事業内容と、事業について受けた相談 | 「富裕層向けの営業」 | 事業を持つ顧客に絞って数える |
| 金融業界の営業経験(MACPの必須要件の選択肢。大卒以上も必須) | 生保・損保の営業全般 | 販売チャネル(直販・代理店)、担当年数、社内の評価 | 「保険営業に◯年従事」だけ | 担当範囲と成果の指標を添える |
| 無形商材営業経験(日本M&Aセンターの必須要件) | 保障の提案 | 顧客の課題、提案した内容、決め手 | 商品名の列挙 | 課題と提案の対応を1件ずつ示す |
法人保険の実績を、書き直す前と後で比べてみます。〔 〕の中は自分の実績に置き換え、確認できない数字は書かないでください。
| 書き直す前 | 書き直した後 |
|---|---|
| 中小企業の経営者を担当し、多くの法人契約を獲得。経営者から厚い信頼を得た。 | 〔業種〕の中小企業経営者〔人数〕名を担当。直近〔期数〕期分の決算書をもとに役員退職金と自社株評価の論点を説明し、〔提案テーマ〕を提案。〔期間〕で〔件数〕件を契約に結びつけた。後継者が決まっていない〔件数〕社とは、承継の選択肢を経営者と話し合った。 |
契約者の社名や保険金額など、顧客が特定できる情報は書かないでください。業種・規模帯・件数に置き換えても、経営者と何を話したかは伝わります。書類全体の構成や、面接で突っ込まれやすい表現はM&A仲介の職務経歴書の書き方で確認できます。
面接で伝える転職理由の組み立て方
転職理由は、保険で届かなかった場面、M&A仲介で活きる経験、足りない知識の補い方の順に組み立てます。4社が公開している選考の流れは次のとおりです。
| 会社 | 公式に書かれている選考の流れ | 補足 |
|---|---|---|
| MACP | 面接3回(1次:部長面接、2次:社長面接、最終:会食面接) | 応募から内定まで1ヶ月程度を想定 |
| M&A総研 | 面接2〜3回、筆記試験(SPI) | 提出書類は履歴書・職務経歴書 |
| 日本M&Aセンター | 書類選考→面接(複数回)※適性検査→内定 | 企業・職種で異なる場合あり |
| ストライク | 書類選考→面接(2回)→内定 | 最終面接前にWeb適性検査。面接は対面が基本で、リファレンスチェックを実施する場合あり |
保険では届かなかった場面から話し始める
社員インタビューに登場したストライクの社員(2018年入社)の志望理由は、経営者向けの保険販売で事業承継を課題に感じたことでした。日本M&Aセンターの中途採用ページで紹介された社員(2022年入社)は、コロナ禍で収入が下がった経験から、成長性と社会貢献性の高い業界を選んだと紹介されています。
2人とも、前職で見えた課題と転職先の仕事を結びつけています。自分の話として組み立てるなら、承継の相談を受けたのに保険の提案で終わった場面など、具体的な1件を起点にしてください。報酬だけを理由に挙げても、なぜM&A仲介なのかは伝わりません。
補っている最中の知識は隠さずに伝える
財務・法務や企業評価は、先に挙げた3社が入社後の研修や試験で扱っている領域です。知っているように振る舞うより、簿記の学習をどこまで進めたか、担当先の決算書をどう読んできたかを、今の到達点として話す準備をしてください。
社員インタビューに登場したストライクの社員(2018年入社)も、出遅れを感じた後は自分から助言を求めて取り組み、経験が自信に変わったと話しています。面接では、足りない知識を補うために今していることを1つ具体的に添えてください。
新規開拓の実績は、断られた相手への対応まで説明する
中小企業庁は2026年9月1日、広告・営業先から停止の意思を示されたのに、それが適切に反映されないまま広告・営業を再開した登録M&A支援機関1社に、改めて注意を発出しました。あわせて、停止の意思を記録する基準の設定と、その情報を組織で共有する体制の構築などを求める旨を通知しています。
新規開拓には、件数だけでなく、相手の意思を記録して守る規律も伴います。面接で開拓の実績を話すときは、断られた相手をどう記録したか、再び連絡するまでに何を確認したかまで説明できるようにしておきましょう。
いま応募する人・準備してから動く人
応募の時期は、実績の中身に加えて、初成約までの収入を受け入れられるかで決まります。日本M&Aセンターの中途入社者は、初契約の獲得までが5.3ヶ月、初成約までが11.7ヶ月でした(2025年3月末時点)。同社の値で、業界全体の平均ではありません。
インセンティブが立つまでの収入を支える部分は、会社によって次のように違います。MACPの最低保証は、月給と、賞与を前倒しで支給する分を合わせた額です。
| 会社 | 初成約前の収入を支える部分 | 成果で変わる部分 | 注意したい点 |
|---|---|---|---|
| 日本M&Aセンター | 月給。前職の給与水準や職務経験等を考慮して決まる。 | 上限のないインセンティブ。 | 月給に50時間分の時間外手当を含む。 |
| MACP | 初年度の最低保証額は600万円。内訳は月給40万円〜の12ヶ月分と前倒し支給分。 | KPIインセンティブ、M&A成約インセンティブ、決算賞与。いずれも保証なし。 | 前倒し支給分は入社後2年間が年120万円、3年目は年60万円。月給のうち業務手当に73時間分の残業代を含む。 |
| M&A総研 | 未経験者は420万円。 | 成約祝金(1件目・2件目の成約時)と、上限のない成約インセンティブ。 | 420万円にみなし残業月44時間・深夜30時間を含む。 |
3社を並べると、初成約が遅れたときの下振れの形が違うことがわかります。前職の給与水準を考慮する会社は、入社時の固定部分を前職と比べて見通せます。最低保証を置く会社は3年目に前倒し支給が減り、未経験者の固定額を示す会社は残業代を含んだ金額です。
ここはリメディの見解ですが、インセンティブの上限より先に、初成約前の固定部分だけで1〜2年目の家計が回るかを試算してください。試算が合わなければ、応募時期を遅らせるか、固定部分の考え方が違う会社から比べ直すのが現実的です。
今応募してよいのは、応募先の学歴の条件を満たしたうえで、経営者向け法人保険で決算書や承継の相談に入った経験を案件ごとに書け、固定部分で家計の見通しが立つ人です。反対に、転職直後から今の収入水準を保つことを最優先する人は、保証や固定部分の条件を面接で確かめ終えるまで、応募を急がないほうが無理のない進め方です。
各社の年収水準はM&A業界の年収はいくら?仲介大手の平均年収と役職・在籍年数別レンジを解説で、長期の案件を抱えたときの働き方はM&A業界の仕事の負荷を解説した記事で比べられます。
保険営業からM&A仲介を目指す人の相談ポイント
応募先の要件と自分の実績を照らし合わせる作業には、自分で進めてよい部分と、第三者と確かめたほうが早い部分があります。
| 自分で進めてよいケース | 相談で整理が早いケース |
|---|---|
| 経営者向け法人保険の案件を、決算書・提案テーマ・結果で書き出せている | 法人契約はあるが、経営者と話した経験として書けるか判断がつかない |
| 応募先を絞り、選考の流れと固定部分の条件を確認した | MACP・日本M&Aセンター・M&A総研のどれから受けるか決められない |
| 簿記2級の学習を始め、取得の時期を説明できる | 個人向け中心で、ソーシング専任職に応募するか、提携部への配属もありうる会社を受けるかを迷っている |
| 家計を試算し、初成約前の期間を固定部分で乗り切れると確認した | 前倒し支給や保証の減り方を含めて、入社3年目までの見通しを比べたい |
迷っている点ごとに、次に読むべき記事をまとめました。
- M&A仲介全体の難易度と経歴別の可能性を知りたい:M&A仲介の転職難易度は高い?経歴別の可能性・選考対策・狙うべき企業タイプを解説
- 銀行や証券など、ほかの金融出身者のルートと比べたい:銀行員からM&A仲介へ転職できる?経歴別ルート・評価される経験・選考対策を解説、証券営業からM&A仲介へ転職できる?リテール・法人別ルートと選考対策を解説
- 職務経歴書を仕上げたい:M&A仲介の職務経歴書の書き方|評価される実績・NG例・面接で突っ込まれる表現を解説
法人保険で決算書や事業承継の相談に入った経験を、M&A仲介の職務経歴書で伝わる言葉に直したい人は、次の担当者から相談相手を選べます。リメディの支援内容はリメディのご紹介にまとめています。
保険営業からM&A仲介への転職でよくある質問
FPなど保険に関わる資格は応募条件に入っていますか?
MACP、M&A総研、日本M&Aセンターの募集要項には、FPや保険関連の資格を応募条件や歓迎条件に挙げた記載はありません。資格名を並べるより、その知識で経営者のどんな相談に答えたかを書くほうが、要件の言葉と対応します。
簿記2級は応募前に取っておくべきですか?
M&AアドバイザーやM&Aコンサルタントの職種に応募するなら、応募前に取得しておく必要はありません。確認した4社のM&Aアドバイザー・M&Aコンサルタント職と、ストライクのM&A推進営業職の募集要項・採用FAQに、応募時点で簿記2級を求める記載はないためです。取得前に応募する場合は、学習の進み具合を面接で話せる状態にしておきましょう。合格を待たずに、応募の時期を自分で決められます。
不採用になった場合、同じ会社に再応募できますか?
日本M&Aセンターは採用FAQで、再度の応募は可能と回答しています。MACP、M&A総研、ストライクについては、確認した中途採用の公式ページに再応募の記載がありませんでした。応募前の面談などで、再応募できる時期を確かめておくと安心です。
損保の代理店営業の経験でもM&A仲介を目指せますか?
目指せる経歴です。代理店を通じた販売経験なら、経営者へ直接提案する職種より、提携先と案件をつくるソーシング専任職のほうが、仕事内容との共通点を示せます。ただしストライクのM&A推進営業職は、社会人経験3年以上で営業経験があることと大学卒業以上が応募資格で、会計事務所の新規開拓も業務に含む職種です。代理店の経営者とのやり取りも、経営者と折衝した経験として説明する材料になります。
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