
監修者
リメディ株式会社 ヘッドハンター
井上 晶斗 | INOUE Akito
大阪府立大学を中退後、教育系のベンチャー企業へ入社。新店舗の立ち上げと全店舗管理を担当し、2年間で1店舗から12店舗へ増やす。立ち上げ業務からサービスの平準化までの一連の業務に従事。その後、エス・エム・エスに転職しキャリアアドバイザーとして、候補者様に徹底的に向き合いながら、20代から50代までの方のキャリア支援を行う。社内のキャリアアドバイザーの中で上位の成績を収めた後に、リメディに参画。現在は、M&A・不動産・建設業界でエグゼクティブ採用・転職支援に従事。
投資用不動産の販売や住宅の売買仲介で成績を上げてきた人にも、M&A仲介へ転職する道はあります。M&Aキャピタルパートナーズの募集要項(2026年9月確認)は、トップセールス経験を求める業界の例に「投資用不動産」「ディベロッパー」「ハウスメーカー」を挙げています。これに対して日本M&Aセンターの応募資格は業界名ではなく「新規開拓(テレアポ、DM等)」「高単価商材」「経営者折衝」などの経験で書かれ、M&A総合研究所は営業経験を必須、中小企業オーナー向けの営業経験を歓迎としています。判断の軸は業種名より経験要件で、自分の実績がどの要件に当てはまるかを先に確かめるのが近道です。
本記事は、次のような不動産営業の経験がある方を対象にしています。反響中心で成績を出してきた方も含みます。
- 投資用不動産の販売
- 住宅や事業用・収益物件の売買仲介
- ハウスメーカーやディベロッパーでの営業
- 賃貸仲介
物件の仲介と会社の譲渡支援では、報酬と規律の仕組みが違います。不動産の売買仲介は宅地建物取引業法の免許と告示の手数料上限の中で動きますが、中小M&Aの仲介には許可制・免許制がありません。中小企業庁の「中小M&Aガイドライン」と仲介者ごとの手数料体系のもとで、物件ではなく会社を取引します。そのため宅建の知識をそのまま使える場面は限られ、財務や企業価値評価の学習を上乗せする準備が要ります。
本記事のポイント
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 転職できるか | できる。M&Aキャピタルパートナーズは投資用不動産・ディベロッパー・ハウスメーカーのトップセールス経験を必須要件の例に挙げている |
| 判断の軸 | 業種名ではなく、新規開拓、高単価商材、経営者・オーナーとの折衝、営業成績の上位実績に当てはまるか |
| 応募先の3タイプ | 業界名明記型(M&Aキャピタルパートナーズ)、経験要件型(日本M&Aセンター・M&A総合研究所・fundbook)、業種特化型(M&Aベストパートナーズ) |
| 宅建の位置づけ | M&A仲介の必須資格ではない。中小M&Aガイドラインが示す担当者資格の例にも含まれない |
| 先に補うこと | 簿記・企業価値評価の基礎と、経営者やオーナーとの商談実績の言語化 |
| 別ルートの目安 | 物件そのものに関わる仕事を続けたいなら、不動産ファンド・不動産AMとも比べる |
表のうち最初に確かめたいのは「判断の軸」の行です。同じ不動産営業でも、自分で顧客との接点を作ってきたのか、問い合わせを受けて成約してきたのかで、書類で先に示す経験が変わります。
不動産営業からM&A仲介へ転職できるか
転職はできます。ただし、不動産営業の経験がどう扱われるかは、募集要項の書き方によって会社ごとに違います。
募集要項に「投資用不動産」を挙げる会社と、経験の言葉で書く会社がある
M&Aキャピタルパートナーズの「M&Aアドバイザー(企業情報部)」の募集では、必須要件は「大卒以上」に加え、金融業界(銀行・証券・保険等)の営業経験、公認会計士・弁護士の資格と営業志向、列挙された業界でのトップセールス等の経験のいずれかです。列挙された業界には、ハウスメーカー、ディベロッパー、投資用不動産が含まれます。同じ企業情報部でも、主任や課長・次長・部長として採用する募集は「経験者採用」として別にあり、IBD・FAS業界での経験かM&A仲介業界での成約実績が必須です。仕事内容は、事業承継や成長戦略のニーズを持つ企業をアウトバウンド営業で開拓し、マッチングからクロージングまで1人のアドバイザーが担う形です。
| 会社 | 必須の経験 | 歓迎する経験・その他の記載 | 不動産への言及 |
|---|---|---|---|
| M&Aキャピタルパートナーズ | 大卒以上+列挙業界のトップセールス経験など | 記載なし | 業界例に「ハウスメーカー」「ディベロッパー」「投資用不動産」 |
| 日本M&Aセンター | 新規開拓(テレアポ、DM等)、高単価商材、経営者折衝などのいずれかで高い成果 | 銀行の融資営業、証券会社の新規口座開拓など | 名指しなし |
| M&A総合研究所 | 営業経験(有形/無形、toC/toB問わず) | 中小企業オーナー向けの営業経験 | 社風欄の出身業界に「不動産」 |
| fundbook | 営業経験1年以上 | 高単価商材の営業、経営者向けの新規開拓営業 | 名指しなし |
| M&Aベストパートナーズ | 営業職で圧倒的に上位の実績をあげた方など(未経験者) | 応募資格欄に「簿記の資格や知識をお持ちの方」も並ぶ | 特化業種に「不動産」 |
5社のうち、不動産を業界名で必須要件に挙げるのは1社だけです。残りは経験の種類で書くか、出身者の在籍や特化業種として触れるにとどまります。営業経験そのものを必須とする会社もあるため、反響中心の営業や賃貸仲介の経験でも応募の入口はあります。
公的な職業情報では、前職の例に不動産は入っていない
厚生労働省の職業情報提供サイト(job tag)は、M&Aコンサルタント・M&Aアドバイザーについて「特に学歴や資格は必要とされない」としています。中途採用者がほとんどで、前職の例は銀行、証券会社、投資会社、コンサルティング会社、会計事務所、法律事務所など。不動産は前職の例にありません。資格は求められず、前職の業種も例として挙がっているだけなので、書類では、どの経験がM&Aの工程で使えるかを募集要項の経験要件の言葉で示すのが基本です。
同じページには、事前検討から実行までを一人で進められるようになるまで5〜8年かかるという記載もあります。入社後しばらくは工程を覚えながら成約を目指す期間になり、その間の収入は成約の有無に左右されやすいと考えておきましょう。
事業用物件を法人に仲介してきた人は、法人営業全般の経験として考えるより、取引相手が経営者やオーナーだったかどうかで判断すると迷いにくくなります。後述の自己チェック表では「経営者・オーナー折衝」の行で確かめてください。
募集要項も公的な職業情報も、不動産という業種名だけで応募の入口を決めてはいません。自分の実績でどの会社の必須要件を満たせるかは、これまでの成約や商談の中身を担当者に伝えると見極めやすくなります。
物件の仲介と会社の譲渡支援は、報酬と規律の決まり方が違う
物件の売買仲介で身につけた手数料や規制の感覚は、M&A仲介にはそのまま当てはまりません。取引するのは会社や事業で、手数料の上限を定める業界共通の法規制がなく、担当者に特段の資格も求められていないためです。
| 観点 | 不動産の売買仲介 | 中小M&Aの仲介 |
|---|---|---|
| 取引するもの | 宅地・建物 | 会社・事業(株式や事業の譲渡など) |
| 業を営む条件 | 国土交通大臣または都道府県知事の免許(有効期間5年) | 許可制・免許制はない。国のM&A支援機関登録制度がある |
| 手数料の決まり方 | 告示の上限額以内。物件価格1,000万円(税別)なら、依頼者の一方から受け取れる上限は39.6万円(税込) | 業界全体に共通する法規制はない。レーマン方式が広く用いられ、基準となる価額や最低手数料は仲介者ごとに異なる |
| 手数料の請求先 | 媒介を依頼した依頼者。上限は依頼者の一方から受け取れる額として定められている | 譲り渡し側・譲り受け側の双方と契約し、双方に請求するのが通常 |
| 担当者の資格 | 重要事項の説明は宅地建物取引士が行う | 特段の資格は必要とされていない |
| 取引対象の確認 | 登記された権利や法令上の制限を書面で説明する | 双方の依頼を受ける仲介者は、デューデリジェンス(DD)を自ら実施すべきでないとされる |
仲介手数料の上限と、レーマン方式・最低手数料の違い
国土交通省の計算例では、物件価格1,000万円(税別)の売買で依頼者の一方から受け取れる仲介手数料は、200万円以下の部分に5.5%、200万円超400万円以下の部分に4.4%、残りに3.3%を掛けて合計した上限39.6万円(税込)です。
中小M&Aガイドラインが紹介するレーマン方式は、基準となる価額を階層に分け、階層ごとの割合を掛けて合算する方法です。一例として5億円以下の部分に5%、5億円超10億円以下の部分に4%と続きますが、ガイドライン自身が「あくまで一例」と断っています。基準となる価額にも譲渡額・移動総資産額・純資産額といった考え方があり、最低手数料を設ける仲介者も多いと書かれています。
基準になる金額も、法規制で上限が決まっているかどうかも違うため、料率の数字だけで「M&Aのほうが稼ぎやすい」とは比べられません。アドバイザー個人の報酬は、各社の給与体系で決まります。固定給とインセンティブの配分は、後半の報酬の表で確かめてください。
宅建業の免許と、免許制のないM&A仲介を支える仕組み
宅地建物取引業を営むには、国土交通大臣または都道府県知事の免許が要り、有効期間は5年です。中小M&Aガイドラインは、不動産取引には宅地建物取引業法の規制があるのに対し、M&A専門業者にはこのような法規制がないと対比しています。仲介業務に携わるための特段の資格も必要とされていません。
その代わりにあるのが、ガイドラインの遵守を宣言した仲介者やFAが登録するM&A支援機関登録制度です。登録支援機関のデータベースでは手数料の算定基準を確認できるので、応募先の登録状況と手数料の考え方を見ておくと、入社後に顧客へ説明する中身を前もってつかめます。
宅建の知識が生きるのは、不動産DDを支える場面
中小M&Aガイドラインは、譲り渡し側と譲り受け側の双方を依頼者とする仲介者について、DDを自ら実施すべきでないとしています。DDの実施者のもとで開示資料の整理を手伝ったり、スケジュールを管理したりすることは認められています。
中小企業庁の知識スキルマップでも、不動産DDはIT、人事、環境と並ぶ「その他のDD」の一つです。不動産DDの観点としては、次のような項目が挙がっています。
- 公示価格や路線価などからの実勢価格の調査
- 権利関係の整理、契約状況や境界の確認
- 建築基準法や消防法に適合しているか(既存不適格の有無など)
- 建物の築年数と傷み具合、有害物質や土壌汚染、災害リスク
ここはリメディの見解ですが、宅建士として重要事項説明を担ってきた人は、資格名だけを書くより、登記された権利や法令上の制限を顧客に説明してきた経験として書いたほうが中身が伝わります。仲介者はDDを自ら行わないため、その知識が生きるのは、不動産を多く持つ会社の案件で論点をつかみ、開示資料の整理を支える場面です。
不動産営業の経験が評価されやすい4つの経験要件
募集要項で繰り返し出てくる経験要件は、新規開拓、高単価商材、経営者・オーナー折衝、営業成績の上位実績の4つです。前半の5社の表が各社の書き方の一覧だったのに対し、次の表は自分の経歴を当てはめるためのもので、各セルは「その経験があれば該当する」という条件を示しています。
| 経験要件 | 投資用不動産の販売 | 住宅の売買仲介 | 事業用・収益物件の売買仲介 | ハウスメーカー・ディベロッパー | 賃貸仲介 |
|---|---|---|---|---|---|
| 新規開拓(テレアポ、DM等) | 電話やDMで見込み客を自分で開拓してきたなら該当 | 売却物件の所有者へ自分から提案し、媒介契約につなげてきたなら該当 | 所有者や法人へ自分から売却・購入を提案してきたなら該当 | 問い合わせ以外の経路で商談を作ってきたなら該当 | 貸主や法人との新しい取引を自分で開拓したなら該当 |
| 高単価商材 | 扱った物件の価格帯と成約件数を数字で示せるなら該当 | 取引価格の水準と成約件数を示せるなら該当 | 取引額の水準を示せるなら該当 | 契約金額や用地の取引額を示せるなら該当 | 月額賃料より、法人契約の規模や年間の契約総額で示せるなら該当 |
| 経営者・オーナー折衝 | 会社経営者や資産を持つオーナーとの商談を自分で担ったなら該当 | 事業を営む売主・買主の意思決定に関わったなら該当 | 法人オーナーとの売却・購入の交渉を担ったなら該当 | 土地を持つ法人やオーナーと条件交渉をしたなら該当 | 物件オーナーや法人の決裁者と契約条件を交渉したなら該当 |
| 営業成績の上位実績 | 社内順位や表彰など、第三者が確かめられる形で示せるなら、どの経歴でも該当 | ||||
当てはまる行が多いほど、今の経歴のまま応募書類を組み立てやすくなります。反対に該当する行が見つからない場合でも、営業経験を必須とする会社には応募できますが、書類で示す経験を先に作るほうが安全です。
新規開拓と高単価商材は、自分で作った接点と価格帯で示す
日本M&Aセンターは応募資格の例に「新規開拓経験(テレアポ、DM等)」を挙げ、M&Aキャピタルパートナーズも譲渡を検討する企業をアウトバウンド営業で開拓すると書いています。自分で作った接点の数と、そこから成約までつないだ流れを説明できれば、この要件に正面から答えられます。
高単価商材の要件には、物件価格の水準を数字で示して応えます。社名や顧客が特定される情報は伏せ、価格帯と件数に置き換えましょう。
経営者・オーナーとの商談は、誰の意思決定を支えたかで示す
M&A総合研究所は「中小企業オーナー向けの営業経験」を、fundbookは「経営者向けの新規開拓営業」を歓迎しています。商談相手の肩書きだけを並べるより、相手が何を決めるために自分の説明を使ったのかを書くと、会社の譲渡という大きな決断を支える仕事に近い経験として伝わります。
事業用物件の売買で法人の売却判断に関わった経験や、資産を持つオーナーに購入後の資金計画を示した経験は、この行で扱えます。
応募書類の冒頭に置く経験を決める目安は、表のどの行に当てはまるかです。チームで分担して成約した大型取引や、上司に同行した経営者との商談のように、自分の貢献をどの行で示せばよいか判断しにくい経験は、担当者に中身を伝えて当てはめ先を確かめられます。
募集要項から見る不足しやすい経験
不動産営業の経験だけでは埋まりにくいのは、財務と企業価値評価の知識です。反響中心で成績を出してきた人は、自分から顧客との接点を作った実績も不足しがちです。
財務・企業価値評価の知識は、簿記から固める
M&A総合研究所の募集要項は、M&Aの仕事には営業力や交渉力に加えて「財務、税金、法律などの知識も必要」と書き、入社後1ヶ月目の研修に企業価値評価を入れています。M&Aベストパートナーズの応募資格欄にも「簿記の資格や知識をお持ちの方」が並びます。
中小M&Aガイドラインが仲介契約の前に顧客へ説明する事項として挙げる担当者の資格の例は、公認会計士、税理士、中小企業診断士、弁護士などで、会計に関する検定として簿記検定も含まれています。宅地建物取引士は例に入っていません。
応募前に簿記で貸借対照表と損益計算書の読み方を押さえておけば、入社後に企業価値評価を学ぶ土台になります。
反響中心で成績を出してきた人は、自分で接点を作った場面を用意する
job tagの「住宅・不動産営業」では、新規顧客の獲得に加えて、紹介や広告を見た顧客からの問い合わせも顧客との接点として説明されています。問い合わせ対応で成績を上げてきた人も、M&A総合研究所やfundbookが必須とする営業経験の要件は満たせます。
ここはリメディの見解ですが、アウトバウンド営業での開拓を仕事内容に書くM&Aキャピタルパートナーズや、新規開拓を応募資格に挙げる日本M&Aセンターを狙うなら、自分で接点を作った商談を1つ以上用意してから応募したほうがよいです。問い合わせからの成約だけを並べると、要件の言葉と書類がかみ合いません。
電話・DMでの開拓は、停止意思を記録する規律の中で行う
中小M&Aガイドラインは、広告・営業の相手から営業をやめてほしいという意思(停止意思)が示されたら、拒まずにただちに営業を止めるよう求めています。停止意思の内容は、組織として記録し、共有しなければなりません。
中小企業庁財務課とM&A支援機関登録制度事務局は2026年9月1日、停止意思が適切に反映されないまま広告・営業を行った登録支援機関1社に、改めて注意を出したと公表しました。あわせて、停止意思の記録基準の設定や、組織的な共有体制の構築などを求める旨を通知したとしています。公表資料では社名は明らかにされていません。
電話やDMでの開拓は、応募資格に挙がる経験です。面接で開拓の経験を話すときは、断られた相手をどう記録し、どう扱ってきたかも説明できるようにしておくと、ガイドラインの営業規律と自分の経験を結びつけて話せます。
狙いやすい応募先は3タイプに分かれる
不動産営業からの応募先は、業界名明記型、経験要件型、業種特化型の3タイプに分けて考えると、選ぶ基準がはっきりします。
| タイプ | 募集要項の例 | 向いている人 | 選考について公開されている情報 | 注意したい点 |
|---|---|---|---|---|
| 業界名明記型 | M&Aキャピタルパートナーズ | 投資用不動産・ディベロッパー・ハウスメーカーで、客観的に示せる上位実績がある人 | 面接3回(部長・社長・会食)。応募から内定まで1カ月程度を想定 | 大卒以上と、列挙業界でのトップセールス等の経験が条件 |
| 経験要件型 | 日本M&Aセンター、M&A総合研究所、fundbook | 新規開拓・高単価商材・経営者折衝のいずれかを実績で説明できる人 | M&A総合研究所は面接2〜3回と筆記試験(SPI)。fundbookは書類選考、一次選考、最終選考の順 | 業種名での優遇は書かれていないため、経験の言葉で書類を作る |
| 業種特化型 | M&Aベストパートナーズ | 上位実績に加えて、不動産会社の事業や顧客への理解を強みにしたい人 | 募集要項に選考回数の記載なし | 未経験者の応募資格は、営業職などで圧倒的に上位の実績をあげていること。研修はほぼOJTのみで、勉強は自分で進めることが求められると明記している |
業界名明記型は、名指しされていても「トップセールス」が条件
M&Aキャピタルパートナーズで投資用不動産などが挙がるのは、トップセールス等の経験を求める業界の例としてです。社内順位や表彰など、第三者が確かめられる上位実績を示せる人に向きます。仕事内容に書かれているのは、アウトバウンド営業での開拓と、クロージングまでの一貫担当です。
経験要件型は、業種名より経験の言葉で書類を組み立てる
日本M&Aセンターの募集要項では、譲渡側の案件発掘が会計事務所や金融機関の開拓とフォローから始まります。M&A総合研究所にも、税理士法人や会計事務所を開拓する会計提携部と、金融機関を開拓する金融提携部があります。紹介元を開拓してきた経験がある人は、この業務に近い経験として書けるでしょう。
業種特化型は、上位実績を前提に不動産会社の事業理解を示す
M&Aベストパートナーズは製造、建設、不動産、医療・ヘルスケア、物流、ITの6業種に特化し、DMの発送やテレコールでのアポイント取得は専属部署が担うとしています。ただし未経験者の応募資格は「営業職で圧倒的に上位の実績をあげた方」「何かに打ち込んで圧倒的な上位の実績をあげた方」で、業種への理解だけでは条件を満たしません。M&Aキャピタルパートナーズも、不動産業界のM&Aを支援する専門チームを公式サイトで紹介し、不動産仲介だけの会社が賃貸管理業をグループ化する動きに触れています。
ここはリメディの見解ですが、応募先は「不動産の名前が書かれているか」ではなく、自分の実績をどの経験要件の言葉で説明できるかで選ぶと失敗しにくくなります。客観的な上位実績があれば業界名明記型、開拓や経営者折衝を具体的に話せるなら経験要件型が合うでしょう。業種特化型も上位実績が前提で、不動産会社の事業の違いを語れることは、その実績に重ねて示す強みになります。
上位実績をまだ示せない場合は、営業経験を必須とするM&A総合研究所やfundbookが応募先の候補です。自分で作った接点や経営者との商談も示しにくいなら、後の迂回ルートの表にある「準備してから応募する」から考えてください。
各社の特徴をさらに比べたい場合は、M&A仲介会社一覧で上場企業や主要会社の違いを確認できます。
業界名明記型・経験要件型・業種特化型のどれを狙うか、あるいは準備してから応募するかの見当がついたら、次は実際の求人で応募先の候補を挙げる段階です。下のフォームでは、M&A仲介の職種と業種を指定して求人を条件から探せます。
報酬の仕組みを募集要項で比べる
M&A仲介のアドバイザーの報酬は、固定部分と成約に連動する部分の組み合わせで決まり、配分は会社ごとに違います。次の表は、2026年9月に確認した4社の募集要項から、金額ではなく仕組みの違いを並べたものです。
| 会社 | 固定部分 | 成約などに連動する部分 | 募集要項の注記 |
|---|---|---|---|
| M&Aキャピタルパートナーズ(企業情報部のM&Aアドバイザー) | 初年度最低保証年収(固定年収と、期間を限った賞与の前倒し支給) | KPIインセンティブ、M&A成約インセンティブ、決算賞与 | KPIインセンティブ・成約インセンティブ・決算賞与は保証された金額ではない |
| 日本M&Aセンター | 月給(一定時間分の時間外手当を含む)と賞与 | 上限のないインセンティブ | 想定初年度年収はレンジで示され、前職の給与水準や職務経験を考慮する |
| M&A総合研究所 | 未経験者・経験者とも、みなし残業と深夜残業の時間分を含む | 成約祝金(1件目・2件目の成約時)と、上限のない成約インセンティブ | 未経験者は金額を明示し、経験者はこれまでの実績に応じて相談 |
| fundbook | 前職の給与・実績などを考慮して相談 | 別途インセンティブ制度 | 金額の記載なし |
同じ会社の中でも、成約やKPIの結果によって年収は変わります。M&Aキャピタルパートナーズの募集要項は、KPIインセンティブ・成約インセンティブ・決算賞与を保証された金額ではないとしています。募集要項には年収実績として平均と中央値が載っています。対象は在籍1年超のアドバイザーで、期間は2025年9月期です。在籍期間の短いアドバイザーや成約前のアドバイザーに絞った実績は載っていません。
固定部分だけで見ると、今の年収より下がる場合もあります。応募前に、現職の年収のうち歩合やインセンティブが占める割合を確かめ、成約までの期間を固定部分だけで暮らせるか計算しておくと安心です。
入社時の条件にも確認点があります。M&Aキャピタルパートナーズの初年度最低保証年収は、固定年収と賞与の前倒し支給を合わせた額です。前倒し支給は期間が限られ、途中で支給額が下がると書かれています。前倒し支給が終わった後の固定部分は、面談で確かめておきましょう。
年収の水準そのものは、仲介大手の平均年収と役職・在籍年数別のレンジをまとめたM&A業界の年収記事で確認できます。
直接応募が難しい場合の迂回ルート
今の経歴で応募するか、準備を挟むか、不動産ファンド・不動産AMへ進むかは、次の表の「当てはまる経歴」の列で決めると判断がぶれにくくなります。
| 選ぶルート | 当てはまる経歴 | 狙う職種 | 狙う企業タイプ | 足りない経験 | 書類・面接での見せ方 |
|---|---|---|---|---|---|
| 今応募する | 投資用不動産・ディベロッパー・ハウスメーカーでの上位実績、または新規開拓や経営者折衝を実績で示せる | M&A仲介のアドバイザー | 業界名明記型・経験要件型 | 財務・企業価値評価の基礎 | 経験要件の言葉で実績を書き、簿記などの学習状況を添える |
| 準備してから応募する | 反響中心や賃貸仲介などで、自分で作った接点や経営者との商談を示しにくい | M&A仲介のアドバイザー | 経験要件型(営業経験を必須とする会社) | 自分で作った接点の実績、経営者向けの商談、簿記 | 準備期間に積んだ実績と学習内容を時系列で示す |
| 不動産ファンド・不動産AMへ切り替える | 会社の譲渡より、物件そのものに関わる仕事を続けたい | 不動産ファンド・不動産AMの職種 | 不動産ファンド・AM会社 | 応募先の募集要項で職種ごとに確認する | 下の2つの記事で、職種ごとの選考を確認する |
準備してから応募する場合は、簿記と経営者向けの実績を先に作る
準備期間に取り組むのは、簿記で決算書を読む基礎を固めることと、今の職場で自分から接点を作った商談や経営者・オーナーとの商談を1件ずつ積むことです。未経験からのM&A転職で有利になる経験や採用の状況は、M&A転職は未経験でも可能かを解説した記事で確認できます。
物件そのものに関わりたいなら、不動産ファンド・不動産AMも比べる
job tagはM&Aの仕事を、対象企業・事業の選定から交渉、契約締結までを進める仕事と説明しています。知識スキルマップでも、不動産DDは複数あるDD領域の一つにすぎません。会社の行き先を経営者と一緒に考える仕事に関心があるならM&A仲介が近く、物件そのものに関わる仕事を続けたいなら、不動産ファンドや不動産AMへの転職も候補に入ります。
分岐先の選考や求人の傾向は、不動産ファンドに転職するための求人・選考・年収の解説と、不動産仲介から不動産AMへ転職するルートの解説で比べられるので、あわせて確認してください。
職務経歴書で前面に出す実績
職務経歴書は、募集要項の経験要件の順に実績を並べ替えると、不動産の経験がM&Aのどの仕事で使えるかが読み手にまっすぐ伝わります。
募集要項の経験要件から、書く項目を決める
| 募集要項で求められる経験 | 職務経歴書で書く項目 | 成果の示し方 | 避けたい表現 | 直し方 |
|---|---|---|---|---|
| 新規開拓(テレアポ、DM等) | 接点を作った方法と対象、商談にするまでの流れ | 開拓した件数と、そこからの成約件数 | 「新規開拓が得意」 | 自分で作った接点の件数と、成約までの流れを書く |
| 高単価商材 | 扱った物件の種類と価格帯 | 取引価格の水準、年間の成約件数 | 「高額物件を多数担当」 | 価格帯と件数を数字で書き、顧客が特定される情報は伏せる |
| 経営者・オーナー折衝 | 商談相手の立場、相手が決めたこと、自分の役割 | 担当した商談の数、継続取引や紹介の有無 | 「経営者と信頼関係を築いた」 | 相手が何を決めるために自分の説明を使ったかを書く |
| 営業成績の上位実績 | 評価期間、比べた範囲、順位や表彰 | 社内順位、表彰名、目標に対する達成状況 | 「常にトップクラス」 | 期間と比べた人数を添え、第三者が確かめられる形にする |
抽象的な書き方を、経験要件の言葉に直す
次の例の「○」は形式を示すための記号で、実際には自分の実績に置き換えて書きます。架空の成果を足したり、確かめられない数字を盛ったりすると、面接の深掘りで説明が続かなくなるからです。
| 経歴 | Before | After |
|---|---|---|
| 投資用不動産の販売 | 投資用不動産の営業として、多くのお客様と信頼関係を築き、高い成績を残しました。 | 電話とDMで見込み客を自分で開拓し、商談から契約まで一人で担当。○年度は価格帯○万〜○万円の物件を○件成約し、社内○名中○位。購入者には会社経営者も含まれ、購入後の資金計画を示して判断を支えた。 |
| 住宅の売買仲介(問い合わせ中心) | 住宅の売買仲介で、お客様のニーズに合わせた提案をしてきました。 | 問い合わせ経由の売却相談で、所有者に売り出し価格の根拠を説明し、媒介契約から引き渡しまで担当。年○件の相談のうち○件を成約。うち○件は自分から既存顧客へ連絡して得た紹介案件。 |
面接で伝える転職理由の組み立て方
転職理由は「これまでの経験」「M&Aで生きる経験」「足りない経験の補い方」の3段で組み立てると、前職を下げずに話せます。
3段に分けて話す内容を決める
| 段 | 話す内容 | 不動産営業からの例 | 避けたい言い方 |
|---|---|---|---|
| これまでの経験 | 扱った取引と自分の役割 | 投資用不動産の購入者に資金計画を示し、判断を支えてきた | 「今の会社では成長できない」 |
| M&Aで生きる経験 | 募集要項の経験要件と重なる部分 | 自分で開拓した接点を成約までつないだ経験、経営者やオーナーとの商談 | 「営業力には自信がある」だけで終える |
| 足りない経験の補い方 | 学習と実務での準備 | 簿記の学習、中小M&Aガイドラインで手数料や営業規律の考え方を学んだこと | 「入社してから勉強します」 |
「なぜ不動産ではなく会社の譲渡か」は、仕組みの違いを踏まえて答える
これまでの物件の仲介は、宅地建物取引業法の免許と告示の上限額の中で取引をまとめる仕事です。M&A仲介は、譲り渡し側と譲り受け側の双方と契約し、会社の譲渡という意思決定を成約まで支える仕事です。
この違いを踏まえて「経営者の判断を支える範囲を、物件から会社全体へ広げたい」と組み立てると、報酬の高さだけを理由にした説明になりにくくなります。インセンティブへの関心を隠す必要はありません。固定部分と成約インセンティブの配分を理解していることも、あわせて伝えましょう。
今応募する人・準備してから動く人
今応募してよいのは、経験要件のどれかを実績で示せて、成約による年収の変動を受け入れられる人です。
報酬の節で見たとおり、成約に連動するインセンティブは保証されず、成約がない時期はその分の年収を見込めません。この変動を受け入れ、会社の譲渡という判断に経営者と向き合いたい人なら、今の実績を持って応募する価値があります。
一方、毎月の収入の安定を最優先する人や、物件そのものの取引に関わり続けたい人は、M&A仲介に応募する前に別の選択肢と比べたほうがよいでしょう。
応募を決める前に、面談では次の質問を確認しておくと判断材料がそろいます。
- 不採用だった場合の再応募は、何年後から可能ですか
- 応募から内定までは、どのくらいの期間を想定していますか
- 入社後は、直接開拓の部署と提携先経由の部署のどちらに配属されますか
- 入社1年目の固定給と成約インセンティブの配分はどうなりますか
働き方の負荷が気になる場合は、M&A業界の仕事の負荷と転職のメリットを解説した記事も参考になります。
不動産営業からM&A仲介を目指す人の相談ポイント
募集要項と自分の実績を突き合わせる作業は、自分で進められる部分と、公開情報だけでは決めにくい部分に分かれます。
自分で進めてよいケース
- 自己チェック表で当てはまる行がはっきりしていて、応募先のタイプも決まっている
- 職務経歴書に、価格帯・件数・順位を自分の実績として書ける
- 簿記の学習など、足りない経験を補う計画を立てられている
この場合は、まず自分で各社の募集要項を読み込み、応募書類を作ってから判断して問題ありません。
相談したほうが早いケース
- 反響中心や賃貸仲介の経験を、どの経験要件に当てはめるか迷っている
- 業界名明記型と経験要件型のどちらに出すか決められない
- M&A仲介と不動産ファンド・不動産AMのどちらに進むかで迷っている
- 固定給が下がる場合の生活設計を、応募先ごとに比べたい
ここに挙げた迷いは、自分の実績と応募先の条件を並べて比べないと答えを出しにくいものです。下からM&A仲介領域の担当者を選ぶと、経歴に合う応募先と書類の方向性を面談で確かめられます。リメディは日本M&Aセンターの「ベストリクルーティングパートナー AWARD 2023」を受賞しています。
不動産営業からM&A仲介への転職でよくある質問
宅建はM&A仲介の仕事で役立ちますか?
必須の資格ではありません。job tagはM&Aコンサルタント・アドバイザーに特に資格は要らないとし、中小M&Aガイドラインの担当者資格の例にも宅建士は入っていません。不動産を多く持つ会社の案件で、権利関係や法令上の制限の論点をつかむ場面では知識を生かせます。
反響営業中心でも応募できますか?
応募は可能です。M&A総合研究所は営業経験、fundbookは営業経験1年以上を必須としています。新規開拓を応募資格に挙げる会社を狙う場合は、自分から接点を作った商談を用意してから出すと、書類が要件とかみ合います。
賃貸仲介の経験でもM&A仲介を目指せますか?
営業経験を必須とする会社には応募できます。物件オーナーや法人の決裁者との条件交渉、法人との新しい取引の開拓など、経営者・オーナー折衝や新規開拓に当てはまる経験を探して書くことが出発点です。
簿記は取ってから応募したほうがよいですか?
取得を待たなくても応募はできます。今回確認した5社の募集要項で簿記に触れているのは、M&Aベストパートナーズの応募資格欄だけです。一方でM&A総合研究所は、M&Aの仕事には財務・税金・法律などの知識も必要と書いています。学習を始めたうえで、その状況を書類に添える方法もあります。
M&A仲介と不動産ファンド・不動産AMは、どう選べばよいですか?
まず両方の募集要項で必須経験を並べ、今の実績がより多く当てはまる側から応募を考えてください。そのうえで、関わりたいのが会社の譲渡(M&A仲介)か物件(不動産ファンド・不動産AM)かで絞り込みます。
関連記事
次に読むべき記事は、準備してから応募するなら未経験からのM&A転職、応募先を比べるならM&A仲介会社一覧です。

